旗屋敷

うさだるま

旗屋敷

8月上旬。ピーカン照りの中。俺たちも大学が夏休みに入り、普段の疲れのリフレッシュでもと、山へハイキングに来ていた。

最初は四沢と俺だけで来るつもりだったんだけど、まあ男二人で山登りなんてのもなんだしという事で、仲のいい女子二人も誘った。

返事はなんとOK!これはかなりテンション上がるだろ!

、、、個人的に構内のマドンナと評される二宮と一緒に旅行にこれたのは本当に運が良かった。

山の麓にはいい旅館もとってあるし、これは素晴らしい旅行になるぞ!

もしかすると、二宮と進展があったりなんかしちゃったり?


三谷「なぁ。一ノ瀬。想像に耽ってるとこ悪いけどよ。」

一ノ瀬「ん?どうした?三谷さん」

三谷「なんか雲行きあやしくね?」

一ノ瀬「え?」


、、、俺は本当に運が悪いかもしれない。

最初、小さかった黒雲は徐々に大きくなっていき、次第に土砂降りの雨を降らし始めた。

今は大体、山の中腹辺りで無理に降りるのも危ない。

あーあ。せっかくのハイキングなのに!

雨宿りする所と見つからないし、天気だけじゃなく、みんなの顔も曇り始めてる。って言ってる場合じゃないか。取り敢えず雨風が凌げればそれでいい。頼む!見つかってくれ!

そんな中。四沢が突然指を指す。


四沢「い、一ノ瀬くん!あ、あれって!」

一ノ瀬「あれは、、、お屋敷?」


俺たちが山の中腹で見つけたのは、日本では珍しい洋風のお屋敷だった。壁には蔦が生い茂り、窓枠の下は黒い水垢で汚れている。古屋敷といった感じだろうか。

近づいてみると、この屋敷の大きさに驚かれされる。汚れているから気づかなかったが、作られた当時はかなりの豪邸だったんじゃないだろうか。申し訳ないが、雨が止むまで雨宿りをさせてもらおう。

俺はインターホンを鳴らして了承を得ようとした。

ピンポーン。インターホンの音が小さく聞こえる。


二宮「あれ、誰もいないのかな。」


ピンポーン。

やはり返事がない。


一ノ瀬「うーん。困ったな。」

三谷「おい、一ノ瀬。見てみろ。」

一ノ瀬「ん?」

三谷「ホレ。」


三谷がドアを引っ張るとギギギと音を立てて、ドアが開いた。


一ノ瀬「おお!開いてんだ!」

三谷「そうみたいだな。」

一ノ瀬「家主さんもいないし、取り敢えずお借りするか。」

二宮「あとで一緒に謝ろうね?一ノ瀬君。」

一ノ瀬「ハハッ、分かってるよ。二宮。」


俺たちはそんな談笑しながら、屋敷に踏み入れてしまった。


一ノ瀬「いやーしかし、ふられたなぁ」

二宮「まさかいきなり雨がふるとはね」

三谷「天気予報は晴れって言ってたのにな。天気予報なんてもうゼッテー信じねー」


屋敷内は上品な雰囲気が漂う美しい作りで、こういうのがバロック様式というのだろうかと思った。床には赤い絨毯が。高い天井にはシャンデリアが。といった様子で外の古ぼけた見た目から一変して、勢いすら感じる荘厳さである。

そんな中で持ってきたタオルで身体を軽く拭いていると四沢が不安そうに話し始める。


四沢「ね、ねぇ、、、よ、良かったのかなぁ」

二宮「何が?」

四沢「だ、だからさ。ここ勝手に入ってよかったの?」

三谷「しゃーねーだろ?何回よんでもこねーんだからさ」

四沢「そ、そんなもんかな、、、」

二宮「そうだよ。四沢君って心配症なんだね。」

一ノ瀬「しかしさ、こんな広いお屋敷なのに執事さんとかメイドさんとかもいないんだね。」

二宮「ねー掃除とかどうすんだろうね」


そんな風に話をしていると、三谷が急にこんな事を言い出す。


三谷「なんか腹減ってきたな。ちょっとばかし拝借させてもらうか。」

四沢「さ、さすがにそれは、ダメだよぉ!」


三谷は、止めに入った四沢を連れて、キッチンを探しに探索に言ってしまった。

屋敷のホールには、俺と二宮だけ。


一ノ瀬「ねぇ、二宮。俺さ。ちょっと悲しいんだよね。せっかくひさしぶりにどこか行こうって言ってさ。こんな遠くの山までハイキングしにきたっていうのにさ。まさかの雨かぁ」

