第5話 街へ
その翌日に竜語の勉強をした後に、メイド長に声を掛けられた。
「メイサ様、昨日はモナが服装について生意気なことを言ったそうで、申し訳ありませんでした。よく言って聞かせましたので、ご容赦を」
私に頭を下げた。
「頭を上げてください。私はアドバイスと受け取りました。私の事を考えてくださったんだと思っています。だから、モナさんを責めないでください」
極力明るい声でそう答える。
私は別に怒っているわけではない。
もうそのことは忘れてしまっていた。
「そうだ! モナさんを呼んで来てもらえますか? 一緒に服を選んで欲しいのです!」
「ふふっ。畏まりました。呼んでまいります」
メイド長は楽しそうに笑みを浮かべると廊下の奥へと向かっていった。
誰かと買い物に行くなんて初めてだった。
顔の火傷を負ってからは友達と呼べる人はいなかったし、親としか行けなかった。
少しすると小走りでモナさんがやってきた。
何やら慌てていて髪が乱れ、息も荒い。
「昨日は申し訳ありませんでした! 私に服を選んで欲しいと聞きましたが、それは罰として服のお金を払えということでしょうか? 私……あんまりお金が────」
「違います! そうじゃありません!」
私も少し焦って大きな声が出てしまった。
「昨日アドバイスをくれたじゃないですか。だから、私に似合う服をアドバイスしてもらおうとして呼んでもらったんです」
「あっ……そうだったんですか。私てっきり……」
「もう! そんなに私意地悪に見えますか!?」
眉を吊り上げて頬を膨らませて怒っているように見せようと必死に顔を作る。
「ぷっ! なんですかっ! その顔!」
モナさんは私の顔を見るなり吹き出して笑い出した。
私の顔そんなにおかしかったかな。
「もう。メイサ様の綺麗な顔が台無しですよ? 私も着替えてきます。服屋さんへご案内しますよ」
「ふふふっ。ありがと!」
微笑むとモナの耳の先が赤みがかっている。
なんだか恥ずかしがっているみたい。
自分も動きやすい服を着ていたので、持っている服の中でも出かける服へと着替えることにした。
部屋で服を選んでいるとドアがノックされた。
開けるとそこに立っていたのはリンガ様だった。
「おぉ!? す、すまん! そんな恰好でドアを開けるなよ!」
自分の格好を見てみると下着姿で服を選んでいて、そのままドアを開けてしまったようだ。
「モナかと思ったので、すみません」
「いや、いいんだ。服を買いに行くんだろう? これで買ってきな」
「えっ!? でも、自分のお金が……」
「いいんだ。出したいんだよ。ほら、受け取らないといつまでもその姿を俺に見せることになるぞ?」
「それはいいんですけど。じゃあ、ありがたく頂きます」
「モナが一緒に行くなら道中は大丈夫だろうが、一応気を付けていけよ?」
「はい!」
なんだか楽しい気持ちと嬉しい気持ちで胸がいっぱいだ。
リンガ様は耳を赤くして目をそらして去って行った。
なんだかモジモジしていたけど、大丈夫かしら?
ドアを閉めようとするとモナが視界に入った。
「あっ! モナ────」
「ちょっ!? メイサ様!? なんて格好をしてるんですか!?」
「ん? 今着替えてたところで……」
「それは分かりますけど、そんな格好でドアを開けないでください!」
「さっきリンガ様がいらしてて」
モナは身を見開いてプルプル震えている。
「その格好を見せたんですか?」
「モナかと思って開けたらリンガ様で、服を買うお金を頂いたわ」
眉間に手を当てて「はぁぁ」となんだが呆れたようにため息を吐いた。
流石に下着姿を見せたのは夫婦でもまずかったのだろうか。
「男は獣です。そんな姿を見せたら襲われますよ?」
「嫁いだ時からそれは覚悟をしています」
モナは私の真剣な顔を見て口をへの字に曲げた。
「無理しないでくださいね? これを着ていきましょ」
モナが私のワンピースを手に取って渡してくる。それを上からストンと着る。
「その服にベルトを巻きます。それで、スタイルが良いのが際立ちますし、綺麗です」
「うん。ありがとう!」
やっぱりモナに頼んでよかったわ。
身支度を整えると二人でお屋敷を出た。
モナが護衛も務めるとのこと。
戦えるってカッコイイなと憧れの気持ちを抱く。
街を散策していると色んな店がある。
私はこの街で育ったけど、こんなに顔を上げて歩くことは無かったかもしれない。
店では明るく振舞っていたけど、客は陰で何を言っていたかはわからない。
みんないい人だったけど。
なんだか、視線を感じる気がする。
私、見られてる?
「ふっふっふっ。この街の人達はメイサ様の魅力の虜になりましたよ? 竜騎士様の屋敷から来たことは方向から分かります。そして、結婚したという噂話も流れています。メイサ様は憧れの的!」
そうモナが言うものだからなんだか急に歩くのが恥ずかしくなってきた。
みんな竜騎士様の嫁なんだと言う目で見ているのね。
しっかり歩かなきゃ。
そう思ったら歩き方がぎこちなくなり、しまいには躓いてしまった。
耳が熱いのを感じながら下を向いて歩く。
「おぉー。すげえ上玉じゃん」
「だなぁ」
三人組に囲まれてしまった。
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