竜との生活は突然に~竜に好かれたので竜騎士と結婚することになりました~
ゆる弥
第1話 竜からの求婚
『俺のシッポについてる鱗の汚れをとってくれないか?』
『うん。いいよ。ここでしょ?』
『そうだ。メイサと一緒にいると本当に幸せだ』
『ふふふっ。そうかな? 良かった』
二人だけの空間に、パッと桜が咲いたような笑顔が咲き誇る。会話している言葉は普通の人ではわからない竜語で語られている。
屋敷の横に佇んでいるのは巨大な白竜。屋敷の縁側に腰掛けているのは、肌は白く息を飲むくらいに透明感のある顔立ちの小柄な女性。ピンクの髪を結び、白いワンピース姿で白い大きな鱗を磨いている。
巨大な竜は十メートルほどある。その巨体を横たわらせて大きな屋敷の横に横たわっている。
流石に建物の中には入れる大きさではない。
「メイサ、シルマ、お茶しないか?」
やって来たのは青い髪をオールバックにしたガタイのいい濃い顔の男。革鎧を身につけているがそれはいつもの事。
『おぉ。リンガか。天下の竜騎士様が、上手い茶を入れられたのか?』
「あぁ、メイサには負けるけどな」
「ふふふっ。そんな事ないよ。もう少ししたら晩御飯作るね?」
リンガと呼ばれた竜騎士はシルマという白竜とピンクの髪の美女、メイサと三人でこの屋敷で暮らしている。
穏やかで優しい空気がその場を和ませる。
この幸せな空間を築き上げるまでのお話は少し時を遡る必要がある。
ある定食屋に一人の娘がいた。
ピンクの髪で顔半分を隠し店を慌ただしく行き交っている。
そんな定食屋が沸き立った。
「おぉー! 竜騎士様だ!」
「ホントだ! この前は国を救ってくれてありがとう!」
「助かったよ!」
店のお客さんが急に騒ぎ出した。
何の話か不思議に思い、私は店の入口を見ると。
革鎧を来た青い髪のオールバックのガタイのいい男が立っていた。
「いらっしゃいませー! こちらへどうぞ!」
お客さんの声を聞いていなかったので、誰かはよく分からなかったけど、空いている席に案内した。
「あぁ、ありがとう。表にでかい白竜がいるんだ。何か持って行ってやってくれないか?」
その言葉でやっと気が付いた。
「あれ? この前国を救ってくれた、竜騎士様ですか?」
「はははっ。止めてくれ。エールと肉焼き定食を頼む」
「はい! お待ちください!」
私なりの目一杯の笑顔で対応する。
中にいる両親にオーダーを伝えるとブロック肉が食品庫にないか確認する。
見つけたお肉をもって厨房に向かう。
「このお肉貰っていいの?」
「あぁ、いいぞ。それ、どうすんだ?」
「竜さんにあげるの!」
「はぁ? 大丈夫か? 気をつけろよ!?」
「大丈夫だよ!」
父に確認して、外に出ると本当に大きな白い竜が体を休めていた。
その竜の前に行き、肉を差し出す。
「竜さん、この国を救ってくれてありがとうございます! これ、いっぱい食べてね?」
その白竜は目をパチパチさせると顔を体に擦り付けてきた。
なんだか、好かれたかな?
懐いてくれてよかった。
「グルルルグルウウウ」
なんと言っているのかは私には分からないけど、なんだか機嫌が良いみたい。
肉を頬張り始めたので店の中に戻ると竜騎士様が頭を抱えていた。
「どうしました? 飲みすぎましたか?」
「おっ! あのー、あなたお名前は?」
「私ですか? メイサと言います!」
「結婚は?」
「してません」
この手のナンパは昔から良くあっている。
けど、私はもう三十になるのに独身のまま。
それには理由があるの。
「表にいた白竜がな、あぁっ! わかったって! 言うから! すまん。念話でアイツがうるさくてな」
頭を抱えてなんだか悩んでいる竜騎士様。
頭を振ったりしながらこちらをジィッと真剣な目で見る。
「あの竜はシルマっていう。俺はリンガだ。シルマなんだが、あなたをいたく気に入ったみたいなんだ。シルマとは結婚できないから、常にシルマと一緒にいる俺と結婚してくれないか?」
私には突然の事で何を言っているのかが理解できなかった。
竜が気に入ってくれたのは嬉しいんだけど、その後が意味がわからない。
周りは聞き耳を立てていて急に結婚の話が出たのでギョッとして驚いている。
皆は知ってるからね。私のこの顔を。
「私は三十歳になります。行き遅れた女です。それに、この顔の女と一緒にいれますか?」
隠していたピンクの髪を掴んで左半分の顔を見せる。
左半分は焼け爛れていてドロドロになっている。
大半はこの顔を見せると化け物が出たように驚いて逃げていくのがいつもの光景。
常連さんはその事を良く知っているので驚かない。
リンガさんはピクッと目が動いたが、嫌な顔はしなかった。
「なるほど、美人なのになんで結婚してないのかと思ったが、納得したよ。一緒に表に来てくれないか?」
そう言ってリンガさんが席を立った。
一緒に出口から竜の元に行く。
「シルマ、俺は気にならないんだが、メイサちゃんはこの顔のせいで結婚出来ていないという。それでもいいかと聞かれたが、どうする?」
竜は首をゆっくり上げると私の目の前まで顔を持ってきて食い入るように眺めている。
「その傷はどうしたんだ? と聞いているが?」
「小さい時、竜に襲われた時に焼かれました」
竜が爪を少し私の左半分に当てる。
突如白い光が当たったかと思うと段々と収束した。
「聖属性の最上級魔法じゃないと治らなかったみたいだな。今まで苦労したんだな。もう傷はないぞ? これで、どうだ?」
その言葉を鵜呑みにできる訳が無い。
私は店の中に入って鏡を見る。
鏡には傷一つ無い、綺麗な白い肌の整った顔映っていた。
その綺麗な顔は霞んで見えなくなっていく。
私の生涯を捧げよう。
滴で顔を濡らしながらそう誓ったのであった。
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