第43話 復活
森の幹に体を預けて眠っている少年がいた。
ゼノン・レスティナータ。
早期入学生であり、目の上のたんこぶ。一般生からすると、その存在を脅かす恐ろしい者でもある。
幸いなことにゼノンの所属するクラスの早期入学生は比較的温厚であり、問題という問題はギリギリ起きていない。
しかしここで問題に上がるのは、他クラスの早期入学生の存在である。
彼らは同じく目の上のたんこぶであり、更には思いっきり色々やらかしてる問題児であった。
ゼノンが数刻前に戦ったリュエルに至っては、決闘で一人生徒を殺している。戦闘狂極まりない。
たまたま校長が近くにいたことにより、生徒を一命(?)を取り留めたが、このことは一般生の早期入学生の在り方を疑う結果となった。
力を持つ者は往々にして人格破綻者が多い。
校長がその筆頭だろうが。
長々と語ったが、つまり何が言いたいかと言うと──。
──森の中で不用心に眠る早期入学生など、他クラスの一般生からするとカモでしかないのだ。
「おい、アレ早期入学生じゃねぇか?」
「普通に童顔説もあるけど、ここら辺地形変わってるし闘った後なのかもね」
「チャンスじゃん! 今のうちにやろうぜ」
3人の他クラスのチーム。
運の悪いことにゼノンは見つかってしまった。
魔力切れ。度重なる連戦。疲労と傷の痛み。仕方ないと言えばそれまでだが、体力や魔力の量と質も実力の一つである。
「えー、でも無防備な相手に一方的に攻撃するの卑怯じゃない?」
チームメイト唯一の紅一点が、唇を尖らせながら言った。
「いんや、これは試験だろ? チームと逸れてて、尚且つ森の中で気絶。ここで見逃す方が試験の趣旨とは違うだろ」
「右に同じく。運が悪いとか言ってられないし、同情も必要ない。第一、早期入学生には散々辛酸を嘗めさせられただろ?」
「まあ、そっか」
チームメイト二人の意見に納得した彼女は頷き、三人でゼノンの元に歩いていく。
スヤスヤと眠るゼノンの姿は、容姿の良さもあり手が出しにくい状況であったが、三人は心を切り替えて手をかざす。
三人は顔を見合わせる。
しかし──
──年若い三人は微かな躊躇いが存在していた。
「──僅かな躊躇いが、戦場では隙になり得る」
──【雷撃】
「「「なっ!?!?」」」
パチリと目を開けたゼノンによって放たれた魔法【雷撃】は、吸い込まれるように三人に当たり、かなりの勢いで吹き飛ばした。
「手加減はした……が、脱落は免れないだろう」
ゼノンはパンパン、と制服についた汚れを払い、苦々しい表情で立ち上がった。
「不意打ちが何だのとは言ってられないが……、煮え切らないものがある」
☆☆☆
……かなり危険な状況だった。
目が覚めるのが少しでも遅ければ、俺はあの三人の魔法に成すすべもなくやられていただろう。
結果としては不意打ちの勝利。
この試験会場は最早戦場だ。卑怯だろうが、戦略。不意打ちだろうが奇襲。
咎められることもない。だが、気持ちの良い勝利とは言えない。
この気持ちに折り合いがつけられないのは、俺が未だ未熟である証拠なのだろうか。
「それなりに時間は経っている。アノイとヴィヴィーとの合流が先決か……」
あの二人がどうなっているかも分からない。
魔力がかなり回復したとはいえ、【探知】をずっと張り巡らせるほどに余裕があるわけではない。
にしても……少量の睡眠でここまで魔力が回復するとはな。ゼノンのスペックには少々驚きだ。
「さて、どう探すか……」
俺は立ち止まり思案する。
会場はかなり広い。闇雲に探しても見つかる可能性は低い。せめて指向性を持たなければ早期の合流は不可能だろう。
などと思っていると──
──ドカァァァァン!!!!
という凄まじい轟音が響いた。
瞳に魔力を込めると、その魔法はほとんど威力のない宴会魔法であり、使用された魔力には見覚えがあった。
「なるほどヴィヴィーか。探す手間が省けた」
あいつらもなかなか派手にやるものだ。
俺がいなくとも、二人は十分に強い。
俺を倒すべく修練を積んでいるアノイも、先日何かを掴んだような表情をしていた。俺には隠している技があるのだろう。
探り当てることは無粋か。
俺は瞳の魔力強化を中断し、爆発の方向へ歩みを進めた。
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