第9話 竜騎士登場

 周囲は光に包まれた。


 衝撃波が体を襲い、足を踏ん張るが吹き飛ばされそうになる。


 徐々に収まった衝撃波の後には黒い体は健在だった。だが、その黒い体には大きな穴が空いていた。


「すげぇぇぇ!」

「メイサちゃんすげえ!」

「我らの竜魔法士様の誕生だ!」


 周りの魔法士達は歓声に沸くがメイド達はまだ黒竜を油断なく見つめていた。流石は竜騎士に仕える戦闘メイドである。


 ────グルルルァアア


 そう。あのドラゴンはまだ生きているのだ。

 けれど、私の魔力は先程の竜魔法で底をついてしまった。だが、それがバレる訳には行かないし、逃げる訳にも行かない。


 私はそれでも黒竜の前に立ちはだかり続ける。


「メイサ様、もうまりょ────」


「────いいの。最後までこの王都を守らせて」


 黒竜は最後の力を振り絞り、口に黒い光を再び溜めだした。私が魔力を失ったのを感じ取ったのかは分からない。最後の足掻きだったのかもしれない。


 ────グルルルルルルアアアアア


 放たれたエネルギーはこちらに向かってくる。


「メイサちゃん! 竜魔法を!」

「ちょっ! メイサちゃん!?」

「まずいって!」


 私は静かに両手を広げたまま目を瞑り一言を発した。


「私は幸せでした」


『これからも幸せであるぞ?』


 その声に胸が高鳴る。

 私は助かったのだと確信した。


 目を開けると目の前には白い鱗が見える。

 凄まじい音がしているがきっとこちらには衝撃は来ないだろう。


『俺の嫁に何をする? 無礼者が!』


 その言葉と同時に大きな魔力が放たれて黒い竜は跡形もなくなったようだ。

 目の前はシルマ様で見えない。

 魔力を感じ取ったところ、そうなのかなと予想はしている。


「悪い! 遅くなっちまった! 黒幕がなかなか面倒な所にいてよ。始末するのに時間かかっちまった」


『そうだぞ。リンガが見つけるのに時間かけてるうちに攻められたのだ。そしたらメイサの竜魔法が発動されたのを察知してな。まずい事態になっていると思って来てみたわけだ』


 リンガ様を小突きながらシルマ様が興奮した様子でそう語る。


「シルマ様、ありがとうございます!」


「えっ? 俺は? メイサちゃん?」


「ふふふっ。リンガ様もありがとうございます」


 リンガ様も自分が褒めて欲しいなんて可愛いところがあるものなんだなと思いながら礼を言う。すると、顔を赤らめて頭をかいている。照れ隠しにも見える。


『リンガ! 俺の嫁だぞ?』


「俺の嫁でもあるだろ?」


『なにぃ?』


 二人がいがみ合っている姿も可愛い。


「可愛いですね。お二人共」


「可愛いか?」


『ふんっ!』


 拗ねた反応にまた笑いが込み上げてくる。こんなに強いお二人なのに私なんかでいがみ合っているのが可愛らしい。


「いやー。しかし、よく被害がこれだけですんだな? メイサとメイド達、そして魔法士達の力だな!」


「はい! みんな頑張ってくださいました! ありがとうございます!」


 私が礼を言うと魔法士達は恥ずかしそうにした。


「おれ達はメイサちゃんに出動要請を受けなきゃ、見て見ぬふりだったかもしれねぇ」

「そうだな。俺達は不甲斐ない」

「自分の金のことばっかり考えていたよな」


 口々に自分達の反省点が出てくるようでなんだか雰囲気が重苦しい。


 ────パンッパンッ


 私は両手を鳴らして空気を変えるよう務めた。


「みなさんのおかげで王都は守られました! それは事実です! 皆で誇りましょう!」


「あぁ! そうだな! 俺達が駆け付けるまでよくぞ被害を食い止めた! 感謝する!」


 私に同調するようにリンガ様もお言葉を述べてくれた。竜騎士様のお言葉であれば私よりも重みがある。みんな誇れることでしょう。


「おぉぉぉ! 竜騎士様に褒められた!」

「はははっ! 俺達やったんだな!」

「王都は俺達がいる限りやられねぇ!」


 思った通りに魔法士の方々はそれぞれ自分の武勇を語りながら嬉しそうにしている。

 そんな中メイドのアリスは怪訝な顔でこちらを見ている。


「メイサ様、ご自分のした事をお分かりですか!?」


「はぃ」


 私はアリスの忠告を無視して突っ走りドラゴンの前に出て死にかけた。

 目をつぶっていると。


 ────パンッ


 左頬に衝撃が走った。

 殴られても仕方がないだろう。

 自分の命を蔑ろにしたのだから。


「メイサ様に何かあっては……私達は……どうしたらいいのでずがっ!」


 目を少し見開くとアリスが目に涙を溜めていた。私のは事を思ってそんなに感情を露わにするなんて。

 よく見るとアリスだけでは無かった。

 メイドの皆が目に涙を溜めている。すでに泣いている者もいる。


「ごめんなさい」


「もう。無茶はやめてください。お願いします! 貴女の命はすでに貴女だけの物ではないのですよ!」


 私の胸は締め付けられ自分だけが犠牲になればいいと、そう思っていたが、それは間違いだったのだと気付かされた。


「ぅん。ありがとう」


「こちらこそ、生きていて頂けただけで幸せでございます。メイサ様。貴女の心意気に感銘を受けました! 一生ついていきます!」


「「「ついていきます!」」」


 戦闘メイド一同が膝まづいて私に頭を下げる。


「ありがとう! なんかお腹すいちゃった! 屋敷に戻って作ったおにぎり食べましょ?」


「「「はっ!」」」


 メイド達を連れ立って屋敷に戻ろうとすると、引き止められた。


「メイサちゃん、俺は王に今回の事の報告に行ってくるから。先に戻っててくれ」


「はい! わかりました! ご飯は残しておきますから、安心してくださいね」


 リンガ様にウインクするとまた顔を真っ赤にした。それを誤魔化すようにそそくさとシルマ様の背に乗ると飛び立って行った。


 その騒動はそれで幕を閉じた。

 だが、リンガの見つけた黒幕は組織の一部に他ならなかったようだ。

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