二宮「ねぇー。綺麗な景色みたりとかしたかったなぁ」

一ノ瀬「まあ残念だったけどさ。仮に夜まで止まなくてもトランプとかここでできるんじゃないか?」

二宮「いやいや恋バナじゃない?」

一ノ瀬「ハハッ!この歳で恋バナかよ」

二宮「そんな事いったらトランプもじゃん」

一ノ瀬「おいおい知らないのか?トランプはなぁ古代中国から伝わる伝統的な遊びなんだぞ?」

二宮「そんなこと言ったら恋バナは人間が生まれた時には出来てまーす」

一ノ瀬「なんの根拠があって言ってんだよ」

二宮「そういう一ノ瀬君こそそうじゃん」


「うわぁぁぁぁーーーー!!」


俺たちが下らない言い合いをしていると、屋敷の奥から叫び声が聞こえてくる。これは、三谷と四沢の声だ!


一ノ瀬「二宮!行こう!」

二宮「うん!」


俺たちが叫び声のした方向に走って向かうとすぐに三谷と四沢を見つける事ができた。四谷はふるえて、声がいつもよりも上擦っている。


一ノ瀬「どうした!大丈夫か!」

四沢「ひ、ひ、人が!!!」

一ノ瀬「え?人?人が居たの?」

三谷「、、、いたにはいたんだがな。おそらく、死んでる。」

二宮「どういうこと?」

四沢「ご飯を探しにね、台所に行ったんだけどね、、、真っ暗だったから電気をつけたんだよ。そしたら奥に人影があってね、近づいたら男の人が倒れてたんだよぉ」

一ノ瀬「何だって?!」


俺がキッチンに入り中を確認すると、中年の男性が白目を剥いて倒れている。顔は白く、生気を感じられない。触れてみると、温度も無機物かのような冷たさだ。臭いも酷い。


一ノ瀬「救急車呼ぶか?」

三谷「冷たかったし、臭いも凄かったから生きてはないだろうな。」

一ノ瀬「警察は?」

二宮「さっき携帯見たら圏外だったよ。」

一ノ瀬「、、、そうか。」

三谷「なんか、ここ、不気味だな、、、嫌なんだけど。ここから出て他の所へ移動するのは、どうだ?」

四宮「ほ、外は大雨で今外行くのは危ないよ。雨もどんどん強くなってきてるし、、、」


キッチンに沈黙が訪れ、雨の音だけが響く。


三谷「あっそうだこれ」

二宮「ん?」

三谷「死体の近くにあった変な紙。」

一ノ瀬「なになに?」


三谷が握っていたのは、何かの紙の切れ端だった。そこには赤い文字でこう書かれている。


「この屋敷は旗屋敷。この屋敷は呪いの屋敷。

この屋敷からは逃げられない。たてた旗は取らねばならぬ」


一ノ瀬「なんだこれ?ダイイングメッセージ?」

二宮「うわー不気味、、旗ってなんのことだろう?」

三谷「でも旗屋敷って何かダサくね?もっとこう良い名前あったろ」

四沢「そ、そんな事言ってると、呪わちゃうかもしれないよぉ、ヒィィ、、、」

三谷「しっかりしろよ。四沢。頼りねぇな」

一ノ瀬「死体はどうする?」

三谷「ほっとくしかないだろ」

二宮「まだ殺した犯人いるかもよ?」

一ノ瀬「いやぁ、どうだろう。死体の感じも古いみたいだし。」

二宮「でも、私達みたいに勝手にくつろいでたら?ここには人も来ないだろうし。」

三谷「そんなわけ、、、」


ガタンッ!急にどこかで物が落ちたような音が聞こえる。

また静寂が辺りを包む。


一ノ瀬「、、、今の、何?」

三谷「、、、さあ。」

四沢「あ、あぁぁぁ!!!怖い!!!!」

一ノ瀬「四沢?おいどうしたんだよ。落ち着けよ。」

四沢「なんで、なんでこんな怖い目に遭っているんだ!そもそも、僕らは楽しいハイキングに来たはずじゃないのか?!こんなことなら来なきゃ良かったんだ!」

二宮「四沢君!言い過ぎだよ!」

四沢「黙ってくれ!二宮さん!、、、君だって容疑者の一人なんだぞ!」

三谷「いやいや私ら来たばかりだし、死体だってなんて言うか古い感じだっただろ?」

二宮「そうだよ。それにずっと一ノ瀬君と一緒にいたし!」

四沢「そんなの一ノ瀬くんと一緒に殺したら関係ないじゃないか!!!!」


四沢はあまりの恐怖で正気を失っているように見える。


一ノ瀬「パニックになりすぎだ。少し落ち着けって」

四沢「うるさい!こんなところにいられるか!僕は一人で居させてもらう!」

一ノ瀬「待てって!」

四沢「ついてくるな!次会った時は敵だからな!いいな!」


四沢はそういうと、どこか屋敷の奥へ進んでいってしまった。


三谷「あいつ良い奴なのに怖いのが極端に苦手だからな。すまんな二宮」

二宮「だいじょうぶ。けど四沢君は?」

