第14話 拠り所

 翌朝、俺達は朝支度を終え、いつでもこの国を出れる準備をしておく、スラムの件を考えるといつこの国にいられ無くなるかもしれないので、やっておいた方が良いだろ。

 そう言えば、昨日あんだけ酒を呑んでいたのにどうしてマヤは、二日酔いにならないんだろう。


「マヤ」

「何?」

「昨日あんなに呑んでいたのに酒が残らないんだな」

「凄いでしょ! 私の数ある美点の一つよ!」


 大酒呑みが美点ね、果たしてそれは美点になりうるだろうか、まぁ人それぞれだよな。


「……クリス何か良い事あったのか」


 朝から機嫌がやたら良いクリス、ずっとニヤニヤしていてなんか気味が悪い。


「まぁ、昨日はお楽しみでしたので……」

「クリス、私に何かした!?」


 クリスが何か意味深な事を言ってる、それに対してマヤが何かされたと思い身を守る様に驚いていた。


「いや、これと言って何もして無いですよ? ただ一緒に寝て、抱きしめて体温を感じて居ただけです」


 やっぱり此奴、何かおかしい。

 

 そんな会話をしながら昨日話して居た噂について調べる為スラムに向かう。


 調べる為にも取り敢えず子供達に会う必要があるな、そこから子供達の育て親であるプルトと言う老人に話しを聞いて情報を得たい所だけど、あまり期待出来ないだろうな。


「居ないね」


 スラム街に着くと子供達が見当たらない、他の所に居るんだろ、近くに居た大人の男に噂の事を聞いて見る事にした。


「あの、すいません、聞きたい事があるんですけど」


 マヤが話し掛けに行った。


「……あんた昨日子供達と居た人だよな」


 なんか俺達を怪しんでるのか、それとも警戒してるのか表情が硬い。


「はい――それで、此処の子供達が消えると言う噂を聞いたんですけど、何か知ってますか?」


 噂の事を聞いた瞬間嫌な顔したな、何か知ってるのか?


「同情や哀れみで、何かしようとするならやめた方がいいぞ」

「…………何か知ってるんですね」


 クリスが語気を強めて問い返す。

 曲がりなりにもクリスは腕が立つ、強者は少なからずその身に覇気を纏う、その気に押されたのか男が逃げる様に。


「知りたきゃ向こうにプルトって爺さんが居るからそいつに聞け」


 男はそれだけ言って何処かへ行ってしまった。


「プルトって昨日マヤが言ってた人だよな?」

「うん、みんなプルトお爺ちゃんと住んでるって言ってた」


 子供と一番接してるその老人に聞くのが手っ取り早いな、少なからず情報は手に入りそうだ。

  スラムの男から聞いた老人の居場所に向かう事にした。


 昨日も思ったが、此処は道と呼べる様な所は無く瓦礫の破片や家が倒壊した後の様な物を端に避けてかろうじて歩けるスペースを作っている状況だ、建物も見渡せばあるが街の様に敷き詰められて居ない。

 まぁ人も少ないからそこまで必要では無いか。


 プルトという老人の家と思われる家が見えてきた、外見的には周りの家と同じ雰囲気だが、二回り程大きい。

 大勢の子供達と住んで居たらこれくらいの大きさは必要だよな。

 子供達の気配が無い、何処かに遊びに行ってるのだろうか、そんな事を思いながら家に向かって行く。


「すいませーん」


 少し時間が経ってから中から物音がしてきた、留守では無いようだ。


「何かな?」

 

 シワの多い老人が出てきた、この人がプルトお爺ちゃんって事だよな。


「私マヤって言うんですけど、ちょっと聞きたい事があって……」

「おぉ、君が子供達が言っていたマヤちゃんだね、入って下さな、あまり綺麗な所では無いですが」


 どうやら俺達の事は、子供達から聞いてるみたいだな。


 そうして俺達は、プルトさんに連れられて家に入る事になり、大きいテーブルのある広間の様な所に案内された。


「すいませんねぇ、子供達は今遊びに行っておって」

「いえ、大丈夫ですよ」


 家の中は結構広い、子供が十人位居ても全然余裕がありそうだ。


「お茶なんか出せたら良かったんじゃが、生憎切らしていて」

「お構いなく」

「あぁ、それと子供達と昨日遊んでくれたみたいで、凄く喜んで話してくれましたよ、ありがとうございます」

「いやそんな大した事してないですよ」


 ……本題に移そう。


「プルトさん、聞きたい事があって来たんですけど良いですか?」

「ん? あぁごめんよ、わしに分かる事だったら何でも聞いてくれ」


 いつも子供達相手にしてるせいか、落ち着いて話す事なんて無かったのか、どんどん喋り続けそうで、悪い気はしたが俺達の話しをさせてもらおう。


「プルトさんは、子供達が消える事について何か知ってますか?」

「……ここには二十人程子供がおった、じゃが少し前から度々行方不明になって、今じゃもう十人程しかおらん」

「スラムに子供は、ここ以外にも居るんですか?」

「家族で住む者や此処みたいに寄るべのない子供達が一緒になって暮らしてる者達がおる」


 此処だけでも十人近く、他の所にも子供が居るとしたら被害は此処だけでは無さそうだな。


「お爺ちゃん、犯人について何か知ってる?」

「わからん、わしももう老ぼれ、今日を子供達と生きるので精一杯で、調べる事もままならん……」


 部屋の隅に狩猟道具が置いてある、恐らくプルトさんが食料張達やらをしてるんだろ、それだけで精一杯なのは仕方ないか。


「そおですか……」

「ありがとう、会ったばかりの子供達の為に動いてくれて」

「いえ、これも何かの縁なので!」

「……マヤちゃんは、優しいんじゃな」


 何処か、寂しさが垣間見える笑顔だった。

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それでも世界は美しい パリスケ @porisuke

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