第31話 春の砂嵐ハムシーンとゴルフと猫 (猫いません)

 エジプトでは春先になるとハムシーンと呼ばれる砂嵐が来週する。


 ハムシーン?ハムシン?それ何??


 和也説明によると、砂漠地帯の細かい砂塵を伴った乾燥した高温風が、嵐のようにカイロの街を襲う物だという。


 ぴんと来ない。


「台風の砂版?」

 と聞いたら、和也は

「うーん」

 と腕を組んで唸る。体験した方が理解は早いらしい。


 なので、ハムシーン注意報が出た朝、なんか埃っぽいなあと起きて、カーテンを開けて仰天した!昨日までクリアに見えていた目の前の風景が白ぼけ、視界最悪!

 しかも窓を閉めていても細かい砂塵がどこからか入り込み、家中じゃりじゃり!ルンバ君もキーキー!言いながら掃除している。


 外に出ると、「乾燥した高温風」というのがよくわかるくらい、立っているだけで体中の水分がどんどん抜けるような未体験感覚に、軽くパニックになる。

 乾燥したサウナの中にいる感じ??(意味不明)

 

 ファリーダもこの時期は苦手なのか、いつもより元気がなくなり、ベットの上で丸くなっていることが多くなった。飼い主とペットはよく似るというけど、夢乃もファリーダもこの時期は苦手なのだと悟った。


 なのに!!!


「夢乃…来週、出張者の方達が来るんだけど…その…メナハウスのゴルフ場でゴルフをしたいらしいんだ。女性も来るので…夢乃も参加してくれないかな?」


 そう和也に申し訳なさそうに言われた時、夢乃は口のしていたターメイヤ(そら豆のコロッケ)を口から落としてしまった。


「は?」


 冗談だよね?と夢乃が笑いながら返すと、和也は申し訳ない!という顔で頭を下げる。


「ウソでしょう!?だって、次のハムシーンがくるって予報でているよ!!!ハムシーンの中でゴルフとかありえないでしょう!!??」

 思わず絶叫した夢乃。


「ハムシーンだから無理だと説明したんだけど…どうしてもピラミッドに向かいショットをしたいらしい。田中夫人と高田夫人も参加するんだよ…」


「!!!!」

 夢乃は絶句した。


 田中夫人に高田支社長夫人まで強制参加と言うことは、それなりのランクの人達と言うことで、夢乃には拒否権はないということだ!


「今度健康診断で行くロンドンで好きな物買っていいから!!」


 そう拝み倒されて、夢乃は絶対行きたくないが、しぶしぶ承諾せざるを得なかった。

 

 当日、怪しいピンク色と言うか砂色の空を見上げながら、不機嫌マックスを飲み込んだ夢乃は、同じ鬼気迫る笑顔で立つ田中夫人と高田夫人と共にメナ・ハウスのグリーンに立っていた。


 この水分がバンバン奪われる空気!口を開けるだけで砂が!鼻にも砂が!!ゴーグルみたいなサングラスしていないと目にも砂が!!

 こんな状況で喜んでいるのは、危機感ない現状認識していない出張者のみだ!!和也達も帰りたいと言う顔を必死でかくしてニコニコしている。


 修羅場だ…。

 

 でもそれは言うまい。これも接待!!お仕事です!!

 

 だが、高田夫人はサングラスの後ろから、「途中でとっとと撤収するわよ!!」と、気迫ある目くばせを送ってくる。


 Yes!! Ma’am!!


 田中夫人と私も敬礼はしないが、深く同意に頷く。

 やってられっか!!接待より命と健康と美容の方が大事だよ!!


 グリーンにはいつものお邪魔猫達すらいない。茂みにもいない!

 バーブ―もキャディーもサングラスにガスマスクみたいなマスクして、うんざりとした顔をしている。


 わかる!!わかるよ!!


 てなことで、第一ショット!と同時に、ハムシーンがぶわああああああああ!!!と来襲してきた。


 あ…ダメ…前の人すら見えない。

 

 目に耳に鼻に砂が入り、口を開けると乾燥で口内がへばりつく感じにパニックになり、高田夫人が手を挙げて叫んだ。


「女性陣は全員棄権します!!」

 高田夫人、マジブちぎれ。


 その剣幕に、ハムシーンの凄まじさに恐れをなした男性陣数人も棄権をしたので、ほほうのていでクラブハウスに戻る。


 全員シャワーを浴びて着替えて、はあああ~~~とラウンジで冷たいお茶を飲んでいると、人数足りないことに気付く。


 はい。

 ハムシーンの中、ゴルフ強行したアホ…バカ…強者が数人いたようです。無事に戻れますようにと、アホ…バカ…強者達の無事を祈りつつ、私達はあきれ果てていた。


 そりゃ、何時間もかけて日本からきたんだから、「ピラミッドに向けてナイスショット!」を、したい気持ちはわかる!


 わかるが!!

 時期が悪いんだから、諦めも肝心だよ??


 とは思うが言うまい。

 それは和也達が何度も説明したはずなので。


 それに猫もいないゴルフ場は魅力半減だしね。(夢乃価値観的に)


 こういう時、猫達はどこにいるのかなあ?と、砂で真っ白な窓の外を見ながら夢乃は思う。

 ファリーダと同じように、どこかで嵐が去るのを丸くなりながら、じっとしているんだろうなあ。


 てなことを考えているうちに、残りの男性陣達も命の危険を感じて、ほほうのていで戻ってきた。

  私達は命の洗濯をした後なので、菩薩の心で出迎える。皆さま、お疲れ様でございました。そしてもう二度とハムシーンでゴルフしようなんて言わないでね!


 ハムシーンの時期は猫も出てこないので家にいるのが一番です!

(注意:夢乃的価値観です)


追記:

 駐在員のいう事は忠告はマジききましょうよ!!!

 ハムシーン舐めんな!!

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