第6話 竜魔法
私とモナは柄の悪そうな冒険者風の男三人組に囲まれていた。
「なぁ、俺達といいことしなぁい?」
「私達がどこの者かわかっているのですか?」
目を細め冷たい目で男達を見ていたモナが冷静に問いかける。
「はぁ!? どこの者なんでしゅか?」
「ははははっ!」
「しらねぇよ!」
「この方は竜騎士様の妻です。私は護衛です」
モナが私の前に出て男達から守るように遮ってくれる。
モナも戦えると言っていたから大丈夫かもしれないが、武器が何も無い。
「へっへっへっ。人妻か。いいねぇ」
「ゲスが」
「なんとでも言え。ほら、行くぞ?」
男がモナに手を伸ばした。
それを振り払って私を連れて下がる。
「あぁ!? やんのか!?」
男達は街中であるにも関わらず剣を抜き放った。
「メイサ様、流石に丸腰で得物相手はキツイです。私を置いてお逃げ下さい」
モナは自分を犠牲にしてわたしを助けようとしてくれている。
私は頭の中で冷静に思考をめぐらせていた。
「今更後悔してもおせえぞ? おらっ!」
剣を振り下ろしてくる男。
男の動きがスローモーションでモナに迫っている。
私がやらなきゃ。
『風の防壁』
私の口から出たのは竜語。
空を飛ぶ時に竜が風よけに使う竜魔法だ。
────ギィィィンッッ
「くそっ! 魔法かよ。小癪な! こじ開けてやる!」
風の防壁に対して何度も剣を打ち付ける男達。
段々と綻びが出てきた。
「メイサ様。これって何回も張れるんですか?」
「魔力がある限りは張れます。ただ、竜魔法って魔力を馬鹿みたいに使うんですよ。張れてあと二回ですかね」
このままではジリ貧だ。
最悪の場合私だけついて行ってモナは逃がして貰うようにお願いしてみよう。
「はっはぁー! 大人しくついてくればいいものをなぁ!?」
防壁に穴が空いてしまった。
もう一度張り直そう。
『風の────』
────突如、空気が重くなった。
「グルルルルルルアアアアアア」
上空にいたのはシルマ様だった。
私達の元に降り立つ。
「竜魔法の発動を検知したから来てみればこんな事になっていようとは。俺も着いてくりゃ良かったかな」
シルマ様の背中からはリンガ様が降りてきた。
「おいお前達。俺の妻に何の用だ? そんな得物まで出して?」
「くっ! 竜騎士の妻ってのはホントだったのか……おい! お前ら! 行くぞ!」
剣を持って居る手をプルプルと震わせてそう言うと、他の男達を連れてさぁっと素早く逃げて行った。
「奴らの顔は覚えた。後で罰を与えよう。なっ。シルマ?」
「グルルルルアアアア!」
「自分のメイサにちょっかい出されたのがそうとう気に入らなかったらしいぞ? メイサは戻ったら大変だぞ? シルマの構ってタイムがあるに違いない」
笑いながらそう言うリンガ様の顔もいつもの温厚な顔とは違い少し顔を歪めて不機嫌そう。
「助けて頂いてありがとうございます! 助かりました!」
「私がついて居ながら申し訳ありません!」
片膝を着いて顔を下げて謝るモナ。
「丸腰で来るのは少し油断しすぎだったかもな。まぁ、でも街でメイサにちょっかいかけたらドラゴンが出てくるってのは知れ渡っただろ。それは良かったかもな」
シルマ様の鱗をなでなでして落ち着かせながらそう話すリンガ様。
私もシルマ様に近づいて行き、鱗をなでなでする。
「シルマ様、来て頂けて嬉しかったです。お家に行ったら鱗を磨いてあげますね?」
「グルルル」
鼻を私の顔に擦り付けて喉を鳴らしている。
機嫌が直ったみたい。
「じゃあ、俺達は戻るな? もう大丈夫だと思うけど、モナ、一応ナイフでも足に忍ばせとけ」
そう言って差し出されたナイフをベルトで足に固定する。
露わになった艶やかな足が胸をドキリとさせる。
モナを隠すようにリンガ様の視界を塞ぐ。
「モナの綺麗な足は見蕩れて仕舞いますから、隠させて頂きます」
「はははっ。こりゃ参ったな。目の保養が無くなっちまった。まぁ、今日はメイサを見て満たされたからいいか」
その言葉に私は顔が熱くなるのが分かった。
耳も熱くなる。
あの不意に見せてしまった下着姿を見て満たされてくれたのだと思うと急に恥ずかしくなってしまった。
「じゃあな」
シルマ様とリンガ様は飛び立って行った。
二人を見送ったあとは街の人達から好奇の目で見られていたが、気にしないことにした。
「メイサ様、いつの間に竜魔法なんて使えるようになったんですか? てゆうか、魔法って学院に行かないと使えないんですよね?」
「そうみたいね。でも、リンガ様に竜語を習っていて、その副産物のようなもので竜魔法も使えるようになったみたいなの。発動したのは今日が初めてよ」
「えぇっ!? じゃあ、賭けでしたね?」
「ふふふっ。そうね」
笑い合いながら街を歩く。
友達の居なかった私にとってはとても楽しい時間に思えた。
モナも普段ずっと屋敷にいるから外にはなかなか出られないんだそうだ。
「あそこですよ!」
「わぁぁ。なんか高そう……」
「メイサ様、これだけの資金があれば余裕です」
リンガ様に渡された金貨の入った袋を出すとジャラジャラとならし、いっぱいある事をアピールするモナ。
「そうね。じゃあ、私に似合う服を選んでちょうだい!」
そこからのショッピングは長く、二時間くらいかかった。
屋敷に戻った時にはシルマ様が待ちくたびれていて宥めるのに大変だったのよね。
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