第41話 帰国ラッシュとペット達 (いろんなペット)


 ハムシーンが来襲するころの3月~4月は、日本の異動シーズンと重なり、帰国ラッシュと赴任ラッシュになる。


 大体は2月か3月に新赴任者が家族より先に来て引継ぎをする。なのでその時期にも歓送迎会があっちでもこっでも開かれ、マダム達も大忙しとなる。


 なので、そんな忙しい時期に「ハムシーン・メナハウス・ゴルフ(夢乃勝手命名)」なんて開催されたから、高田夫人以下のマダム達全員が激怒したのである。


※参照:第31話 春の砂嵐ハムシーンとゴルフと猫 (猫いません)」 

https://kakuyomu.jp/works/16817330661310076025/episodes/16817330662182342226


 家族ぐるみのお付き合いの歓送迎会は、大体ホームパーティー方式で。

 会社の歓送迎会はレストランで開かれることが多いみたい。

 

 レストランは大概エジプト料理食べ収め的に、エジプト料理のレストランが多いとか。気持ち、よくわかる!

 老舗高級店、ホテル高級店、庶民派の店、ピラミッドビューの店、ナイルビューの店、ナイルの船上レストラン。ベリーダンスショー見ながらとか、楽団ショー付き等いろーーーんなタイプのお店があるので、夢乃的には参加できるのは結構楽しみ!


 で、帰国や他の国への異動が決まると、色々な手続きや準備で大忙しとなるが、一番大変なのが荷物の仕分けなんだそうだ。


 一番重要なのが、オーナーの物と私物の分類をきっちり分けて互いに納得すること。


 何故かというと、エジプトでは大体、家具に家電付き賃貸が主流で、他に寝具とか食器等細々した物もつくことがある。

 それらは退去前にオーナーが来て、ちゃんとあるかどうか。壊れてないかどうかを確認するを

 その時、がめついオーナーだと、明らかにオーナーの物でない物も、自分達の物だ!と主張され揉めることが多いから。


 夢乃達は先輩達の忠告を聞き、退去時に揉めないよう、入居時に明らかにオーナーの物とわかる大物家具や家電以外の小物類は使用しないで、纏めて空いているクローゼットに保管してある。

 一覧を作り写真を貼り管理もしているし、自分達の物にはテプラとかで、名前に印もつけている。 

 そうしている人達は多いが、それでもトラブルは起きるらしいから悩ましい。


 実際、田中家が、前に住んでいたメゾネットタイプから、今のアパートに引っ越すときに、日本の有名メーカー〇キモトのカラトリーを付属備品の一部と主張されて揉めたらしい。

 お金持ちのはずなのに!せこいというかなんというか…。もちろん、日本のメーカーの物なので田中夫妻が勝ったらしいけど。


 そこさえ過ぎればあとは自分達ペースで、粛々と日本や異動先に持って行く物、いかない物。捨てる物、譲渡したりする物。譲渡の物は有償の物、無償の物と分けていく。


 そして、歴代駐在員引継ぎ品。

 これに自分達からのも追加したりして、有償と無償と分ける。

 

 有償の場合は、個人所有の車や自転車や家電が多い。持ち帰るのが面倒な物や、古すぎて使用はできるが、買った方が早い物もあるけどね。

 それは捨てればいいのだけど、一番困ったのは古い書籍。

 

 夢乃達の所にはたまりにたまった古い書籍が段ボールで20箱も残されて…唖然とした。

 その殆どが古すぎて劣化して読めないのが多くて。捨てるのももったいないので、日本人学校に日本人会図書室に譲渡を打診したが、やはり劣化と情報の古さで殆どお断りされてしまった。(ですよねー・笑)


 そうなると後は捨てるだけなので(仕分けは大変だけど)楽と言えば楽なんだけど…。

 問題は…見るからに怪しい、3重のダンボ―ル箱に厳重に梱包されていた本の箱達。


 はい…いわゆるオトナ向けの本類です!(泣)

 誰だよ!!こんな本を置いていった奴は!!!

 ちゃんと自分で処理してってよ!!


 ここはムスリムの国なのでこういう書籍は発禁本です。今の所有者は私達になるので、もしもばれたらまずい事になるのは私達なので…本当に困った!


 そのまま捨てればいいじゃないと言うご意見もあるだろうが、ここはカイロ、そうは問屋が卸さない!

 

 エジプトにはガラベージというゴミ収集、分別、破棄の仕事をしている人達が大概各ビルにいる。

 ビルで出されるごみを各階のごみステーションから集めたり、地下でや住人には見えない場所の屋外で分別する。売れる物や使える物は持っていくらしい。


 うちは大きな物以外は各階のゴミステーションからダスターで落とす方式だけと、下に落ちればガラベージが仕分けするのは同じ。


 そう…つまり3重梱包なんて絶対開けられるに決まっている!!


