第17話 連鎖の洞窟
リリィちゃんが招き入れてくれたその家の中には至るところにエヴァンさんの存在が感じられた。
エヴァンさんとリリィちゃんが二人で写る写真に、どこが良いのかわからないカメレオンの置物などなど・・・。
「どうぞ。お父さんがよく飲んでるコーヒーだよ。」
「ありがとう。」
そう言ってリリィちゃんが差し出してくれたコップにもカメレオンのイラストが書いてあった。
おそらくリリィちゃんの使っているコップとセットで買った物なのだろう。
家の隅々からも、エヴァンさんがリリィちゃんを大事に思っている事が伝わってくる。
そして、リリィちゃんもまたエヴァンさんの事が大好きだと言うことも・・・。
「随分お父さんと仲いいのね。リリィちゃん。」
「うん。私の為に魔法の勉強にも付き合ってくれるんだ。お父さん大好き!」
「リリィちゃん、魔法使いなのかい?」
ルシフェルが尋ねる。
「まぁね。と言っても、まだまだ全然自分じゃコントロール出来ないんだけど・・・。」
「そっか・・・。」
私は屈託の無い眼差しを向けるリリィちゃんに正直に打ち明ける事が出来ないでいた。
エヴァンさんが死んしまった事を・・・。
「別に言えないんならそれでもいいんじゃねぇか?」
私の様子を見かねてか、ミョウジョウがそう耳打ちしてきた。
「でも・・・。」
「ダイジョーブだって。エミリーの話が本当なら俺たちが石を見つけさえすれば、エヴァンだって何事も無かったように帰って来るさ。」
「ミョウジョウ・・・。」
「エミリーの話を信じようぜ。なぁ、ルシフェル。」
「あぁ、そうだな。今はそれしかないよ。」
ミョウジョウにそんな風に言われるなんて、そんなに私からは悲壮感が漂っていたのだろうか。
しかし、確かにミョウジョウの言う通りだ。
石さえ見つければ、リリィちゃんの生活は全て元通りになるはず。
その為にも、なんとか石を見つけないと・・・。
いや、絶対にみつけてみせるんだ!
「リリィちゃん、必ず石を見つけてお父さんをー」
「漏れてるよ!心の声が!」
ルシフェルの言葉に私はハッとした。
「??お父さんがどうしたの?」
リリィちゃんが不思議そうに私に尋ねる。
「あぁ、いや、何でも無くて、てか、違くて・・・。」
「甲斐がねぇよ。せっかく気を回してやった甲斐が。」
アタフタしたせいでつい、しどろもどろになってしまった。
なんとか気を立て直して・・・。
「あの、リリィちゃん?」
「うん?どうしたの?」
「私たち、この場所には石を探しに来たんですよね。」
「ですよねって・・・。」
「何で敬語なんだ・・・。」
「・・・。」
いや、二人の小言をいちいち気にしている場合じゃない。
「それで、何か見なかったかな?」
「う〜ん。石かどうかはわからないんだけど、変わった石みたいな奴なら見たよ。」
「え?本当に?」
リリィちゃんのその答えは意外だった。
「それで、どこで見たんだ?」
ミョウジョウがリリィちゃんに尋ねる。
「この家の裏の方に洞窟があるんだけど、満月の夜の時にキラキラ光る綺麗な何かが大きな音を立てて落ちてきたの。」
「本当だな?」
「うん。」
「そっか。いやぁ助かったよ。下手すればこの辺りをずっと歩き回って探さなきゃならないところだったからね。」
そう言ってルシフェルは大きく息を吐いた。
「リリィちゃん、早速で悪いんだけど、私たちをその場所まで案内してくれない。」
「うん。わかった。」
リリィちゃんが案内してくれた洞窟は、リリィちゃんの家から歩いて30分程の所にあるという。
私たちはリリィちゃんの案内でその洞窟に向かっていた。
「しかしなんだな。」
行く手を阻む草木を掻き分けながらミョウジョウは言った。
「何でこんなヘンピな所に親子二人だけで住んでるんだ?何かあったら事だろ。」
「それは私のせいと言うか、私の為というか。」
ミョウジョウの後に続きながら草木を掻き分けリリィちゃんが答える。
「私は小さい頃、体が弱くて。マジカルエンシェントの様な刺激の多い街に暮らすには体に良くなかったの。それで少しでも体に負担を減らそうと、街から離れたこの場所に暮らしてるって訳。」
「今はもう平気なの?」
茂みの枝を踏みながらルシフェルが尋ねた。
「今でもたまにパニックになると発作が起こるんだけど、滅多に起こらないからほとんど平気だよ。」
「そういう事は先に言っといてよ。何かが起こってからじゃ遅いんだから。」
