第16話 岬の小さな女の子

トト岬はマジカルエンシェントから『クル魔』でおよそ20分程の場所にあった。


「『クル魔』ってのは便利なんだろうが、列車に比べると乗り味悪いな。ガタガタ揺れてるじゃねぇか。」


「ドライバーの腕が悪いのよ。」


私は顔色の悪いミョウジョウをバックミラー越しに見ながら独り言のように呟いた。


「私のせいじゃありませんよお客さん。道です。道が悪いのです。」


舗装されていない道にハンドルを取られないように、必死にハンドルを握るドライバーもまた独り言のように呟く。


「しかし、いいのか。タクシーなんか乗っても。お金、無いんだろ。」


「大丈夫よ。なんか適当に理由をつけてエミリーさんにタクシー代強請ってみるから。」


「嫌な奴。変なトコしっかりしてるよな、お前って。」


「うるさいわね。」


「なぁ、どう思うよ?こいつのこういう所。」


ミョウジョウは隣に座るルシフェルに尋ねた。


「さぁ・・・。僕にはなんとも・・・。」


「・・・なぁ、どう思うよ?こいつのこういう所。」


どこか上の空でそう答えるルシフェルに、呆れた様子でミョウジョウは私に尋ねた。


「さぁ・・・。私にはなんとも・・・。」


「何なんだよお前ら、変な所で足並み揃えやがって。」


ミョウジョウの言う通り、確かにルシフェルの様子がおかしい。


こういう時ルシフェルは、もっと自分の意見を言いそうなもんだけれど・・・。


「着きましたよ。お客さん方。」


ドライバーがそういうと一際大きく車内が揺れた。


「ここがトト岬です。ご利用ありがとうございました。」


「どうも・・・。」


私はタクシーから降りて辺りを見渡した。


トト岬・・・マジカルエンシェントとは打って変わって殺風景な所だ。


「それにしても、こんな所に本当に月の石が落ちたのかね?随分と夢のある石だが、いざ探すとなると随分と果てしない事になりそうなもんだな。こりゃ。」


「エミリーさんも、もう少し目印みたいなの教えてくれても良かったのに・・・。」


見渡す限りに広がる大地、ミョウジョウの言う通りこんな所に本当に月の石が落ちたのだろうか?


その時だった。


「だ、誰か!助けてぇ!!」


どこからともなく女の子の叫び声が聞こえる。


「ちょっと、今の声聞こえた?」


「あっちの方からじゃないか?」


ルシフェルの指差す方に目を向けると、小さな女の子が魔物の様なモノに襲われているのが見えた。


「え、魔物?」


私は女の子を襲うそのモノの姿を目を凝らしてもう一度見てみた。


黒い翼のある、禍々しい牙の生えた大きな蝙蝠の様な姿に尻尾がある。


確かに魔物だ。


「何で魔物が・・・。」


「言ってる場合か。おいミョウジョウ。」


「君が行けよ、ルシフェル。僕より強いんだから。」


ミョウジョウから顔を背けるようにルシフェルはそう答えた。


「なんだ、どうしたんだお前。変な奴。」


そう言ってミョウジョウは魔物に向かって駆けていく。


「そりゃッ。」


ミョウジョウに蹴られた魔物は軽々しく吹っ飛び、そのまま岩壁に激突すると、ピクリとも動かなくなった。


「フン。雑魚め。」


「大丈夫?」


私たちは魔物に襲われていた少女に駆け寄り尋ねた。


「うん。ありがとう!」


そう言って女の子は屈託の無い笑顔を浮かべる。


私たちよりも少し歳下だろうか?


笑顔がとても可愛い女の子だ。


「あー、ビックリした。食べられるかと思って捕まえようとしたんだけど。」


「あんなゲテモノ喰おうとするなよ・・・。」


「でもビックリ。こんなヘンピな所に、まさか人が通りかかるなんて。ついてたわ。」


「いや、運は悪いだろ。魔物に襲われてるんだから。」


「でも、何で魔物がいるんだろ?」


「エミリーさんが言ってたじゃないか。」


ルシフェルは言う。


「『悪のるつぼ』の狂気が、眠っていた魔物を目覚めさせると。」


「そうか、それで・・・。」


エミリーさんの言っていた簡単じゃないという意味がようやく理解出来た様な気がする。


「あなた、お名前は?」


私は女の子に尋ねた。


「あたし、リリィ。あそこの家で、お父さんと2人で暮らしているの。良かったらあがっていかない?助けてもらったお礼もしたいし。」


そう言ってリリィは、トト岬に一軒だけある小さな赤い家を指差した。


「おっいいねぇ。饗されるのは嫌いじゃないぞ。」


ミョウジョウは甘える気満々のようだ。


「ちょっとは遠慮しなさいよ・・・。でもいいのかしら?お父さんの迷惑にならない?」


「うん!ダイジョーブ!お父さん、夜にならないと帰って来ないから。」


「へぇ。じゃあリリィちゃんは、ずっとお父さんの帰りを一人で待ってるんだね。」


「うん!もう慣れちゃった!」


そう言って笑うリリィちゃんの笑顔を見て、私は何故か嫌な予感がした。


「ねぇ、リリィちゃん。」


「うん?なぁに?」


「リリィちゃんのお父さんのお名前は?」


私の質問にリリィちゃんはまた、屈託の無い笑顔を向けた。


「エヴァン、エヴァン父ちゃんだよ!」








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