第24話 甘酸っぱい幼馴染

 ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。

 襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。

 帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。

 それを着ているのは茶色の芝犬。

 口にはちょっと欠けた星飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。


 芝犬魔女ウィッチのメメさん。

 メメさんの仕事は困っている人を助けること。

 今日も困っている人がいないか散歩パトロールしているぞ。


 今日は川沿いの道をトテトテ。

 ポカポカお日様。赤青黄色と綺麗なお花が咲いています。

 フワフワっとタンポポの綿毛もメメさんにじゃれつきます。


 メメさんも綿毛が気になる様子。パクッと綿毛に食い付きます。しかししかし、そう簡単に食べられる綿毛さんではありません。持ち前の身の軽さでヒラリヒラリ。メメさんの口撃をかわします。


 パクッ、ヒラリ。パクッ、ヒラリ。

 見事な攻防です。まるでメメさんと綿毛がダンスを踊っているよう。クルリ、クルリ。ピョン、ピョン。


「クシュン!! クシュン!!」


 あーっと、綿毛がメメさんのお鼻にくすぐり攻撃だ!! 

 メメさんが息を吸った瞬間を見逃さなかったー。

 これにはメメさんも大慌て、地面に蹲って鼻をカキカキしています。


 カンカンカーン、これにて試合終了です。一発KOで綿毛さんの勝利です。


「どーしたん? あー、コレか」

 そう言って、通りすがりの女学生がメメさんの鼻から綿毛を取ってくれました。

 そして、ついでと言わんばかりにメメさんのホッペちゃんをワシャワシャします。


「めっちゃフワフワ。トシ君も触ってみ」

 女学生は少し離れて見ている、同年代の男子学生に話しかけます。

「俺はいいよ」

「なんでー。メッチャ可愛いのに」

「ほら、うちクロがいるから」

「あー、確かに。よその子の匂いつけてきたらクロちゃん嫉妬しちゃうか」

「そうそう。あのさ……久々にクロに会いに来る?」

「なになに。女の子をおうちに誘うの? だいたーん」

「ちっ、ちげーし。ただサツキがクロに会いたいかなと思って……」

 トシ君と呼ばれた男子学生は顔を赤くして、しどろもどろです。

「ふーん、そう言うことにしてあげますか」

 女学生もといサツキちゃんはニヤニヤです。良いですね。青春ですか? 青春ですよね!!


 サツキちゃんはカバンを拾い上げ歩き出します。

「何してるの? 早く行こうよ。クロちゃんに会わせてくれるんでしょ」

 少しだけ振り向いて言います。トシ君は慌ててその背中を追いかけます。


 二人で歩く道。少し日が傾いて長い二つの影ができます。

「クロちゃんに会うのも久しぶりだなー」

「そうだな。小学校以来か?」

「かもねー。おばさんにも挨拶しなきゃ」

「ん、お母さんは仕事でいないよ」

「えっ、じゃあ二人っきり?」


「——あー、うん……」

 トシ君は目をそらしながら答えます。


「えっちだー!! 誰もいない家に女の子誘うなんて、トシ君えっちだー」

サツキちゃんはトシ君の脇腹をツンツンします。

「ちょっ、やめろよ。そんなつもりじゃないって!!」

「えーっ、ほんとにー?」

 サツキちゃんは少し上目遣いでトシ君を見ます。

「本当だって。なんなら来るのやめるか!!?」

 トシ君は少しムキになっている様です。


「むー、それはずるい。トシ君は私に家に来てほしくないの!!?」

 頬を膨らませて、プンプクリンです!! メッチャ睨んでます。

 トシ君は視線に耐えられず目が泳いでいます。

「いや、えーっと……来てほしいです……」

「なんか不満げ……」

「すごく来てほしいです!!」

 言い切りました!! これにはサツキちゃんもニッコリ。

「よろしい。行ってしんぜよう」

 どこかの武士のような返答をします。


 トシ君は尻にしかれるタイプですね。久々に青春を感じれて私は満足です。

 メメさん!! もちろんあの二人の幸福を願って魔法のステッキを振ってくれますよね?

 あれ? 

 メメさんはまだ綿毛に夢中。第二ラウンドの真っ最中でした。


 ツバ広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口にはちょっと欠けた星飾りの魔法のステッキ。

 芝犬魔女ウィッチのメメさんは綿毛に夢中だ。

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芝犬ウィッチ @syu_dd

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