一ノ瀬「四沢は?ってどういう意味?」

二宮「まだ犯人がいるかも知れないじゃん」

一ノ瀬「ああ、そうか。まあないだろうけど、四沢が落ち着いた頃に見に行ってみるよ」

三谷「一人じゃ危ないだろ、私もついてくわ」

一ノ瀬「ああ、ありがとな。」


「ぎゃあああああああああああ!!!!!!」


急に空気を切るような悲鳴が響く。

これは、この声は!


一ノ瀬「四沢の声だ!」

二宮「本当に犯人がまだいたのかも!」

四沢「助けてくれーーーーーー!!!!!」

三谷「待ってろ!今行く!」

一ノ瀬「おい!一人で行くな!」


駆け出した三谷に皆ついていくように走り出す。

三人が悲鳴がした付近に到着すると、そこには血溜まりと、四沢の被っていた帽子が落ちていた。


三谷「これ、、、四沢の帽子だ、、、」

二宮「まさか本当に、もう、、、」

???「やはり死にましたか」


コツリ、コツリと足音を立てて誰かがやってくる。姿を見てみると、スーツをきた年寄りがそこには居た。


一ノ瀬「誰だ!」

???「そんなに怖がらなくてもいいじゃあありませんか」(ニヤニヤ)

三谷「おい!誰だって聞いてんだよ!気持ち悪りーな!」

???「おっと申し遅れました。私この屋敷を管理している、瀬崎と申します」(ニヤニヤ)

一ノ瀬「管理人?おかしくないか?さっきインターホンを何回もならしたのになぁ?」

二宮「管理人だの何だの言って、あなたが四沢君を殺してどっかに連れてったんじゃないでしょうね?!」

瀬崎「待ってくださいよ。その、四沢さん?はこんな血溜まりのできる殺し方をされている。そんな血が出る殺し方をしたら、今着ているこの服はベッタベタなはずじゃあないですか?」

二宮「確かに、それもそうか」

瀬崎「私はこの屋敷の呪いについてあなた方に教えに来たのです」

一ノ瀬「呪いって、、、さっきのこの紙の旗?とかいうやつ?」

瀬崎「はい。そうでございます。心してお聞きください。」


そういうと瀬崎はいかにも真剣に話しているぞ。と言わんばかりの顔でこう言った。


瀬崎「この呪いは漫画とかゲームとかでいうフラグを必ず回収する屋敷なのです!」

一ノ瀬「、、、は?」

三谷「テメーッ!ふざけた事いってんじゃねーぞ!!四沢が!四沢が死んでいるかも知んねえんだぞ!そんなんで四沢がこんなめにあったって言うのかよ?!あ?!」


そういうと三谷は瀬崎の胸ぐらを掴み、血に濡れた帽子を見せる。


瀬崎「落ち着いて下さいよ。その四沢さんが死んでしまう前になんかおっしゃっていられませんでした?」

一ノ瀬「あっ。「こんなとこにいられるか!俺は一人で行く」って」

瀬崎「はい。それですね。そんなベタな死亡フラグ今時、なかなかありませんよ」(ニヤニヤ)

三谷「そんなんで、あいつは、四沢は死んだのか?」

瀬崎「おそらく、いや、確実にそうでしょうね。」

一ノ瀬「なんでその事を教えてくれるんですか?」

瀬崎「私もですね?最近、上に言われて、ここの管理人になったんですが、呼んだ掃除会社の方や、使用人として来てくれた方がですね?バタバタ死んでしまうのなんので大変でしてねぇ。ご存知の通り、ここは携帯も繋がらないし、救急車もこない。なんなら死体の処理すら出来ないお化け屋敷になっている有様。仕方がないのでいらっしゃったら方には前の管理人に教えてもらったことを教えてるだけですよ。まあ皆さん信じてはくれませんがね」

二宮「確かにしんじられない」

瀬崎「おっと言い忘れてましたがフラグを言いたくなる呪いもありますのでお気をつけて下さいね?では」


そう言うと、瀬崎は何処かへ帰っていってしまった。


三谷「、、、あいつがそんなんで死ぬなんて、信じられない!私は四沢に友人代表スピーチにでてもらう約束もしていた。一緒に遊びに行く約束もしていたんだ!約束、していたはずだったのに、、、ハァー、、、飲み物とってくる」

一ノ瀬「ん?友人代表スピーチ?」

三谷「あぁ言ってなかったっけ?私、帰ったら結婚するんだよ。元サークルの先輩とな。」

一ノ瀬「え!知らんかった!おめでとう!」

三谷「ああ。お前も来いよ?」

一ノ瀬「もちろん!」


三谷は飲み物を取りに一人でキッチンに戻っていく。


一ノ瀬「いやぁ、三谷が結婚か。あの男勝りの女が、、、しんみりするものがあるなぁ。、、、ん?結婚?、、、お前!それって!」


既に三谷の姿は見えない。


ウワァァァァァァァァァァァ!!!!!!

