第2話 図書委員

朝のチャイム、永井中学校の生徒達は 正面の校庭を大きく迂回して校舎に入る。

その中央を バギャンガスが地響きを立てて歩くが、誰も振り向かない

生徒、教師 その全ての嫌悪感を見下ろして、魔天朗は言う


「道あけてくれて 最近みんな優しいなぁ」


「おーい おーい おはよう」


窓ガラスを開けて 上機嫌で手を振る魔天朗を

見て博士が声をかける


「ヘルメットの目隠しを上げて 顔を見せてはならんぞ」


「分かってるって 正体は秘密だろ」


「うむっ もし正体が世間にバレたりでもしたら 正義の活躍に支障が出るからな」

博士は喋り続けながら ガタガタ体を震わせ顔を青くする

(公共物破壊の請求…鉄道妨害の遅延請求…エトセトラ エトセトラ…)


「大げさだなぁー」

満面の笑みの魔天朗

(……もうバレてるよ 普通に)


魔天朗の教室は 西校舎の二階の端、バギャンガスはその正面に腰を降ろし、両腕で頭を掴む


「バギャンガスゥゥ ヘッド フェイド アウツ!!」


「そう言うのいいからっ」

学生服に着替えながらツッコむ魔天朗


両耳のハンドルを 巨大な手が握ると、ハンドルは回転軸を残して外装から外れ、同時に首の固定アンカーも解放される。

首の旋回ギアの内側の プラグコンセント雌型がむき出しのまま バギャンガスヘッドが胴体からフワリと浮き上がると、両腕でゆっくり降ろされる。その間 底の外装内側から現れたランディングギアが着床の振動を和らげ、校舎の屋上に、バギャンガスヘッドが降り立った。


教室のドアが勢いよく開く

クラスメイト全員の視線が集まるが、一瞬だけ止まっ授業は教師の一言で再開する


静かで重たい雰囲気の中を ズカズカ歩く魔天朗が最後尾の机につく


「ふぅ 間に合ったぁ」


一安心した魔天朗は カバンの中を掻き回しながら隣席の女生徒に声をかける


「図書委員 いま 国語?」


ビクッと肩を縮めた図書委員は 恐る恐る振り向き 小さな口を開く


「そ そうでゴザるよ」


(うわぁ オレこの子 ダメだわ)


図書委員は 机に立てた教科書で顔を隠しながら 細い声で言葉を続ける


「拙者 ま 魔天朗殿に お尋ねしたい事がゴザる 」


「なので お昼 屋上に…」


「教科書さかさまだよ」


あわてる図書委員を見ながら魔天朗は


「じゃあ そん時ガムテープ持って来てくんない」


「オレ寝るから」


教科書を戻した図書委員は、隠していた瞳を教科書から出して魔天朗を見る

「ガムテープでゴザるか」


昼休み。理科の教鞭を終えた博士が、校舎、校庭からの冷たい目線の中、バギャンガスのメンテナンスを進めている。


博士の目線の先は屋上の2つの人影


「魔天朗殿 持って来たゴザる」


弁当食べながら 片手を突き出すだけの魔天朗の手のひらに、図書委員がチューインガムを置く


「は?なにコレ」


「ガム ガムテープじゃないでゴザるか?」


「はあぁぁ?ガムテープ知らないのかよっ

ウソだろ」


急に立ち上がって大声を出す魔天朗に怯え、図書委員は体を縮め震える。

その後 手を前に出す


「では こちらでゴザるか?」


ガムテープ


「……おう サ サンキュー」

「なんか 怒って悪かったなぁ」

「ごめん」


恥ずかしくて顔を赤くする魔天朗を見て、図書委員の表情が和らぐ


「ま 魔天朗殿にお尋ねしたい事は…」


魔天朗もホッとして

「いいぜ 何でも聞いてくれ」


図書委員の指差す方向を見る



「あの ロボットのパイロットが誰か 教えて欲しいでゴザる」



ポカンと口をあけて放心した顔を 図書委員に向ける魔天朗



「……分からないの?」


「分からないでゴザる」


「ホントにホント?」


「ホントにホントでゴザる」


「逆に聞くが あそこに居る バギャンガスに張り付いて整備している老人は 関係者だと思わない?」


「でも パイロットか分からないでゴザるよ」


魔天朗は腕を組んで考える


(からかってんのか?マジでやべぇヤツか?)