これ以上、リリィちゃんを巻き込む訳にはいかない・・・。
「ヘーキヘーキ。石を拾うだけなんでしよ?あ、ほら。着いたわよ。」
リリィちゃんが案内してくれたその洞窟は鬱蒼とした茂みの中程にあった。
「こんな所に落ちたってのか。」
ミョウジョウは茂みの中にポツンと佇む洞窟を眺めながら言った。
「ねぇ、二人共。ほら、洞窟の上らへんよ。」
私は洞窟の外壁の上辺りに、不自然に空いた穴を見つけた。
「ひょっとして洞窟の中に落ちたのかも。」
「あぁ。だから大きな音がしたのかな。でもこんな頑丈そうな岩を突き破るなんて。一体どんな石なんだろう。」
「まぁ、それも見つければわかるさ。早く中に入ろうぜ。」
ミョウジョウのその一言をきっかけに、私たちは半分崩れかけている入口を潜り、洞窟へと足を踏み入れた。
ルシフェルにミョウジョウ、私とリリィちゃん。
全員が入っても洞窟は中がハッキリとしないほど意外と洞窟内は広いようだ。
「何も出ないといいけどな。」
ルシフェルが言った。
「それどころか、何も起こらない事を祈るよ。」
そしてミョウジョウも。
そんな二人の様子を見てか、リリィちゃんは言った。
「ダイジョーブ。ここに住んでるけど、危険な目にあった事なんて一度たりともないんだから。」
「いや、さっき魔物に襲われてたよね・・・?」
「あぁ、忘れてた。」
「ええ・・・。」
そしてやはり、嫌な事は起こるもので・・・。
ヴルルルルグァァアアア!!!!
地鳴りのような、何かの雄叫びの様な、凄まじい轟音が奥の方から木霊する。
「何?今の音?」
「何でも無ければいいけどな。」
「何でも無いことは無いと思うよ・・・。」
ガラララ・・・ドシャャアアアッッ!!
背後で何かが崩れ落ちる音がする。
「今度はなんだ!?」
「ヒッ!そ、そんな・・・!!」
「どうしたの?リリィちゃん。」
私はリリィちゃんに尋ねた。
「見て・・・!入口が・・・!!」
私はリリィちゃんの指差す方向、つまり入口の方に目を向ける。
「嘘・・・。入口が・・・ない。」
先程の轟音の振動で入口が崩れ落ち、私たちは洞窟内に閉じ込められてしまったようだ。
「嘘、嘘・・・!どうしよう!入口が!」
「落ち着けよソル。」
怯える私にミョウジョウは言った。
「あれは出口だ。」
「言ってる場合か!どっちでもいいだろ!・・・閉じ込められた事に変わりはないんだ。」
「どうしよう・・・。ウッ。」
「リリィちゃん!?どうしたの?」
閉じ込められたその状況で、今度はリリィちゃんがいきなり苦しみだした。
「リリィちゃん!?リリィちゃん、しっかり!!」
「ウッ・・・。ごめんなさい。ほ、発作が。ウッア、ア、ア!!」
リリィちゃんの体が明るく光りだした。
「なんだなんだ!次から次へと!!」
「大丈夫!?リリィちゃん・・・え?」
光が収まると今度はリリィちゃんの姿が目の前から消えた。
「リリィちゃん!・・・どこなの!?リリィちゃん!」
「こ、ここだよ。」
「いやどこだよ・・・。」
ミョウジョウがそういうのも無理はない。
姿の見えない所から、リリィちゃんの声だけが聞こえてくるのだ。
「どこなのよ・・・。」
「手を出して。お姉ちゃん。」
リリィちゃんの声に言われた通り、私は声がする方へと手を伸ばした。
すると・・・。
「え?・・・リリィちゃん?」
目に見えない何かが私の伸ばした手を掴む。
「うん。ここにいるよ。」
「どうなってるんだ、これは。」
ルシフェルの問いかけにリリィちゃんが答える。
「言ったでしょ。私はパニックになると発作が出るって。私はね、パニックになると自分の魔法で体が透明になっちゃうの。」
予想外の答え、予想外の症状に、私たちは声を合わせた。
「リリィちゃん・・・それ。」
「早く言ってよ・・・。」
なんという事・・・。
何でも願いを叶えるという月の石を探しに来た私たちは、何かがいるかもしれない洞窟内で、あろうことかパニックになると姿を消してしまう女の子と一緒に閉じ込められてしまったのだった。
召喚魔法を唱えてみたら〜まさかで始まる英雄譚〜 ダンゴロ @keiba3939
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。召喚魔法を唱えてみたら〜まさかで始まる英雄譚〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます