救済 代弁 そして神となる

クララ

第1話

私たちの組織にはいくつかの教訓がある。説明することは割愛させてもらうがとにかく素晴らしいものだ。なぜこの考えが一般に広まっていないのか不思議なほどだ。


そしてその考えを作ったのが私たちの組織のトップである師だ。彼はこの考えを思いついたその時からこの考えを広めようと全世界を飛び回っている。各地で多くの障壁に阻まれながらも各地でその障壁を退けながら考えを広めているのだ。


「枢機卿、今回は私たちが師を守らなくてもよろしいのですか?」


「あぁ、大丈夫だ。今回は私達ではなく近衛隊が師を守る。その代わりに私たちは師がいない間ここを守らなければならない」


「わかっています。すでにこの町には多くの諜報員を展開しています。何か不穏な気配が感じられればすぐに対応できるようになっています」


「外部からの圧力はどうなっている?」


「すでに多くの国から非難を受けていますが武力行使とはなっていないようです。ただいつでも戦えるように町の周辺には要塞線を構築しています」


「了解だ。また何かあったら連絡してくれ。…あと君の結婚記念日ももうすぐだろう?休日はとれるようにしてあるがどうする?」


「ありがとうございます。ただ今回は休みをいただかなくても大丈夫です。私が現在重要な任務に就いていることは妻も理解してくれているので今回の件が終わった後に休暇をいただきたいなと思っています」


「そうか。それならいいが、あくまでも私は休暇を取るように勧めていたということにしてくれよ。そうしとかないとまた君の妻から小言を言われてしまう」


「わかりました。それでは失礼します」


部下である親衛隊隊長は苦笑いしながら出ていく。それにしても組織内での結婚というのは珍しくないがそこそこの役職についているもの同士が結婚するというのは珍しい。それが師を守る立場の中で最高役職の親衛隊隊長と枢機卿ならなおさらの事だ。


私としてはこのような状況に巻き込まれたくはなかったのだがこうなってしまったからにはしょうがない。彼の妻である枢機卿は財務を仕切っていると考えればまだましだったと考えよう。


これで少しぐらい予算を増やしてくれるはずだ。なにせ彼女は身内に甘いからな。


それにしても今回は少し面倒なことになりそうだ。現状は私たちの組織は全世界と敵対しているということとほとんど変わりない状況だ。師が様々なところに布教に行かないといけないということは理解しているが今は行かないでほしかったという自分もいる。


今回精鋭部隊である親衛隊が師についていないのもここの状況を考慮して私が師に直談判したからだ。幸い快く受け入れていただけたがそれと同時にまじめな表情で何かを考えるようなしぐさをしていた。


これは私が師を不安にしてしまったということだ。私としたことがこんなことをやらかしてしまうなんて最悪だ。今回の件は私が片付けなければならない。それが私の使命であり師のためにもなるのだから。


その時突然町全体に警報音が鳴りだした。そしてさっきまでここにいた親衛隊隊長が慌てた様子で部屋に駆け込んできた。


「どうした!」


「町が囲われています!」


「誰に!」


「アメリカ軍を中心とした多国籍軍です!こちらとの戦力差は3倍から5倍ほど!現状の戦力では戦うことはできません!一度ここは撤退するべきかと!」


「無理だ。ここは師に任された場所で組織全体を見ても最重要防衛地点だ。ここを放棄することは許されない」


「それならどうやって戦うんですか!」


「市街地戦なら人数差というのも多少はましになるだろう。そしてある程度時間がたてば組織から援軍も届けば逆転する可能性も十分にあり得る。よってそれまで町で遅滞戦術を行いできるだけ時間を稼いで援軍が来るまで耐えるぞ」


「なるほど。…ただそうなるとある程度の犠牲を覚悟する必要もあります。最悪枢機卿ご自身が戦死する可能性も」


「それはすでに覚悟している。それが組織のためにそして師のためになるなら本望だ。逆に君は大丈夫なのか?もしつらいというのなら後方支援の隊長として後方に送ることもできるが」


