第23話 ワクワクの通学路
ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。
襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。
帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。
それを着ているのは茶色の芝犬。
口にはちょっと欠けた星飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。
芝犬
メメさんの仕事は困っている人を助けること。
今日も困っている人がいないか
春うららか、風ビューンビューン。
暖かくなったり、寒くなったり。今日は暖かい日です。
でも、風が強くてメメさんのお毛々が風に煽られあっちこっち。いつもよりワイルドな毛並みになっています。
「あんた少しは落ち着きなさい、みっともない」
「落ち着いているだろうが!!」
「どこがだい。まったく。さっきから、店先をウロウロしてからに」
「うるせぇなぁ……」
いつもの商店街の八百屋夫婦が何やら言い合いをしています。
「佐奈はしっかりしてるんだから、ちゃんと一人で小学校まで行けるよ」
「でも、あの大通りとか車がビュンビュン走っているんだぜ」
「あそこは旗振りの人もいるし平気でしょうに。それに一人で登校し始めてもう三日目よ。毎日毎日良く飽きないわね」
「お前なぁ、そんな言い方はねぇだろう」
どうやら今年から小学校に上がった娘さんが無事に登校出来ているか心配しているようです。
「ワン!!」
メメさん!! やる気ですね。当然私も同行しますよ!! 佐奈ちゃんの安全は私たちが守る!! 佐奈ちゃんの登校を見守る会の発足です!!
早速メメさんは駆け出しました。佐奈ちゃんが家を出たのは数分前。メメさんの足なら余裕で追いつけます。
——タタッ、タタッ
早速トコトコと歩く佐奈ちゃんを発見。周りには同じく登校している小学生がちらほら。付いて行けば道を間違えることはなさそうです。
距離を空けてメメさんも付いていきます。
——トコトコ、トテトテ。 トコトコ、トテトテ
完璧な見守りです。流石は一流の芝犬
お父さんが心配していた大通りです。ちゃんと赤信号で止まれてて偉い。
青信号になり、無事に横断歩道を渡り終えます。お父さん、佐奈ちゃんはしっかりしてますよ。心配しなくても大丈夫ですよ。
大通りを渡れば小学校まであと少し。同じように登校している子達が増えています。
いくらメメさんの一流の見守り技術を持ってしても、周りのお子様達からは姿を隠せていません。
「ワンちゃんだ」、「かわいいー」、「触っても良いのかなー」とメメさんを遠巻きに見ています。
次第に近づく子が現れ、立ち所に取り囲まれてしまいました。
キョロキョロ。メメさんは左右に顔を忙しなく動かします。可哀想に尾っぽが怯えて下がっています。
メメさん大ピンチです!!
「あっ、ポチちゃんだ」
騒ぎに気付いた佐奈ちゃんが人垣の隙間から声をかけてきました。
救世主です。メメさんも佐奈ちゃんの顔を見てホッとした表情になりました。
「佐奈ちゃんこの子知ってるの?」
「うん、うちの商店街によく来ている子だよ」
「触っても良いー」
「優しくすれば、大丈夫だと思うよ」
それを聞いてお友達はそっとメメさんに手を伸ばします。
こうなればお手の物。メメさんは触りやすいよう顎を少し持ち上げ首筋を提供します。
お友達はメメさんの首筋をそっと撫でます。それを見守る佐奈ちゃん。そして周りの小学生達。
「フワフワしてるー」
その声を皮切りに「俺も」、「私も」と周りの小学生達が手を伸ばしてきます。
アワアワワ、またもやメメさん大ピンチ。今度こそメメさんは小学生の餌食になってしまうのか!!?
「ダメだよ!! そんなに一気にいったら!! 一人ずつだよ」
救世主再びです。メメさんを守るように小学生の群れに立ちはだかる佐奈ちゃん。
すごいです。かっこいいです。もう佐奈ちゃんから後光が差しているように見えます。天使の私もオプションとして周りで飛び回りたくなります。そのくらいの神々しさを佐奈ちゃんが放っています。
「可愛かったー」、「フワフワだったー」と評判は上々です。これにはメメさんも誇らしげです。
——キーンコーンカーンコーン
「あっ、ヤベッ遅刻だ!!」
みんな学校へ駆け出していきます。
そんな中、佐奈ちゃんは振り返り「じゃあね。ポチちゃん」と言って手を振ります。
全く、出来た子です。でも、メメさんですよ。ポチじゃありません。
メメさんは急いで学校へ向かっていく佐奈ちゃんと小学生達の背中を見守ります。
そして魔法のステッキを一振り。
どんな願いが込められたのでしょう。
佐奈ちゃんが学校で楽しく過ごせるようにでしょうか。それとも怪我なく過ごせるようにでしょうか。
どんな願いが込められていたにせよ。佐奈ちゃんなら友達を沢山作って楽しい学校生活を送れるでしょう。
ツバ広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口にはちょっと欠けた星飾りの魔法のステッキ。
芝犬
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