一晩寝たらエスパーだったおじさんです。

妻夫木兎月

プロローグ

「君は全く何をやってるんだ!45にもなって営業の一本も勝ち取れないのか!」

「すみません。次こそはとってきます」

俺は小寺おでら三晟みあき45歳。スーパーアカデミックス株式会社、通称SACサックの社員だ。営業部に所属しているが、営業が全く取れない。SACは『この世の理想を当たり前に』を会社の目標にいろいろな取り組みを行っている。

「まぁた、勝野部長に怒られてたんすか?おじさんも大変すね」

こいつは、俺の部下の有間川ありまがわ巧翔たくと。おじさんというのは俺のあだ名で小寺三晟をさん晟と呼んでこうなった。

「ったく、俺にばっか取りにくい営業にばっか行かせやがる」

「この間は一日で中小を10件でしたっけ?」

「ああ、10件ならざらにやったことはあるが、アポを取ったらあっちこっち行ったり来たりで3件は時間に間に合わなくて取り消されたよ」

「大変っすね」

俺は有間川の『大変っすね』がはっきり言って他人事過ぎて嫌いだ。

「ってか、勝野のじいさんもそろそろ終わりかねぇ」

「え?」

「不倫疑惑に、部下連れてキャバクラに行ったり、最近は週2で遅刻だそうだ」

「ガチすか?キャバクラは社の規定で行ってはならないことになっているし、遅刻週2が3週続いたら平社員は解雇、課長以上は減給か降格ですよね?」

「ああ、社長室には何度も呼ばれているようだ。まああと、3年もすれば定年なんだから、降格通り過ぎて解雇じゃねえか?」

「じゃあ次の部長は?」

「1課課長の甘利か、3課課長の須田野、4課課長の俺のどれかだろうな」

SACの営業部はまるで警察のように1課から4課まである。

1課は2課から4課がとってきた営業の取りまとめ。2課は、優れた技術を持つ町工場の営業。3課は、個人に対する営業。4課は共同経営社や中小企業の営業、子会社の営業指導。内容を見ればわかるかもしれないが、1課と4課の影響力が強い。2課から4課の中でも4課は圧倒的に営業をとる件数が多い。

「じゃあ立場的におじさんがつぎの部長すか?」

「だといいな」


部長への道筋は見え、やっとパワハラから解放されるかと思われたが…。

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