第44話 合流、そして一時の休息
恐らくヴィヴィーがやったであろう大爆発。
その付近を目指して歩いていくと、大樹の木の根元で休憩しているアノイとヴィヴィーを発見した。
どうやらさしたる怪我もなく勝利を収めたようだ。
魔力はかなり消費したようだが、チーム戦で一人欠けた状態。その中をよく戦い抜いたものだ──いや、あいつらは最早立派な魔術師だ。
今は届かずとも、いずれ俺に比肩し得る可能性に満ちている。才能を認められた早期入学生ではない者が。
努力と執念で俺に追いつこうとしている。
それだけで俺は敬意に値する。
「──随分と派手にやったようだ」
「ゼノン!!」
「まあ、てめぇがあんな奴如きにくたばるわけがないだろうな」
ヴィヴィーが嬉しそうに、アノイはさも当然のような表情で駆け寄ってくる。
「アノイってば、こんなこと言ってるけどぶつぶつぶつぶつあいつ死んでねぇだろうな、とか加勢に行くべきか? とかめっちゃ心配してたよ」
「ばっっ! ライバルだが、今は仲間だからな! ……特に俺らの力不足のせいでてめぇは一人で戦ったんだ。チッ」
アノイは、頭をガシガシと掻いてバツが悪そうな表情で言った。どうやら俺を置いて進んだことに責任感を感じているようだ。
……慰めの言葉を吐くのは簡単だ。
耳障りの良い「戦略的に必要なことだったから、気にする必要はない」……「相性が悪かっただけでお前は弱くなどない」などの言葉。
その言葉をアノイやヴィヴィーが欲してると思うのか?
──輝いている。瞳が。
この短期間で重ねた成長が見て取れる。強者として歩みを進める者共に必要なのは慰めではなく、激励。
勝者だからこそ重みと説得力のある言葉。
「あぁ。今は力不足だった。だが、一ヶ月後はどうだ? 次に勝つのはお前達だ」
「はっ、言われなくてもそのつもりだ」
「はぁ〜、熱いねぇ。これが男子ってやつ? 軽い気持ちで参加したけどさ……負けるのは嫌だよね。勝ちたいよ、あたしも」
……どうやら言葉選びは合っていたようだ。
三者三様、やる気を出した。
まあ、だが……。
「一先ずは休息、だな」
「……道中で果物は発見した。魔力残量も心許ねぇし、食いながら立ち回りを考えるか」
「あ、じゃあ一番あたしが魔力余ってるだろうから、果物取ってくるね」
……やはり名門の学院だけあって、無理をしないことの重要さを理解している。ここで更なる戦いに投じても、必ず早いうちに魔力が尽きる。
完全回復は恐らく不可能だろう。だが、休息を取り、作戦を練る時間を作ることはできる。
ここから脱落したチームが多くなり、生存競争に勝ち抜いた強者ばかりになるだろう。
無為、無作為の特攻は愚策。
「おい、ゼノン。てめぇが戦ったあの剣士はどうだったんだ?」
「……強かった。だが、身体能力に技術が追いついていないな。搦め手を使えば捕えるのはそう難しくない。だが、あの身体能力に技術が追いつけば、いずれ世界最強の剣士として名を馳せるだろう」
「……そこまでか。……単純な魔法だけじゃねぇ、戦闘技術も学んだ方が良さそうだな。てめぇだって、これが終われば修行するつもりだろ?」
「なぜ分かった」
「完璧な勝利じゃなかった、って顔に書いてんだよ」
そうか……。心の底で悔しさを感じている。
真っ向勝負で勝ちたかった気持ちはある。しかし、勝利は勝利だと心を律する己もいる。
どちらも間違ってはいない感情なのだろう。
……アノイに見抜かれるのは予想外だったが。
「……己に満足してしまえば成長は止まる。例えどんな形の勝利であろうと、俺は俺に納得などしないだろう」
「そーかよ。ま、てめぇらしい。超え甲斐がある」
「待たないぞ」
「てめぇが進むより早く進む。簡単なことじゃねぇか」
……アノイのことが嫌いになれない理由は、このプライドを捨ててまで己の高みを目指す上昇志向だろう。
もとより嫌いではなかったし、どちらかというと好ましくはある。それは関われば関わるだけそう思う。
決して友とも呼べず、真に仲間になる時はない、完璧なライバル関係。歪だが、またそれがいい。
「君ら本当にバトルジャンキーだよね。ほら、果物採ってきたよ」
「あぁ、サンキュー」
「助かる」
後ろからひょっこり現れたヴィヴィーが、呆れ顔で果物を差し出してきた。
店でも普通に売られてある果物だ。
この作られたような植生に、都合よくある果物。
校長の差し金なのは間違いないな。
「しばらくはここで休む予定だ。交代で仮眠を取る。魔力回復は睡眠が最も効率が良い」
「えぇー、こんな状況で寝れるとは思わないんだけど」
「大丈夫だ。こういう時のために催眠魔法を習得している」
「こわっ!」
「どういう時のためだよ……」
緊張状態の時は寝れないだろう?
ならば簡単だ。魔法で寝かせれば良い。
……なるほど。確かに引くか。
最近どうも頭のネジがどんどん緩んでいるような気がする。殺伐な世界にいるからだろうか分からんが。
「……ハァ。おい、催眠魔法かけろ。勝つためなら仕方ねぇ。今はどんな手を使ってでも魔力を回復しねぇと戦いにもならねぇからな」
「うーん……じゃああたしも。でも寝てる間変なことしないでよ?」
「安心しろ。興味ない」
「それはそれで複雑ッ!」
「【催眠】。眠れ」
吠えるヴィヴィーを無視して魔法を発動させると、アノイとヴィヴィーは秒で眠りについた。
この魔法は同意が無ければ発動できない。
どのみち戦いで興奮状態にある者を眠らせるのは物理的に不可能なのだ。完全に使い時がかぎられているが、役に立つならば問題ないだろう。
「さて、見張りだな」
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アノイがどんどんツンデレ化してる気がする件。
闇覚醒して主人公にボコされるかませ犬に憑依したが原作と違いすぎて戸惑ってる 恋狸 @yaera
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