終わり

 その後のことは取り立てて特筆するようなことはない。

 全世界消滅の危機を救った此花は無事、元の世界へと帰っていった。帰り際、神の中でも特に偉い神に、


「……今度、勝手に呼びつけたらわかってるやろな?」


 二度と勝手な異世界召喚に自分を巻きこまないようにと約束を取りつけてもいた。

 最高神の涙目を見るのは初めてかもしれない。

 そうして満足げに帰っていった此花を見送り、残された私達はとりあえず破壊された神オフィスの修繕にとりかかるのであった。


「で、めでたしめでたしってなったはずやろ?」


 頭上からの冷たい声に胃がキリキリと痛む。


「いえ、あの〜、実はですね、この前の別世界の此花さんが集まってできた『魔王』の影響が他にもでてしまってですね。それで〜その、他の召喚者達ではまともに太刀打ちができなくなってしまいまして〜、めどが立つまでお力を〜ですね。お借りできれば〜とぉ」


 全力の土下座スタイルを敢行する私はなんとか言葉を絞り出す。


「ぼねがいじまずぅ! マジでどうじようもないんでずぅ! 此花さんが来てくれないどぉ、わだじひとりで行くことになっちゃうんでずよぉ! ぞんなの、瞬殺ですよぉ、コロッとやられちゃいまずよぉ!」


 再びすべてをなげうっての泣き落としである。

 けど、前回と同様に嘘はない。本気の本気で一緒に来てもらわないと私の命が危険で危ない。

 がばっと顔を上げた先、登校途中だったらしい制服姿の此花の姿があった。

 その顔は、それはそれはイヤそうな表情をしていた。


「……だから、鼻水たらして泣かんといてや」


 けれど、なんだかんだ彼女は私を見捨てはしないことをわかっていた。

 一度大きなため息をつき、


「……どんくらい行くんや?」


「えっとぉ……とりあえず、ざっと30程」


 30⁉ と素っ頓狂な声をあげる此花。私は慌ててフォローにと口をはさんだ。


「あ、あの、前回もふくめてこちらの落ち度ということでお礼は出させていただく予定でして。それからご家族の方にはもうご挨拶済みで、一応、了承ももらっていて」


「……マジか」


「娘が世界の役に立つなら、と」

 

 ついでに友達にもなってあげてくださいと言われたのは秘密にしておこう。


「……姉ちゃんすごいなって弟さん、ほめてましたよ」

 

 ピクリと此花が反応する。そして、声をあげながら頭をかきむしりはじめた。


「わかった! 行けばええんやろ!」


 さすが此花! そう言ってくれると女神は信じていました!

 そうして此花は何度目かの異世界の大地から飛び上がる。視線の先には何度目かの『魔王』達の軍勢がいた。


 それを前に此花の態度は変わることはない。

 余裕なのか、それともやっぱりいらついているのか。眉間によったシワからは後者に思える。

 そんな姿に私の胃はやっぱり痛む。けれど、なんだかんだ助けてくれる少女の隣にいるのは、あの上司達のいるオフィスにいるよりは何倍もマシなのかもしれない。


 けれど此花の内心は多分、私とは真逆だ。

 彼女の思いは最初からずっと同じ。


「ああもう! あたしははやく帰りたいんや!」

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朝桐此花は帰りたい。 〜絶対帰りたい超能力無双少女と異世界管理の女神さま〜 なしの @nashino_akiri

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