「自分は大丈夫です。枢機卿が前線に出るというのに自分が前線に出ないわけにはいかないですし、妻も師のための死ならば納得してくれるはずです」


「そうか。それならまずは遅滞戦術の作戦を考えてくれないか?私は戦術といった面は全く分からないからな」


「了解です」


そういうと親衛隊隊長は走って部屋から出ていった。


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そのころ前線ではすでに多国籍軍との衝突が散発的に発生していた。全面的な戦闘になるのも時間の問題だろう。前線を指揮している親衛隊1番隊隊長は部下に死守命令を出していた。


「隊長!すでにあちこちで戦闘が発生している模様。現在はまだ防衛できていますが町に侵入されるのも時間の問題かと」


「わかっている!それで町になるべく侵入されないようにしろ!とにかく枢機卿が逃げる時間を稼ぐんだ」


1番隊の方針としては親衛隊隊長そして枢機卿が逃げる時間を稼いで残りは徹底抗戦という方針だった。


「2番隊から伝令!すでに正面だけではなく町を囲われている模様とのこと!」


「っ、枢機卿と親衛隊隊長は!?」


「まだ町の中にいる模様!そしてどうやらお二人とも徹底抗戦するようです」


「了解した。部隊に命令!遅滞戦術に切り替えろ。少しづつ撤退するぞ!」


まだ全体には命令されていないが1番隊は独自の判断で少しづつ撤退を始めた。


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そのころ親衛隊隊長は参謀を招集して作戦を考えていた。


「まず前提としてこの戦力差を覆すことはほとんど不可能でしょう。ただ一点突破なら可能性はあります。それで隊長と枢機卿には逃げてもらうのはどうでしょう?」


「却下だ。ここは師から託された重要地点。よって放棄することは許されない」


「それならば徹底抗戦ということですね。そうなると議会に立てこもるのが一番いいかと思います。守りやすいですし町の中心部にある。おそらく一番最後まで陥落しないはずです」


「そうか。それならとりあえず戦っている部隊には遅滞戦術をしながら町中に後退させよう。町中ならば奇襲なんかもやりやすくなる」


「そうですね。ただ戦って部隊を消耗した状態で議会に立てこもってもあまり長い間交戦できません。とにかく各部隊には消耗を押さえていただきたいです」


「了解だ。それではその旨を各部隊に伝えよう。お前たちは先に議会に行ってくれ。そこで現在の戦況を整理してほしい」


「わかりました」


作戦参謀によって各案されたこの作戦はすぐに各部隊へと伝えられ各部隊はこれに沿って議会へと撤退し始めた。


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「枢機卿、作戦立案が完了しました」


「そうか、すでに部隊へ伝達したのか」


「はい、すでに各部隊作戦通りに行動を始めています」


「了解した。それにしても久方ぶりに戦場のにおいをかいだが嫌なものだな」


「…誰も望んで戦いなんてしませんよ」


枢機卿と親衛隊隊長は名残惜しそうに窓の外の景色を眺めてから議会へと向かった。


この町の議会はそこそこの広さがある。まず玄関を通り抜け一枚の扉を開くとそこには議場がある。そしてその後ろには庭園や広場、そして親衛隊の拠点が配置されている。


まず議会への新入を許さないために玄関のところを第1防衛線として部隊が配備された。


ただ第1防衛線は議会の玄関の外に貼られているため防衛は困難だと考えられるため議場を第2防衛線として部隊を配備。この2つの防衛線にこの町にいたほとんどの部隊を投入している。


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作戦が各部隊へ伝令されてから20分、すべての部隊が議会へと終結した。すでに防衛線の構築も終わっており議会全体が要塞と化している。


そこへ多国籍軍が到着した。様子を見るにゲリラの攻撃にあったみたいだが人数自体はあまり減っているように見えない。


「親衛隊員へ告ぐ、我々は降伏を受け付ける準備はできている。降伏を受け入れるものはすぐに出て来い!」


多国籍軍の最後通牒は突き付けられたが降伏しようとする者は一人もいない。


それを多国籍軍の司令官は確認すると司令官は突入の命令を下した。


それを合図に議会の前では熾烈な銃撃戦が始まった。議場の前はあまり遮蔽物などがないため兵士たちはとにかく銃を撃ちまくりとりあえず敵を減らそうとする。


そこに議会から迫撃砲の援護から加わり議会の前は地獄絵図となる。兵士の血がまるで川のように道路を流れ迫撃砲によってばらばらになった体の部位がありとあらゆるところに見える。


