太陽の音を忘れない

長月瓦礫

太陽の音を忘れない


じりじりと照り付ける太陽の音を頼りに地面を確かめて歩く。

煌々と輝く太陽は肌を容赦なく焼く。


延々と続くアスファルト、まっすぐ伸びる道路の果てに何があるというのだろう。

ここはあまりにも暑すぎて、ひまわり一本咲いていない。


なぜ、じりじりという音が太陽の音だと分かったのだろう。

太陽は音を発さないはずなのに、なぜだろう。


考えているうちにその音は電子音となって響き、俺は時計を叩いた。

午前8時、首から汗がたらりと垂れる。


最近、古代のセミは長生きしていたらしいということを動画で学んだ。

実は1か月も生きていたらしい。

夏の暑さに耐えきれなかったセミの死体を見て、短命だと勘違いしていたようだ。


死体がそこらじゅうに落ちていたというのだから驚きだ。

とてもじゃないが信じられない。


脆弱な個体から死んでいったのはセミも人間も変わらない。

気温は上昇し続け、季節の概念がなくなった。


人類は暑さをしのぐために地下へ逃げた。

アリの巣のように空間を広げ、生活するようになった。

最後まで地上に残って生活していた人たちは、全員死んだ。

木から落ちたセミみたいに野垂れ死んだ。


今や人類全員、引きこもりだ。

快適な温度に調節されたクーラーの中で生活している。


結局、地球温暖化を止められなかった。

経済と文明の発展し続ける代わりに自然を失った。


快適な生活を手に入れたはいいが、今度は季節を感じることができなくなった。

季節の植物だけでは温度を感じられない。

セミは昆虫園で展示することになり、そう簡単に見られなくなってしまった。


だから、代わりにセミの鳴き声を流すことにしたのだ。

古代の夏はセミの鳴き声が響き渡っていたらしい。

時間の感覚を麻痺させないために、季節の風物詩を再現している。


そこまでして季節の風物詩に執着する理由は何なのだろう。

セミはセミでしかないし、鳴き声にあまり意味を感じられない。

正直、うるさいだけだ。


それでも、まっすぐ続く道路、照り付ける太陽の音は頭から離れなかった。

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太陽の音を忘れない 長月瓦礫 @debrisbottle00

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