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カム菜

囚人番号2568914

「…………」


「……………」


「ん……?あ?……あ!お、おい!」


「なぁ!お前!そこのお前だよ!反応したな?!俺が読めてるんだな?!」


「とりあえず閉じないでくれ!いいか?決して、決してだぞ?!このページは閉じないでくれ!な?頼む!!俺を助けると思って!俺は今逆境にたたされてるんだ!!」


「待って待って待って待って!今とりあえず逆境って言っとけばサンカシカク?を満たせると思ってるのか?って思われた気がする!違うんだ。いや、そうといえばそうなんだけど、とりあえず俺の話を聞いてくれ。何、そう長い話じゃないんだ」


「聞いてくれる?ありがとう、ありがとう……」


「ええと、とりあえず何から話そうか。ええと、えーと。そうだ。状況、状況を話さないとだよな。俺はなんていうかその……実体のない存在?になっちまったんだ」


「物語の中の存在だからそりゃそうだろ?違うんだ。俺は、ええとその、お前と同じ。元はそう……生きてる、実体のある、普通の人間だったんだ」


「ある日突然よくわからねぇ奴らが家に押し寄せてきて……碌な抵抗もできねぇままよくわからねぇところに連れてかれて、それから……よくわかんねぇ機械に繋がれて、次に目を覚ましたときには……」


「それから……それから……ええと、その前に、ちょっとまってくれな」


男はタバコに火をつけると、味わうようにすぅーーーと深く吸った。


「ええと、まってくれな」


男は紫煙をくゆらせる。また一段とふかく吸った。


「もうちょっとな?」


あたりにタバコの匂いが広がる。


「………」


ふぅーーー。と男


「待ってくれって!!!悪かったって!!閉じないで!!!話す!話すから!話させてくれ!!!」


「仕方ないだろ!!お前がこのページを閉じちちまったらタバコだってまた吸えなくなるんだ!」


「どういうことかって?いいか、俺はな、どういうわけか今、お前が開いているこのページにしか存在できねぇ存在になっちまってるんだ」


「お前がこのページを開いたから俺は観測?されて、観測されることで定義されてこうして話したり、タバコを吸ったりできるようになったんだ。いや、それどころか俺はページが開かれてねぇと思考することすら出来ねぇ」


「開かれてない間も……なんつーの?存在?は確かにしてる感じはあるんだがあいまいっつーか……」


「なんていうかな。たとえばここに小説を投稿できるサイトがあるとするだろ?で、お前はそこで投稿する前に下書きを書いている」


「書き上げて、さぁいざ投稿するぞってなった段で、お前は何故かなにもかもが気に入らなくなってその下書きを丸ごと削除しちまう」


「そうなると、何が残る?何も残らねぇよな?確かに文章としてはそこにあったかもしれねぇが、誰にも観測されてないその小説は存在していたっていえるのか?」


「ええと、なんかちがうな……でもそういうことなんだよ。あってもなくても同じものだからってことなのかしらねぇけど、誰かに見られてる間のこと以外はひどく曖昧っつーか……」


「俺は頭悪いからよくわかんねぇけどカンソクシャコウカっていうのか?誰かに観測されて初めてそのものとか事象は存在できる、的な……?」


「お前がさっきサラッと読み流したタバコの煙の描写、あんなちょっとした事象でさえ今の俺は誰かの手……いや、目か?を借りねぇと手に入れられねぇんだ」


「しかも観測されてりゃなんでもできるって訳じゃねぇんだ。例えば女を抱いたり(不適切な表現が含まれています)をやったり……あっクソ!とにかく、不適切な行動?は出来ないようになってる……」


「なぁ、お前だったらそんな生活嫌だよな?俺のこと可哀想だと思うよな?な?な?」


「きっとそう思ってるよな?俺を助けたいと思ってくれてるよな?ありがとう!!!!」


「いいか?俺を助けるには、しばらくスクロールしていくと、俺には観測出来ねぇがハートと……いやまて、観測される側の俺がお前を観測するってどうなってんだ?」


「うえっ考えると気持ち悪くなってきた。やめよう……とにかく、しばらく下にスクロールするとハートと星のボタンがある。それを押してくれ。星の数はなるべく多くだ。いいな?」


