タイムスリップした元陰キャの俺、大切な妹を救うために生徒会に入ります〜与えられた仕事は......風紀委員?〜

エンジェルん@底辺作家

第1話

 「ハァハァハァハァ、嘘......だよな」


 俺は今まで生きてきた中で1番の速さで病室へ向かう。

 その途中ですれ違う人たちはみんな俺のことを何かを察したかのような目で見てくる。


 「ハァハァハァ......ここか......本当にこの先に......」


 俺はドアの取手に手を伸ばすがどうしてもドアを開くことができない。


 「ははは、実はドッキリでした〜みたいな展開だったりしないかな......いや、きっとそうだよ。絶対にそうに決まってるって、玲衣華れいかは昔からイタズラ好きだったもんな」


 俺はそう無理やり誤魔化して現実を受け止めようとしない。そうしないと自分の心を保てない、どす黒いもので埋まってしまう。


 「ど、どうせドアを開けば玲衣華が『ドッキリ大成功!』 っていつもの明るい声で言ってくるに決まってる。よし、病室に入ろう......」


 俺はこれ以上何も考えない、思わないようにして無理やりドアを勢いよく開けるが


 「れ、玲衣華、どうせ......」


 ドッキリなんだろ!


 言葉を続けることができなかった。


 その場にいる人全員が下を向いて俯いていて、中にはハンカチでこぼれてくるものを拭う人もいる。

 俺は嫌でも現実を突き詰められた。さっきまで淡い希望を抱いていた自分を全力でぶっ飛ばしたくなる。だが、なぜか同時に俺にはここに誰がいるか確認する冷静さがあった。


 両親と祖父母、お医者様と看護師、現生徒会長と風紀委員長、

 そして高校時代に唯一陰キャの俺に話しかけてきてくれて、さらに大学デビューまで手伝ってくれた幼馴染の元生徒会長がいる。


 「帝正ていせい......玲衣華ちゃんが、玲衣華ちゃんが」


 幼馴染の姫也ひなりが大粒の涙をこぼしながら


 「ごめんなさい。ごめんなさい。私がもっとしっかり玲衣華ちゃんの側にいなくちゃいけなかったのに、君に任されたのに......本当にごめんなさい。ごめんなさい」


 俺の目の前まで来て、俺の胸元に頭を押し付けて何度も何度も謝ってくる。


 (もう......やめてくれ......姫也がそんなに謝らないでくれ。......俺はお前の謝る姿なんて見たくない。それに......すべて悪いのは玲衣華をいじめた奴らだろ)


 俺はそっと左腕を姫也の背中に回し背中を優しく撫でて、右腕を姫也の頭に回しぎゅっと抱きしめる。


 姫也は一瞬ビクッと体を震わせたが、すぐに抱きしめられていることを理解して、姫也も俺の背中に腕を回してくる。


 俺は姫也を落ち着かせるためにしばらくこのままでいる。


 そうしていると姫也は徐々に泣き止んでいき、呼吸のスピードもいつも通りになっていく。


 だが、それと反比例するように俺の心にどす黒いものが流れ込んでくる。


 ――絶対に、絶対に許さない


 俺の大切な妹を死に追いやり


 俺の大好きな幼馴染を泣かせた


 奴らを


 俺の中に怒りを超えた憎悪が湧き上がってくる。


 体は燃えるように熱くなり、目の前が真っ暗になってくる。


 「帝正! ていせい! てい――! ――! ――」


 大好きな人が俺のことを必死で呼ぶ声が聞こえる。でも俺の意識は何者かが連れ去ろうとしているかのようにどんどん奪われてゆく。


 「お兄ちゃん! お兄――! お――! ――」


 最後には大切な人が俺のことを呼んでいる気がした。




 +++

 「チュン!」


 「チュンチュン!」


 「......もう少しだけ」


 「チュンチュン! チュンチュン!」


 「あと......5分だけ」


 俺はなぜか小鳥にもう少し寝る許可を求めている。 


 「......すぅー」


 わずかな沈黙の後、一瞬息を吸う音が微かに聞こえた。

 

 「チュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュ」


 限界まで言い切ったのだろうか、最後は息が切れていた。


 そしてまた、微かにハァハァと息遣いが聞こえる。


 今日の小鳥はやけにしつこく語りかけてくる。仕方なくうっすらと目を開けると懐かしい天井が目に映ってきた。


 あれ? どうして俺の部屋にいるんだ?  


 昨日は確かーー


 俺は昨日のことを思い出そうとしたがすぐにやめた。


 思い出したくない、受け入れたくないことだから。


 そこで俺は必死に別のことを考えようとする。だが、頭がしっかりと働くようになるにつれて現実を見ることを強制させてくるように昨日のことが鮮明に思い出されてくる。


 さっと涙が頬を伝ってゆく。


 俺は右腕で涙を拭いながら、もう一度目を閉じる。


 すると妹と過ごした日々がありありと浮かんでくる。


 でももうこれ以上思い出が更新されることは決してない。


 「玲衣華......」


 戻ってきてくれ......


 こんなことは絶対に言えない。言うことが許されない。


 俺が玲衣華から離れて、世話を姫也に押し付けたから。


 俺は大学進学のために実家を離れ、地方で一人暮らしを始めた。玲衣華は俺が地方へ引っ越す時


 「私を1人にしないでよ、ずっと側にいてよ! お兄ちゃん、お兄ちゃん」


 大声で泣きながら何度も何度もそう言ってきた。


 俺は無責任にも


 「少しの休みがあれば必ず戻ってくるから」


 なんて言った。


 それなのに俺はここの間忙しすぎて帰省ができていなかった。


 俺が玲衣華の下へしばらく帰らなかった結果


 玲衣華が俺の下を一生離れることになったのだ。


 俺が玲衣華を呼んでも


 玲衣華からの返事があるはずない。


 絶対にあるはずがない。


 それなのに


 「おおおおお兄ちゃん! どどどどどうして泣いてるの?」


 ひどく素っ頓狂な声が返ってくる。


 俺はこの瞬間世界一レベルの速さで体を起こし、声がする方を向いた。


 そこにはいるはずのない人がいる。


 昨日見た時はピクリとも動かなかったのに目の前にいるそれは全身で俺のことを心配してくる。


 「......」


 少し昔の寝巻きを着た妹がいた。

 



 

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