第2話 その出会いが物語の始まり
「お帰りなさいませ、旦那様」
メイド達が一斉に頭を下げる。
しかし、返事はない。
「----を私の部屋に呼ぶように」
「かしこまりました」
1人のメイドが娘の部屋へと赴く。
そして綺麗な動作でドアをノックする。
「お嬢様、旦那様がおよびです」
返事はない。
メイドがもう一度ドアを叩こうとするが、ドアの前で
ふっと手を止め、その場を後にする。
まるでこの屋敷での暗黙の了解のように。
足音が消えると、ドアがギイッと開いた。
「・・・。」
娘が部屋から姿を現す。
その表情からは何も読み取ることはできないが、ただ、
メイドの要件通り父親の部屋に行くのだろう。
その進んだ先が運命を変えてしまうとも知らずに。
「失礼します、お父様」
「あぁ、----やっと来たか。」
父親の部屋に娘が入る。
「何かご用ですか?」
「そうだ、ほら…ご覧。裏で仕入れたエルフだよ…。」
父親が指さしたほうへ娘が視線を向ける。
「…。」
わずかに娘の目が大きくなる。
「エルフ、ですか。」
「そうだ、今じゃ絶滅危惧種だから手に入れるのは苦労したんだ。」
視線の先にいたエルフ。
性別は女性だろう。
首や手、足に鎖を巻かれ、みずぼらしい服を着ている。
表情はなにもない。
「…。」
「美しいだろう…。磨けば観賞用にもなるし、-----の遊び道具になると思ってね」
父親は笑みを浮かべ、娘へ視線を向ける。
「…。すみません、お父様、私今日は気分が悪いので失礼します。」
表情を変えぬまま、娘は父親の部屋を立ち去る。
「ふむ…。相変わらずあの子は何を考えているか分からんな。」
父親はメイドを呼ぶと、エルフの女性を地下の牢に繋ぐよう命じる。
夜も深まり、自身も寝室で休むことに決めたようだ。
父親とメイド、二人の視線がエルフの女性から外れた時…
「ぁ…」
エルフの瞳に一瞬光が灯ったのだった。
Fanzumu~物語の紡ぎ手達~ 蒼風せつ @yayoi189
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