 色々考え、結論として家庭用のシュレッダーを買い、和也がせっせとクロスシュレッダーしていき、見えない袋に小分けし封印。大きな袋にそれらと、生ごみも混ぜ込んで絶対見られないようにして、少しづつ捨てて行った。


 誰かにあげるということもできないし?そういう捨てる手間暇大変だから、歴代で面々と押し付け…もとい…引き継いできたんだろう。


 でもどこかで誰かが処分しないと!


 なので後任の方達!ここで処分してあげたんだから!感謝してよね!

 と、思う夢乃だった。

 まあ後任はそんな苦労わかんないだろうけどね(苦笑)


 話が脱線しましたが、そんなこんなで荷物の分類、破棄は大変!


 その分類の中に…ペットも含まれる。

 (なんて書くととても嫌だけどね)


 ペットは気持ち的には家族なんだけど、他の荷物と同じく「物」扱いで、「輸出入品」に分類されるの。なんかねーだよねー。


 なので、犬猫以外は検疫の関係上等で、大概一緒に帰国や異動で連れて行けない。鳥とか魚系とか虫とか爬虫類とかうさぎとかハムスターとか?


 犬猫もいろんな理由で連れていけない事が多々あるらしい。

 犬種では飛行機に乗せられないのもあるそうだ。

 あと持病でNGとか。

 移動先で動物持ち込みNGとか。

 転居先賃貸住宅が動物NGとか色々ね。


 第二の飼い主を探してくれるのが飼い主として当たり前の義務なんだけど…捨てられる子も多いらしい。

 高田さん宅に保護された、アクアリウムに捨てられたベルダンディーみたいにね。だからベルダンディーは本当にラッキーガールだと思う。


 で、捨てられるのも街中とか河川とか公園とかじゃない。

 なんと!ビル内遺棄も多いんだそうだ!!びっくりだよ!!

 

 帰国のどさくさに、エントランスホールに、地下駐車場に、ビル前に、部屋の中に!籠やゲージ入れたままや、水槽事、ぼん!と放置されていたりするんだそうだ。

 まさに「物」扱い!信じらんない!!


 だから、その日も会社から帰った和也が難しい顔で言った言葉に夢乃は衝撃を受けた。


「Tメーカー支店長の松井さん宅前に、柴犬が捨てられたらしい」

 

「えええ!?なんで?日本犬だから日本人の家に捨てられたの?

 でも松井さん宅は結構セキュリティーの高いビルの上階だよね??」


「恐らくビル内遺棄だな。松井さんは日本から柴犬を連れてきているので、同じ犬種だから捨てられたんじゃないかと。

 帰宅したら、玄関の前にリードで繋がれていた犬が、沢山のドックフードと一緒に置かれていたらしい。松井さんは単身だから、日中にやられたんだろうなあ‥」


「酷い!!犬は散歩するから、どこで何犬飼っているとか情報漏れやすいか狙われたのね。ビル内遺棄ってことは、誰か帰国していたの?」


「5Fの住人がその日に帰国しているらしい。そこで3匹くらいの柴犬とか飼っていたので、その1匹だろうと」

「3匹?2匹は連れてったのかしら?」


「いや。バーブ―の話では、そんな様子は無かったらしい。恐らく屋外に遺棄したんじゃないかと。前日まで散歩していたらしいから」


「はあああ~~~ますますひどい話だね。松井さんが飼うの?」


「まずは保護犬や迷い犬サイトにUPしたらしい。直ぐにその帰国した家の犬に似ていると連絡きたらしいけど…証拠がない」


「マイクロチップとかは?」

「装填されているけど、登録ないらしい」

「ええええ!?そんな事あり得るの?」


「何でもありの国だからなあ…。

 暫くは先住犬とも相性いらしいので、そのまま保護するらしいけど…。

 要は日本人は甘いと判断されて、同じような遺棄があるかもしれないから注意するようにと連絡が回ってきたんだ」


「成程。

 そうだ!その犬の元飼い主の会社や大使館に言えばいいんじゃないの?」


「とっくに連絡したらしい。でも、その犬が確かにそこで飼われていた証拠がないから、関知せずらしい」

「あるあるだねー」

「だね」


 ふうう…と二人はやるせない気持ちで嘆息し、足元にすりすりしているファリーダを抱き上げた。


「俺達は何があろうとも、ファリーダを連れて行かないとな」

「当たり前だよ!ファリーダは家族なんだもん! ん?てことは帰国が大体決まったの??」

「いや…まだ先。決まったのは田中さんだよ。早くて今年の秋、もしくは来年帰国する」


「ええええええええええ!!!!!」


 今日はいろんな驚くことが多いと驚く夢乃だった。

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