多国籍軍も多くの義衛を被っているが多国籍軍は犠牲を無視した突撃を繰り返し行う。親衛隊もそれに対応するが遮蔽物もない状況では数がものをいう。だんだんと親衛隊は押されていった。


「第2防衛線へと撤退を開始する!前線の部隊は遅滞戦術を行え!」


親衛隊の犠牲が増え防衛線の維持が手いっぱいとなった時親衛隊は第2防衛線への移行を始めた。もちろん多国籍軍もそれを許さないように攻撃の手を緩めないが親衛隊の前線が手りゅう弾などで敵を攻撃することによって何とか以降は完了した。


すでに議会前の戦闘だけで親衛隊は300人を超える死傷者が出ているが多国籍軍はその3倍である1000人近くの死傷者を出していた。とはいってももとから親衛隊と多国籍軍の人数差は5倍ほどある。この程度では多国籍軍は止まらない。


最後まで玄関を死守した隊員を殺すと多国籍軍は議会へと流れ込んだ。


この時多国籍軍の部隊は非戦闘員でも構わず殺せという残忍な命令が出ていたため多国籍軍はとにかく動くものに鉛球を撃ちこんだ。


そして多国籍軍が扉を開けて議場へと乗り込む。一番最初に入った3人は一瞬で肉片へと変わった。議場の中には機関銃をはじめとした銃撃によってとんでもない弾幕が張られていたため当然と言えば当然である。


ただ多国籍軍はそれにもひるまずに議場へと侵入していく。そしてちょっとした隙を逃さずに中へ飛ぶ時に入った兵士は今度はクレイモアによって吹き飛ばされる。


議場に敷いてあった白い絨毯はあっという間に赤く染まっていき議場の入り口には死体が文字通り詰みあがった。


ただすべての侵入を防げるわけではない。中に侵入し運よくクレイモアを食らわなかった兵士によってだんだんと機関銃手がやられていく。


それによって侵入してくる兵士は増えていきついには機関銃陣地をすべて制圧されてしまう。ただこれで終わりではない。議場の観覧席から機関銃が撃ちこまれる。議場の観覧席へ行くためには議場の一番奥にある階段を上らないといけないがそこまでそもそもたどり着けるものがいない、。


ただ万全ではない。1階から手りゅう弾を投げ込まれるなどしてだんだんとやられていく。


「隊長!すでに議場の中も敵が浸透していてこれ以上の防衛は困難です!」


「わかっている!だが今回は死守命令だ!ここを抜かれると親衛隊隊長と枢機卿、そして非戦闘員が危険にさらされる。ここは絶対に死守するんだ!」


ただここまで来てはもうどうにもならない。だんだんと敵は2階へと昇り最後まで残った隊員が機関銃で抵抗したがついにはその隊員もやられ議場は完全に陥落した。


この戦いによって1番から4番まであった親衛隊は1番、3番、4番で全滅。2番で隊長を含む8割を喪失する被害を被った。


もう残っているのは枢機卿、親衛隊隊長それぞれの直属の部隊だけ。すでにここからの逆転は不可能な状況になっていた。


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そのころ作戦本部では被害の状況を聞いていた。


「それではもう親衛隊は2番隊を残してほかは全滅したということか」


「はい、そして生き残った2番隊の隊員もほとんどが戦える状況ではありません。戦力としてはここに残っている部隊だけかと」


「わかった。それでは私たちも最後の攻勢をかけるとしよう」


「枢機卿!あなたはここに残ってください。部隊の指揮は私がとります」


「そうとはいかないだろう。逆にここに残って私は何をすればいい?」


「それは…」


「私もすでに覚悟はできている。あとは残った枢機卿に任せることにしようじゃないか。それでは行くぞ」


枢機卿がそう号令をかけると残っていた参謀を含めて全員が自分の装備を取りに行った。


そして枢機卿は窓の外を見てこう語りかけた。


「師よ、いや康太。私はできるだけのことはしたぞ。あとは託した」




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