第30話 猫専用アパートメントの猫 (白猫と猫沢山)

 また猫がいる…。


 買い物に行こうと玄関開けたら、そこに猫が座っていた。しかも白猫。ふさふさの長毛種猫だ。両足をきちんと揃えてぴしりと座り、青い瞳できょとんと小首を傾げる。


 可愛い。


 だが、夢乃の足の間から、ファリーダがまんまる黄緑の目で、青い瞳のふさふさ猫を半分威嚇しながら凝視している。少しへっぴり腰だ。相性は…いまいち??


 はあ…と嘆息して、夢乃は和也に電話をした。今日はヤシラが休みなので、バーブ―やビル管理会社と交渉して貰えないので。


 暫くしてバーブ―がわいわい言いながらエレベーターでやってきた。

 猫はさっ!と、私の後ろに隠れ、ファリーダは同時に家の奥に逃げて行った。


 ええええ?あべこべじゃないですか~~???ファリーダちゃーーん!!


 さて、翻訳アプリと片言あらビックと英語で会話をしてみると、バーブ―達もこの猫は知らないと言う。見た事ないと。


 は?その言い方だと、このビルの猫は全部知っているように受け取れますが~?と、突っ込みたいが、突っ込むまでの会話力がないので我慢する。


 仕方ないので、白猫は暫くうちで預かることになった。

 やれやれ、うちは家出猫や迷い猫の預かり所じゃないんだけどな~?もしかした猫仲間の間では、道に迷ったらあそこに行け!と、どこかマーキングされている???


 なんて思いながらも、白猫をフン捕まえて、シャンプーした。

 足を拭くだけでもいいかと思ったが…匂ったんだよ~~~。洗っていない猫の匂い~~。うちで預かるなら洗うはお約束ですから!!


 白猫は前にうちに来た迷い猫ミミと同じく大人しく洗われたが、ドライヤーは大暴れして逃げたので、タオルドライと、カイロの乾燥となめなめで頑張ってもらうことにした。


 早めに帰宅した和也は、リビングの白いソファーに同化するかのように、優雅に寝そべる白猫を見て目を丸くした。


「うちにずっと住んでいるみたいな態度だね?ファリーダは?」

「ファリーダは、主寝室のクローゼットの奥に入り込んで出てこない」

「ええええ!?あのファリーダが??相性悪いのかなあ??」


 ご飯タイムなので、クローゼットからファリーダを引き出し、猫リビングでご飯をあげる。ファリーダは珍しくびくびくしながらご飯を食べて、脱兎のごとく私達の布団の中に逃げ込んだ。


 珍しいファリーダのタ態度にめんくらう夢乃と和也。

 白猫は可愛いけど、そうなると早く帰ってもらいたいものだと、顔を見合わせた。


 結局、猫は3日間うちにいた。なかなか飼い主が見つからなかったのだ。バーブ―が1軒1軒、写メの猫を見せて確認していったが、わからない。数件留守宅があるので、そのうちのどこかかもしれないと言われたが…。


 流石に3日経つと、外からの迷い猫かもしれないと思うようになった。

 

 エントランスロビーにも、ビルの周辺いも「迷い猫」の張り紙がされるようになった。


 4日目、ドアのベルが「ビー!!」と鳴ったので、ヤシラが出た。そこにはバーブ―と、如何にもアラブの金持ち!!と言ういでたちの男性が立っていた。


「マダム、猫の世話係が来た」


 ヤシラが夢乃の所にきて説明するが、夢乃はきょとんとした。膝にはあの図々しい白猫が当たり前の顔で寝ている。ファリーダは奥のベットでふて寝。


 世話係???飼い主ではなく世話係???

 私の翻訳アプリ、使いすぎて、とうとうぶっ壊れた??


 実はこのビルの5Fに、前から猫屋敷があるらしいとは聞いていた。猫をなん十匹も飼っているお宅があるらしいと。


 実はそこはアラブのお金持ちのカイロでのアパートメントの一つで、カイロで買ったり保護した猫達専用のアパートなんだそうだ。


 猫専用!?

 金持ちの考えることってよくわかんない…。


 そう!つまりはこの白猫ちゃんは、そこの猫の1匹だったらしい。

 

 成程…ファリーダはこの猫から沢山の猫の匂いや気配を感じ、それでビビッて逃げ惑っていたのか!納得した!!


 彼はそこで猫の世話係として働いていたが、休暇で数日他の者と交代していた。戻ってきたら、どこか見覚えのある猫の張り紙があり、確認したら1匹いないので慌ててここに来たらしい。


 成程。


 だが、白猫は彼がなんか小難しい発音の名前を呼んでも知らんぷりだ。仕方ないので、夢乃が抱いて彼に渡そうとすると、凄まじく威嚇して、3倍の大きさに膨らんで奥の部屋に逃げ込んでしまった。


 気まずい空気が流れる。


 夢乃はちらりと彼を不信の顔でみる。本当に世話係???

 彼は大げさに本当だ!!と、訴えるが、ヤシラと夢乃は懐疑的に彼を見る。

  

 結論として彼の言うことは本当らしいが、白猫ちゃんは彼が大嫌いらしく、奥の部屋のクローゼットの中に入り込んで出やしない。

 

 何かしたんじゃないの?いじめたとか。

 仕方ないので、彼にはとりあえず帰ってもらい、宥めすかして白猫ちゃんをおびき出し、彼が持ってきたゲージに入れることに成功した。


 流石に知らない男性のいる家に女性一人で行くのは不味いので、和也が現地社員のヘンリーさんと一緒に帰宅。ヤシラも当然付き添うと鼻息荒い。

 

 なので、バーブ―も入れると総勢5人で、白猫ちゃんをその猫屋敷に運ぶことになった。


 5Fは…別世界だった。


 エレベーター降りたら、いきなりアラビア風の玄関がどーん!

 そしてそこから先は白と青を基調とした、まるで巨大な温室のような広大なフロアが広がっていた。いたるところに猫専用の家具が置かれ、白いタイルの上を猫達が無数にうろうろしている。

 

 凄い数…。

 猫好きの夢乃も流石にドン引きする数の猫達だ。

 本当に猫専用のアパートメントらしい…。

 

 因みに、飼い主のアラブ人はここの上の階にも自分達専用のアパートメントもあるらしい。他にも一戸建てから、カイロだけでなく海辺にもあちこちに不動産があるらしい。

(ヘンリーさんが聞き出した話しによると)


 金持ちのすることって…本当に訳わかんない。

 

 世話係の彼が半泣きで「サンキュー!」連発してきて、ゲージを受け取ると奥の方で開けた。どうやらアラブの飼い主にばれると、とんでもないペナルティを受けることになるので必死だったらしい。

(ヘンリーさんが聞いたところによると)

 

 白猫ちゃんはゲージから頭を出し、他の猫達が一斉に臭いを嗅ぎに来たのも薙ぎ払い、奥の部屋に飛ぶように行ってしまった。その先で、シャー!とか、ふぎゃー!とか聞こえるけど大丈夫なんだろうか?


 とりあえずミッションコンプリート。

 

  私達は自分達の家に戻り、そこですき焼きパーティー!して、ご苦労様でした~!と、日本のビールで乾杯した。

(カイロでも日本のビールも買えるのよ~高いけど)

 

 美味しいいいい~~~!!

 

 ファリーダはすき焼きの匂いに誘われて部屋から出てくると、家中をあの白猫がいないか嗅ぎまわり、いないとわかると、疲れたように電気ストーブの前に寝転んだ。


 ファリーダもお疲れ様でした!!

 カンパーイ!!

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