秘密ロボット☆バギャンガス
ヤマネコ重工業
第1話 博士
朝の交通渋滞
駅から学校へ向かう通学バスは、必ず渋滞と距離を空けて一時停車する。
すると辺りは 一面黒い影に覆われ
ダンプカーが通学バスの上をまたぎ、前方の道路に着陸した。
ダンプカーに例えたその塊は、見れば15本のピストンを束ねた構造物で、それぞれのピストンが地形の起伏になぞって高さを整えることで 全体の水平を保持する仕掛けになっている事が見てとれる。ピストンの束は言わば足だ。
その上にそびえる2台の貨物コンテナを繋いだ様なスネとモモは、学習机の2軸照明スタンドさながら モモを持ち上げるとスネから下も連動してヒザが曲がる仕組みだと言うのをバスの中で耳にする。しかし、実際は4軸でそれぞれのモモには歩行用ガソリンエンジンもある。
耳をつんざくエンジン音とクラクションの怒号を縫って
次に右足が10メートル先の隣車線に着陸する。
ビルの10階にも及ぶ機械が自らの足で自動車を払い除けながら渋滞中の道路を歩く。
アスファルトはきしみ
眼下の自動車は大きく振動し
青信号になったら再び歩き出し
急ブレーキとスリップ音が鳴り響く
ゴン ゴン ゴン ゴン ドシーン
ゴン ゴン ゴン ゴン ドシーン (キィィパリーン)
(テメーふざけんな バッキャロー!)
(ワシの新車 新車がぁー)
(こんな所通るんじゃないわよー!)
(降りて来いコノヤロー!)
(ギャーギャー ワーワー)
「交通マナーが悪いなぁ」
「無いのかねぇゆずりあいの精神ってやつ」
ダッシュボードに両足を投げ出しながら、派手なコスチュームを身にまとった少年 魔天朗 はおにぎりをほおばり、下方モニターを見ながらため息をつく。
バギャンガスが足を踏み下ろすと、サスペンションに吸収された感触が座席から伝わる。そして魔天朗の体が10メートル前方にスゥーと運ばれると、再び座席が沈みながらバギャンガスは歩行している。
魔天朗は思う
(こんなロボット作っちゃうなんて やっぱ博士はスゲーよ ソンケーするわ)
すると
隣の席でバギャンガスを運転中の博士が
「えぇいっ 歩きづらい 邪魔な連中じゃの」
「いっぺん踏み潰しやるわい!」
と言い、巨大な足を振り上げると
助手席の魔天朗が慌てて、博士を羽交い締めにする。
「気は確かかよ博士!」
「バギャンガスを悪者にする気かよ」
息を切らした魔天朗が手を離すと
「…そうじゃった」
「魔天朗 すまない」
博士は我に返り、口をとがらせる魔天朗に
「宇宙人は必ず地球に攻めてくる」
「その日まで辛抱じゃったな」
と明るく振る舞う
「んな訳あるかよっジジイ」
「今どきそんな冗談 小学生でもドン引きだよ」
「言いおったな チ☆ポコ中学生め!」
「あ゛あ゛っ?」
「んだと ペテン師!」
「ペ! ワシの研究を ゆるさん!」
「ペテン師じゃ無かったら へぼ学者!」
「ムキーッ」
( ギャーギャー ワーワー)
……この時
この朝の空にキラリと輝く光を魔天朗達は知らなかった。
渋滞の中をバギャンガスが歩く
魔天朗の中学校に向かって歩く
バギャンガスの胴体は胸部の発電機群と全体荷重を足に伝える腰からなり、胴体だけで高さは4階建ての建物にも及ぶものの、全身に非常階段が張り巡らされ、腹部旋回ギアなどの整備が容易な構造になっている。
両足の駆動にはトルクが必要な為エンジンを用いるが、腕部はその重量の抑えるために複数の小型モーターで各関節を動かし、マニピュレーターはワイヤー駆動を採用。
また、頭部運転席は着脱が可能であり、両腕で頭部ごと外して様々な場所にアクセスする事が可能である。
郊外の建築現場、ここではマンションの増築工事を大手ゼネコンが行っている。
建築現場の敷地内に入ったバギャンガスの前に 資材トラックが列を作ると
博士の運転で、資材が次々とマンションの工事階へ 運び上げられる
「え? 学校は え?」
「今日は休みじゃ」
「んなわけあるかーい!」
「離せ げほ げほ 離せ」
「今日は 朝に仕事を頼まれたから 仕方なかったんじゃよ」
「なにせ家には ガソリン喰らいの化け物と育ち盛りがおるからのう」
「は 博士……」
次の瞬間
レーダーが9時の方角にある危険を指す
プレハブ小屋を改造したバギャンガスヘッドが素早く振り向くと
出勤前に自宅マンションで髪をとかす
パツン一丁姿の美人OLと目が合った
ニヤリといやらしい顔つきの魔天朗と博士が見ている
「キャァァァァァァァッ 痴漢!」
OLが投げたドライヤがーバギャンガスアイの窓ガラスを突き破り
魔天朗は顔面にドライヤーがめり込んだまま
博士と2人で もんどり打って 床に転がった。
「現場に通報されるのう」
「じゃ学校で」
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