三谷の声だ。


二宮「三谷ちゃん?!」

一ノ瀬「クソッ!やっぱりか!三谷!持ち堪えてくれ!」


俺は全力でキッチンに走る。それの後を追うように二宮もついて行く。

俺が二宮よりも、先にキッチンに入ると酷い有様だった。服はビリビリに破け、顔はズタズタに引き裂かれ、身体はバラバラになっていた。

俺は、二宮がキッチンに入る前に、キッチンの扉を閉めながら、キッチンから出る事にした。


二宮「、、、どうだった?」

    

俺は首を横に振ることしかできない。


一ノ瀬「、、、腕っぷしの強いあいつがすぐにやられてしまうなんて、本当に呪いなのかもな」

二宮「ここに来たことは間違いだったのかな」

一ノ瀬「、、、どうなんだろうな」

二宮「私達も死んじゃうのかな?」

一ノ瀬「大丈夫だよ。絶対」

二宮「絶対?」

一ノ瀬「うん。絶対」

二宮「、、、フフフ、なんか元気出てきた!」

一ノ瀬「それはよかった」

二宮「あのさここを無事に出たら美味しいラーメン食べに行かない?」

一ノ瀬「いつものところ?」

二宮「そう!一ノ瀬君の奢りで!」

一ノ瀬「えぇ?、、、しょうがない。久しぶりに奢ってやるか」

二宮「やったー!!ちょっとトイレいってくるね」

一ノ瀬「おい、大丈夫か?それはやめといた方が、、、さっきから一人になったときにやられてるし、、、ね?」

二宮「えー?なに?トイレについてくるつもり?まさかそんなわけないじゃない。安心して、絶対に大丈夫だから!」

一ノ瀬「そう?じゃあ待ってるよ。」

二宮「うん!」


二宮はキッチンから離れて行く。

俺は一人になり段々段々冷静になっていく。

今、俺、何をしている?!何故、二宮を一人にしたんだ?!


一ノ瀬「よく考えたら一人なんかにしちゃダメだ!「まさか」とか「そんなわけない」とか王道がすぎるだろうが!!!」


「キャ──────!!!!」


二宮の叫び声が聞こえる。


一ノ瀬「二宮!!!」


俺は女子トイレに急いで、入っていく。しかし、間に合わなかった。そこに二宮はなく、あったのは血溜まりのみだった。


一ノ瀬「一人になっちまった、、、よく考えれば助けられたはずなのにな。」


外をみると辺りは暗くなり始め、雨は大分小雨になってきている。今なら帰れそうだ。


一ノ瀬「ごめん。本当にごめん皆んな。、、、こんな屋敷でて、もう2度と山には行かないようにしよう」


一ノ瀬はトボトボと力無く、玄関へ向かって行く、顔には絶望が見て取れる。

そんな彼を見る、人影が一つ。


瀬崎「あのひとは知らないかも知れないですけど、最後主人公が失意の中脱出しようとするのも、十分、死亡フラグなんですよね。」


「ウワァァァァァァァァァァァ!!!!」


瀬崎「ほらね。、、、しかし四人とも死んでしまいましたか。管理人もコロコロ変わっているようだし、私も気をつけなければなりませんね。実際給料が良くなきゃこんな仕事やりませんし」


瀬崎は呆れたような顔で語り出す。


瀬崎「ほら死亡フラグって避けたくても回避できない時もあるんですよ例えば、、、」


ピンポーン


瀬崎「、、、だれでしょう?話してる途中だと言うのに?まあさっきと同じく無視しましょう無視。面倒くさい事になりそうですしね。」


ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン


瀬崎「あーもう!うるさいなあ!こんなに遅い時間に一体誰なんですか?!」


瀬崎は痺れを切らして、玄関のドアを開けてしまう。無闇に玄関を開けてしまうのが、死亡フラグと気付かずに、、、


瀬崎「ウワーッなんなんですかあなた?!」

         

雨が上がった山中に甲高い銃声が響いていた。


(完)

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