第3話 魔天朗

スカルツィオが右腕を持ち上げ 旧校舎に向ける

すると右手が縦横四分割に裂けて開き、腕の中の円柱シリンダーが回転しながら露出する。シリンダーの先端が鋭く光った瞬間、旧校舎が10メートルもの火柱を上げて大爆発した。


一瞬の出来事に身動きが取れなかった全校生徒達の間を熱風が吹き、炭の破片が髪や肩に降ってくる。


スカルツィオがゆっくり魔天朗へと振り向く


「おいっ図書委員!なに考えてんだ」


「自分がなにしたのかわかってんのか!危ねーだろがっ」


「ほら 右腕見せろ!早くっ早くっ」



図書委員はスカルツィオの右腕を 魔天朗に差し出し、魔天朗は内部を探りだした。


右腕内部では、冷却装置の風切り音が音をたてる。シリンダーの継ぎ目から漏れる青い光によって、内壁の金属板に見た事も無い幾何学模様が浮かび上がっていた。配線類は全く見当たらない。


口を閉じた魔天朗が

更地になった旧校舎のあった場所を見る


スカルツィオの腕から3歩下がって振り返った魔天朗は、ゆっくり歩みを進め、博士に小声でささやく


「本物だった」


「え?」


唾を飲み、お互いの腕を掴みながら震える 魔天朗と博士

魔天朗が振り返り「誤解があった……」と話しはじめると


「乗るでゴザる」

言葉をさえぎられ バギャンガスに指をさす。



校庭を逃げ惑う生徒達


バギャンガス両アームの掴んだヘッドが 屋上から浮かび上がる。

合体シークエンスにより 滑らかに運ばれるヘッドはボディと接続。

セットアップすると全身の不具合アラートランプがオールグリーン。

太ももの2つのエンジンと胸部発電機の4つエンジンが回転数を上げ


バギャンガスが大地に立つ。


ガムテープで片方を補修したバギャンガスアイが重低音の起動音とともに発光する。



と同時に バギャンガスの顔面を黒い塊が押し潰す


全長30メートルの機械 対 機械


スカルツィオのハイキックが


バギャンガスの顔面に突き刺さり


首からもげた頭が吹き飛ばされると


3回バウンドした頭が畑に転がり


追ってきた胴体に拾い上げられ


オートメーションで頭を元に戻す。


「死んじゃうっ死んじゃうっ死んじゃうっ」


ひしゃげた運転席内部で


魔天朗は泣きながら転げ回り


博士は泡を吹く


スカルツィオが 肩を怒らせて近づいてくると


「無理 無理 無理 無理 無理っー!」


と泣きじゃくり


スカルツィオの踏み潰し攻撃から


必死に転がって逃げる。


「こんなに弱いのなら もっと早くに戦っていれば良かったでゴザる」


「惨めに散って 地球を譲るでゴザる!」


スカルツィオの手刀がバギャンガスの腹を狙って飛んでくる


必死に、腰をくの字に折ってギリギリかわすバギャンガス


すかさず反対の手刀が迫ると


逆に腰を振り


左右に腰を振り振り


手刀の連続攻撃をかわす


「フンッ!フンッ!フンッ!フンッ!」



「しぶといでゴザる!」


スカルツィオが光る両手を突き付けると


バギャンガスはその手を払い


足元が輝き


爆煙とともに吹き飛ばされた。


土煙が一帯を覆い隠す。

「逃げられないでゴザるよ」




集合団地の棟と棟の狭い隙間に

体育座りのバギャンガスが隠れている。


メチャメチャに壊れた運転室では

窓ガラスが無くなり 壁が室内にめり込み

洗面台から水が漏れ 壁掛け時計が落ちて壊れ ロッカーと冷蔵庫が倒れて中身が散乱し

靴が乱れ 室内まで土煙が漂っている。


力が抜けて床に座り込む博士に抱きつく魔天朗が


「死ぬかと思ったぁぁぁ」

涙でぐしゃぐしゃの顔で言うと


更に鼻水が口に垂れたままの博士が


「お前に渡さなきゃならん物がある」

