第2話 新しい家

 洗面所で泣いていると母が様子を見に来た。


「どうしたんだい?」


「お母さん、見て?」


 髪をかきあげて顔全体を見せる。

 すると、目を見開き、涙を流し始めた。


「あぁぁぁ。綺麗だよぉぉメイサ」


「うん。竜様が治してくれたの」


 母はしばらく顔を手で覆って泣いていた。

 戻ってこないから変に思たんだろう。

 父もやってきた。


「メイサ? どうした……ん…………だ?」


 父も私の顔を見るなり固まった。


「どういう事だ? メイサの火傷が!」


「うん! 表にいた竜様が治してくれたの。私、竜様と竜騎士様と一緒に行く」


「そりゃ! おめぇ!?」


「うん! 気に入ってくれたみたいなんだ! 私の事!」


 父は顔を手で覆い、崩れ落ちた。

 そんなにショックだったのかなと思ったのだが、違かったようだ。


「よかった…………メイサが…………嫁に……おれぁもう諦めていたんだ。あぁ。神様。私達の家族を救って頂いて有難うございます」


 両手を組むと天に拝み始めた。

 私はそんなに父に気苦労かけていたんだなと、その時初めて知ったのであった。


「あんた! こりゃ、お祝いだよ! メイサ! 皆に見せてやんな! 髪を後ろでしばるんだよ!」


「う、うん」


 凄い剣幕で母がまくし立ててきた。

 それだけこの顔の事を気にしてくれていたんだ。それは常連客も一緒だったってことだもんね。


 後ろで髪を縛ってハーフアップにする。

 私がずっとしたかった髪型だから。

 ハーフアップが可愛いと思ってずっとしたかったけど、火傷が見えるからできなかった。


 フロアに出ていくと。


 ワッと歓声がった。


「うおぉぉぉ! めちゃくちゃ綺麗だ!」

「えっ!? メイサちゃん。……きれいだわ」

「美人だとは思ってたけど……」


 男女問わず皆が賞賛してくれる。


「みんな、ありがと!」


 急に花が咲き誇ったように周りが明るくなった。

 シンッと空気が静まる。

 急に胸が締め付けられた。

 何か気に触っただろうかと。


「「「うおぉぉぉぉ! かわいぃぃぃぃ!」」」


 お客さん達が湧いた。

 顔が熱くなっているのが分かる。

 耳も熱い。


「おぉ。綺麗だ。シルマは見る目があるな。尚更、結婚してくれたら嬉しいねぇ」


「えっ!? どういう!?」

「なんだよそれ!?」

「竜騎士だからって!」


 口々に竜騎士を責める。


「ごめんなさい! 私、決めたの。この顔は昔からずっと私のコンプレックスだったの。でも、竜のシルマ様がこの火傷を治してくれたの。それが無かったら私は一生このままだった!」


 私の頬を一筋の滴が滑り落ちていく。


「それに、この顔のままでも良いっていう人も居なかったし。リンガ様とシルマ様はそのままでも良いって言ってくれていたの」


 目を拭い、目一杯の笑顔で皆を魅せる。


「皆、これまでありがと! 私は、リンガ様とシルマ様の元へお嫁に行きます!」


 私はその日、お嫁に行くことが決まった。

 リンガ様とシルマ様はとてもいい方で両親にも挨拶をしてくれた。

 そして、今、大きな屋敷にいる。

 

 荷物はリンガ様が持っていてくれている。

 竜騎士様だけあって大荷物なのに軽々と持っている。


「わぁぁぁ。ここがリンガ様のお屋敷ですか?」


「そうだね。まぁ、俺だけじゃないけどね」


「グルルアグルア」


 シルマ様が何かを訴えていた。


「俺も居るぞって言ってるよ」


「わ、忘れてませんよ!? シルマ様も中に入れるんですか?」


「いや、入れないんだ。まぁ、別にシルマは魔法で全てを寄せ付けなくしているから雨も当たらないし、外でも構わないのさ」


 ポンポンッとシルマ様の足を叩くと屋敷に案内された。


 中に入るとズラッとメイド服姿の人が並んでいた。


「お帰りなさいませ」


「ただいま。今日からこのメイサが俺の妻になる。部屋はシルマと一緒にいれるあの部屋な」


 メイドさんが目を見開いているが、すぐに平静を装って案内された。


「畏まりました。メイサ様、こちらになります」


「あっ、はい!」


 私は直立不動になって返事をした。


「この荷物運んでやって?」


 リンガ様がメイドさんに言いつける。


「畏まりました」


「えっ? でも、重いですよ?」


「お気遣いありがとうございます。私共は、皆戦闘メイドと呼ばれておりまして、身体強化はもちろん、体術から剣術、斧術、槍術等、様々な戦う術を持っております。この程度、どうということはありません」


 ヒョイと荷物を持つとキビキビと歩き始めた。

 慌ててついて行く。


「私共、リンガ様に仕えてしばらく経ちますが、まさか結婚することになるとは思いませんでした」


 実は、シルマさんに好かれたんですなんて言っていいんだろうか。

 なんかそれを了承した私は変な目で見られそうだけど。


「そ、そうですか?」


「えぇ。しかもこんなにお綺麗な人を連れてくるなんて思いもしませんでした。そんなにお綺麗なのに結婚していらっしゃらなかったんですね?」


 痛いところをつかれた。どう言ったらいいものか。


「大変失礼致しました。配慮に欠けた質問でした。申し訳ありません! この事はどうかご内密に」


「あっ、いいんですよ。なんか説明しても信じてもらえるかどうか分からなかっただけです」


 少し黙っていたから不味いことを聞いたと思ったのだろう。

 そうじゃないけど、この綺麗に傷のない顔を見ると、大きな火傷があったとは信じて貰えないんじゃないだろうかと思ったのだ。


「お部屋はこちらになります」


 扉を開けて中に入ると半分は屋根がかかり、そこからは星空が見渡せる部屋であった。

 外にはシルマ様がやって来て横たわった。


「グルルルグルアルァ」


「シルマ様! この部屋だとシルマ様とご一緒に生活できるんですね!」


「グルルルァ」


 こうして私の生活は一変し、竜様と竜騎士様との生活が幕を開けた。

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