第42話 リーダー不在

Side アノイ


 さて、やりますか、なんて余裕な状況じゃあない。

 残存魔力は、度重なる連戦で残り3割もねぇし、それはヴィヴィーも同じことだ。つーかお前、なんであんな大魔法連発してたのにてめぇはそんなに魔力消費してねぇんだよ。

 まあ、バカの魔力総量はさておきだ。

 できればこの試験では見せるつもりの無かった切り札を切らねばいけない時が来たらしい。

 負けんのは簡単だ。

 もう疲れて死にそうだから仕方ない?


 ──んなわけねぇだろ。

 魔力が無くなれば拳で。拳が砕けりゃ頭でも何でも使ってやる。今ここで俺らが負けたら何て言われるか分かるか?


 リーダー不在。早期入学生相手じゃ仕方ない。

 なんて同情した視線を送られることだろう。


「ふざけんな」


 俺は諦めるつもりなんてねぇんだよ。

 今は無理でも、いつか俺もあっち側に立つ人間になる。そのための努力と研鑽だ。積み重ねた努力と思考は絶対無駄にならねぇ。


 それに、繊細さの欠片のない才能マンに負けてるくらいじゃゼノンには絶対勝てねぇ。これは俺が……いや、俺達が乗り越える試練だ。


「おいバカ。切り札を使えるのは1度きりだ。タイミングを外せばアイツの波状攻撃を食らってジ・エンド。お前にはどうにか隙を生み出して欲しい」

「バカバカうるさいよ。隙を作れば良いんだよね? 魔力ほぼすっからかんになるけど、良い魔法があるよ?」


 ヴィヴィー《バカ》は、まるでこれから盛大なイタズラをしてやろう、と言わんばかりの歪んだ笑みでとある作戦を伝えてきた。


「あー、なるほどな。まあ、悪くはねぇか」

「でしょ? というか、さっきからずっと上から目線! そろそろ名前で呼んでよね」

「この作戦が成功したらな」

「なんかその言葉すっごく嫌な予感がするんだけど!」

「うるせぇな、ガタガタ言わずにさっさと行け」

「もぉー!! 私じゃなきゃ怒ってるよっ」


 いや、怒ってんじゃねぇか。

 バカは、ぷりぷりと怒りながら乱戦のど真ん中に走り出す。……別にアイツを認めていないわけではないが、素直に名前を呼ぶのも今更癪なんだよな。

 ま、約束通り作戦が上手く行けば呼んでやるさ。


「俺も動かねぇとな」


 俺は茂みに隠れつつ、その時を待つ。

 

「──【次元結界ディメンション・バリア】」


 ……今だッ!!

 飛んできた大規模炎魔法を秘匿魔法で消し飛ばす。

 あとはバカが注意を引けば────



「【大・爆・発☆】」


 ──ドッッカァァァァン!!!!!!

 と、バカを中心に盛大な爆発が巻き起こった。


「はっ、おもしれぇやつ」


 笑いながらも遠くにいるメナスを見ると、狙い通り爆発の発信源に注目し、かなりの警戒をしているようだ。

 その隙を──突く。


「【次元放出ディメンション・ディスチャージ】」


 俺は先程消し飛ばした大規模炎魔法をメナスのに威力を保ったまま出現させた。

 メナスとそのチームメイトたちは、急に現れた魔法に混乱し、呆気なく炎に飲み込まれて脱落していった。


「上手く行ったな」


 上手く行くだろうと確信があったからこそ、大袈裟に喜ぶことはないが、それでも披露した切り札の有用性と俺自身の成長を噛み締めた。

 ……これでまたアイツに勝てる未来が生まれた。

 ウカウカしてると飛び越えてくぜ、ゼノン。


「やった! やった!!! やったぁぁ!!!」

「ちょ、おい!! 抱き着くな気持ちわりぃ!」

「美少女の抱擁を気持ち悪いとは失礼極まりないよ!」


 突進してきた赤毛のバカ。その抱擁に、動揺がなかったと言えば嘘になる。別に柔らかな気配に興奮したわけじゃねぇし、急すぎて思考が働かなくなっただけだわ。くそっ、一瞬でも動揺した己が憎い!

 平凡な顔立ちのバカだが、女子は女子だし好感がないわけでもねぇ。家柄も気にせずバカはバカらしく接するところも悪くはねぇ。


 って何考えてんだ俺は。


「てか、あの魔法何?」

「あーー、ゼノンには言うなよ?」

「ライバルだもんね。了解」

「ロングレン家の秘匿魔法、【次元結界ディメンション・バリア】は結界に触れた魔法を消し飛ばす力があんだよ。だが、消し飛ばした魔法の行方が分からなかった。明らかに根本から消してるわけじゃなく、どこかにっつー感覚が手元に残ってた。飛ばすことができんなら、飛ばした魔法を操ることも秘匿魔法の範疇だと思った。んで、魔法の解釈を広げつつ修行してたらモノにできたわけだ」

「はぇー……。要は魔法の自在放出が可能になったってことだよね? 魔力消費凄そうだから連発はできないかもしれないけど、それでも十分に通用する切り札じゃん」


 ……意外と頭の回転は早ぇんだよなこいつ。

 俺の改良した秘匿魔法のミソは、次元と結界に対する理解度だ。秘匿魔法を改良する上で掴んだ魔法の核心は、他の魔法を使用する上でも糧になった。


 俺は明らかに前よりも何段階も強くなっている……!

 ワクワクすんじゃねぇか。

 俺が強くなっているように、ゼノンもどんどん強くなっている。ならば、それ以上の成長スピードで進めば良い。


 あ、つーか……


「てめぇの大爆発は何なんだ? 見た目の割にお前自身のダメージは少ねぇけど」

「あぁ、あれね。宴会魔法だよ」

「……は?」

「聞こえなかった? 宴会魔法。場を盛り上げるやつ」


 ……は?


「もぉ、察しが悪いなぁ。宴会魔法の一つに【自爆】っていう自身も周りも巻き込むけど、ダメージの無いネタ魔法があるんだけど、それを改良してあたしの爆発魔法と組み込むの。そしたら、かなりヤバイ爆発が起こるんだよね。まあ、ダメージ無いけど」

「お前……よく、土壇場でそんな魔法出したな……」


 胆力に驚けば良いのか悩むわ。

 まあ、実際、隙を生み出すには最大限の効果を発揮したし、例えその正体が宴会魔法の派生でも文句を言う筋合いはねぇな。


「……助かった。ありがとな」

「名前で呼んでくれないの?」

「……チッ、ヴィヴィー。これで良いかよ」

「ヨシ! じゃあ行くよ! アホ!」

「おいぶっ殺すぞマジで」



 俺らは、罵り合いをしながら不在のリーダーを探しに行くことにした。

 

 

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

謎のラブコメPart。

ちょっと、アノイ、その場所代われ。

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