と言う


ドシンッ

どこかでスカルツィオの足音が響く


肩が跳ねて「ヒッ」と声を上げる2人


「よく聞け 魔天朗…」


「お前は今まで良くやって来た」


「もう1人前のパイロットじゃ」


「どちらかでも生き残れば いつか必ずチャンスも訪れるじゃろ」


「ダメだよ……博士!」

魔天朗の目に涙が浮かぶ


そして魔天朗は運転席に手を伸ばす


「この傷 オレが入学式に付けたやつだ……」

思い出を振り返り、博士と固く拳を握る


スカルツィオの足音が近づいて来る


「だから 今から運転はお前に任せる」


「さらばじゃ!」


運転キーを握らされていた。


「自分が助かりたいだけかよ!クソジジィ!」


「見つけたでゴザる」


土煙の中からスカルツィオの頭蓋骨が現れ、バギャンガスの頭を鷲掴みにすると、団地の間から引っこ抜かれる。


「うわぁああああああああぁぁぁ!」

運転席に座る魔天朗に上昇圧力が襲う


片手で軽々持ち上げられてしまったバギャンガス

スカルツィオの頭蓋骨にパンチを続けるも傷のひとつも付けられない


やがて、スカルツィオがもう片方の腕を向ける


拳が四分割に開き、内部シリンダーが露出する


魔天朗は必死にパンチを繰り返す

するとスカルツィオの頭蓋骨が胴体から外れ

同時にバギャンガスの首も胴体の重さに耐えきれず外れる。

バギャンガスの首が外れた反動で、スカルツィオの腕は跳ねあがり、掴んでいたバギャンガスヘッドが上空に舞う。


空に舞う魔天朗の目に スカルツィオのボディが映り 叫ぶ


「バギャンガス合体!」


ストンと落ちるバギャンガスヘッドが

スカルツィオの首に乗り


バギャンガスの肩に乗る博士が、両アームで掴んだ頭蓋骨をボディに据えると

バギャンガスとスカルツィオのボディが入れ替わった。



魔天朗が全身の力を抜き


両腕をふわりと空に上げる


やがて両腕は残像を伴い弧を描き


手刀を自らの腹部に突き立てると


魂の雄叫びが全ての人々に響く



「自爆!」



のちに博士が言う

なぜあの時 未知のテクノロジーが反応したのか不明じゃ……

もしかしたら、魔天朗の平和への願いが起こした奇跡なのかもしれない……


2本の光線がスカルツィオのボディを貫くと

ボディから3本目 4本目の光の線が放たれる

6本目……10本目と やがて輝きが全身を包み


スカルツィオは光と共に消滅した。




永井中学校 体育館

ここの床に、バギャンガスヘッドが突き刺さっている。


全校生徒の手によって救出された魔天朗が拍手と歓声の中を歩く


やがて、眩しく輝く校庭に出ると


夕陽を背負ったバギャンガスが立っている


「でかした 魔天朗!」


バギャンガスの肩に立つ博士が 親指を立てた拳を突き出すと


満身創痍の魔天朗が答える


「あ ああ…」


「あっ…あっ…ぅうえええぇぇん!」

「生きてたぁ生きてたぁ」


「泣くな まてん…ぐっ」

「ぶええぇぇぇん 死ぬかと思った!死ぬかと思った!のじゃぁぁ」


そしてもう一人、縛り縄の図書委員


「無念でゴザるぅ無念でゴザるぅ」

「ワルダーク星の姫の身分でありながら 敵の捕虜に成れ果てた親不孝」

「父上っ 救出のあかつきには拙者を厳しくお叱りくださいでゴザるぅ」



表情から血の気が引き

唾を飲み込む 魔天朗


再び 三者三様 号泣する。


~完~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秘密ロボット☆バギャンガス ヤマネコ重工業 @seffypapapa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