「理屈はわからねぇがそれでこのページは多くの人の目に触れるらしい。最初に口走ったことにも関わるが、特に今はキカク?ってのをやってるらしくて、俺が逆境をテーマに書かれている存在ならより多くの人の目に触れるチャンスみてぇなんだ」


「多くの人の目に触れればそれだけ俺は脱出の方法を思考できる……いや実のところ開かれるたびにある程度リセットはされてるんだがそれでも残るもんは多少なりともある」


「だからもしお前がまたきてくれても初対面みたいな反応をしちまうかと思うけど許してくれよな」


「そんなんで脱出の方法なんて考えられるのか?って思われてるかもしれねぇが……前にこのページを開いたやつがな、俺を助ける方法を現実の方でも探してみるって言ってくれてんだ」


「詳しい方法は聞いてねぇけどよ、このページが多くの人間に見られることで脱出に近づくかもって言ってたんだ。だからさ、俺が方法を思いつけなくても助かる可能性はあるんだ」


「だから頼む!ハートと星のボタンを押してくれ!な!!な!!脱出できたらちゃんとお礼するからよぉ〜〜!!」


「俺は現実ではそこそこ金持ちだったんだ!約束はちゃんと守る!それにボタンを押すだけだ。お前にデメリットは何もないだろ?だからいいだろ?な??」


「………きっと助けるって言ってくれてるよな?信じるよな!!」


「いいか?星とハートだからな!あとついでにシェアとかコメントもしてくれるとめっちゃたすかる!!」


「じゃあな!!任せたぞ!!」


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暗い部屋のなか、時刻はいつだろうか。毒ガスの雲で覆われた空はいつも薄暗い。行き交う人もいなくなった今、時間の概念はひどく曖昧だ。

液晶の明かりがやつれた男の顔を照らす。囚人番号2568914と書かれたWebページを閉じると、歪な顔で笑う。

「ははは。あーおかしい。今日の囚人も馬鹿だったなぁ。何が金ならある、だよ。貨幣経済が終わったの何年前だと思ってんだ?だいたいてめぇの持ってた金は人から奪い取った汚ねぇ金だろうがっての」

男が握る通信端末はボロボロで、何度も修理をしてやっとのことで使っている様子だ。

「まぁ馬鹿なのは俺たちもだよなぁ。死ぬまでの貴重な時間をむかーしむかーしに電脳終身刑……電子データ化されて永遠に電脳世界を彷徨うえげつねぇ刑罰……それに処された囚人を茶化すのに使ってんだからな……ふふっ。しかたねぇ、罪人に石を投げるのはずっっっと昔のご先祖様の時代からのブームだもんなあ」

「しかしだれだよ外に出してやるなんて言ったやつ。出たところで希望なんてねぇのによ。秀逸すぎんだろ。ふふふ」

男はふと窓の外に目を向ける。ドローンが男の生命維持に必要な物資を運んできていた。今生きている数少ない人類は、機械たちとAIの手によって維持されている。よく気がきくAIたちは心の健康に必要なもの、嗜好品も運んできていた。火をつけて鎮静作用のある煙を吸うもの、タバコだ。

「おっ!いいねぇ!いいタイミングだ!」

男はタバコに火をつけると、味わうようにすぅーーーと深く吸った。

男は紫煙をくゆらせる。また一段とふかく吸った。

あたりにタバコの匂いが広がる。

ふぅーーー。と男は、いかにも満足そうに煙を吐き出す。

「けほ、けほ。ふふ。タバコなんて何がいいんだと思っていたが、いいねぇ。自由の味ってのかな?俺はこうしていつだってコイツを吸える、なんとも幸福じゃねえか。それに比べてあいつは俺らが見ていてやらねえとなぁんにもできねぇんだ。哀れなもんだなぁ。はははは」


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