「ここの言葉は難しいでゴザる」


「まだまだ 本を読み足らないでゴザる」


「マジ? 図書委員って外国人?」


「どうりで 細くてなんか エルフって感じ」


「忍者言葉のエルフって聞いた事無いんだけど」


「拙者 忍者エルフでゴザるニンニンとか言ってみて」

「ゲラゲラゲラゲラーーー!」


「腹痛てぇ」


調子に乗る魔天朗が腹を抑え込むと



「知らないなら結構でゴザる」

へそを曲げた図書委員がアゴでツンと振り返って後ろを向く


「あははは 悪ぃ悪ぃ」


「あれのパイロットはオレの友達だよ 紹介してやってもいいよ」


「まことでゴザるか!!」


「まことってぶふっ」


「いい加減 気分を害してきたでゴザる」


立って居られなくなった魔天朗を見下ろし

眉をしかめる図書委員


「分かった 分かった 教えるからっ先に理由を言ってよ」


「そしたら 教える」


魔天朗が涙を手で拭いながら図書委員を見上げると、真顔の図書委員が口を開く



「拙者は ワルダーク星人でゴザる」

「任務は ロボットのパイロットを葬り

この星を占領する事でゴザる」



「だあーっはっはっはっはぁー!!」


魔天朗が図書委員の足元で転げ回って悶え苦しむ


「ぐふっ お前 最高だっ最高だよ」

「腹痛てぇ 死ぬぅ 死ぬぅ死んじゃう」

「ひぃぃ ゲラゲラゲラゲラゲラ!」


図書委員の顔に黒い影がかかり 鋭い目の光が魔天朗を直視する。屋上に来た時の弱々しさは消え、今や全身の怒りで魔天朗を威嚇する。


「さぁ! 言うでやんす」


「そこ 忍者言葉違うんかーい」

「ゲラ ゲラ ゲラ ゲラーーーー!」


ピシッ……ボン!

図書委員が指を弾くと、空から飛んで来た光によって、屋上入口の屋根ごと給水タンクが消滅した。


断面に露出した ちぎれた鉄筋から コンクリートの粒がパラパラ落ちる。



ヒザの埃を叩いて立ち上がった魔天朗は、図書委員の肩に両手を置くと


「オレがバギャンガスだ!」


と胸を張る



「いやーお前最高だよ こんな腹よじれたの生まれて初めてかも」


「中二病動画作って どっか出せば絶対いい線行くと思う!」


「承知したでゴザる」



「でも お前と同類って思われたくないんで あんま近付くなよな」


ブチッ

怒りのタガが外れた図書委員がけたたまく雄叫びを上げる


「スカルツィオーーーーーーー!!」



すると、黒い影が図書委員の足元に広がり、頭上に巨大な頭蓋骨が現れた。

頭蓋骨が音もなく降りると、図書委員の身体を飲み込み、再び浮き上がった。


一方校庭では地割れが起こり、逃げ惑う生徒の間に巨大な穴が現れた。


穴の底から振動が響き、一段一段と階段を登ってくる振動で穴の壁が崩れると、砂煙をあげて 首無しの巨大な黒い人型機械が出現する。


黒い機械の首に頭蓋骨が座り


全校舎の窓ガラスが一瞬で割れる雄叫びを上げる


誰もが耳を塞ぎ その場から動けない


図書委員がスカルツィオと呼んだ黒い機械は、屋上の魔天朗が手を上げれば届く高さまで、背中を丸めて顔を覗き込んでいた。



微動だにせず 呆然と立つ魔天朗の頬に一筋の涙が流れる


「来た 来た……来てくれた」


「ありがとう!ありがとう!」

「来てくれたんだっ」


「うええええーーーーっん!」


人目もはばからず涙を流す魔天朗が、スカルツィオに何度も何度もお辞儀する


全力で駆け寄る博士


「まてぇんろぉぉぉうえぇぇんっ」


涙 鼻水 ヨダレを流し 泣きじゃくる博士と固く抱き合い、2人は嬉しさを抑えきれず号泣する。


「ワシは 今迄 お前さんざんを引っ張り回しておきながら このまま 宇宙人が来なかったら申し訳ないと思ってたんじゃ」


「やめろって」

魔天朗が照れを隠し鼻をすすると、少し落ち着いてスカルツィオをまじまじと見る


「スゲーよ 図書委員」

「お前 作ったのか!」

「しかし よく出来てんなコレ」


「見てみ博士 この装甲 何で出来てるかわかるか?」

魔天朗がスカルツィオの表面を触りながら博士に尋ねると


「うむっ 金属のような土のような未知の物質じゃな」


「それなっ」


魔天朗と博士は、テレビアニメである様なやり取りではしゃいでいる


頭蓋骨の内部では、バトルスーツを身に纏った図書委員が軽蔑の眼差しを向ける。



校舎屋上の魔天朗達を見下ろすスカルツィオを見た 校庭の生徒がスカルツィオに叫ぶ


「おぉい あんたっ!」


「頼むっ魔天朗とそこのポンコツロボットをやっつけてくれ!」


「はあ?どこがポンコツだ!」

屋上の手すりに身を乗り出して怒る魔天朗


すると、生徒達から不満の大合唱が聞こえくる


「どんだけ迷惑かけ来たのか分かってんの!」


「なに様のつもりだー!コンニャロー」


「わたし だーい嫌いっ!」


「倒せっ!倒せっ!ポンコツ倒せっ!倒せっ!」

「倒せっ!倒せっ!ポンコツ倒せっ!倒せっ!」


倒せコールの迫力に圧倒される魔天朗が

苦し紛れの負け惜しみを言う


「ぐぬぬぬ…」


「お前らっ宇宙人が攻めてきても助けてやんないかんな!」

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