終章 大団円
それから何日か、ローデとグロウは〝丘〟に滞在した。生命力融合によって危機は脱したとは言え、病気そのものが治ったわけではない。治療のためには魔導法に薬も交え、気長に治療をつづけていくしかない。コースターをはじめ、生命力を提供した人たちへのケアもあった。
一方ではいつも通り、芝居や手品で人々を楽しませながら日を送った。ある日、舞台の片付けをしているとコースターが母親の手を引いてやってきた。
「ペンジュラさん! もう出歩いてだいじょうぶなんですか?」
「はい。今日は気分が良いもので。おふたりのおかげです。本当にありがとうございました」
「とんでもない。子どもを残しては死ねないというあなた自身の思いですよ」
ローデは笑顔で言った。
グロウもうなずいた。
「そのとおりです。結局、人が助かるかどうかは本人の意思が一番、重要ですからね。あなたがあきらめていれば助けられなかった」
「まあ。それじゃあたしのあきらめの悪さが助かった理由ってことね」
ペンジュラはそう言って朗らかに笑った。
――よかった。あたしはこれが見たくてグロウのもとに来たんだわ。
ペンジュラの笑顔を見て――。
ローデは改めてそう思った。
「ありがとうな、グロウのおっちゃん、ローデの姉ちゃん。おれも大きくなったら道化魔導士になるよ。『笑顔座』に入るからまっててくれよな」
「なに言ってるの、この子は。夫婦水入らずの邪魔をしてはだめでしょう」
と、ペンジュラは息子の頭を軽くこづいた。
グロウは愉快そうに笑った。
「はははっ! いつでも歓迎だよ。でも、『笑顔座』は厳しいぞ。入りたかったらそれまでの間しっかり勉強して、体も鍛えておくんだぞ」
「おう!」
そして、『笑顔座』が〝丘〟をはなれるときが来た。いつまでも手を振るコースターたちに見送られながら馬車に乗り、街道を走っていく。
「あ~あ。やっぱり、親子の絆っていいわねえ。あたしも子どもたちに会いたくなっちゃった」
「会いに行こうか」
「いいの⁉」
「ああ。おれも君の子どもたちに会っておきたいしな」
「でも、予定が詰まっているんじゃないの?」
「辺境に中央の情報を届けるのも仕事の内だ。そろそろ、都市部に行って辺境で配るための雑誌やらなにやらを買い込んでいい頃だ。ちょうどいいさ」
「じゃあ、子どもたちに胸を張って自慢するわ。お母さんは人ひとりを助けてきたのよって」
今回の件は子どもたちの冒険心をかきたて、『自分もそうなりたい』という思いを抱かせることだろう。『母の家』において、母親が子どもをおいて卒業していくことには実はもうひとつの理由がある。
ときおり帰ってきて外の世界での冒険を語って聞かせることで、子どもたちの冒険心をかきたてる、と言う理由がだ。
母性とは家庭のなかにあって子どもたちを愛し、包み込むもの。
父性とは家庭の外にあって子どもたちの冒険心をかきたて、外の世界に誘うもの。
母親としての役割を終えたローデは、これからは『父性』となって子どもたちに接するのだ。子どもを一人前のおとなとするために。
そう思うと――。
新しい親としての役割にワクワクするローデだった。
完
子育てが終わったので、結婚して道化魔導士になります 藍条森也 @1316826612
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