第9話 ドラキュラ、コンビニへ行く







「ナツミ、少し良いか?」


「ドラさんどうしたの?」


 学校の課題をやっていたのか、ナツミはペンを置いて体をこちらに向けてくれた。


「以前から行きたいと思っていたところがあるのだが、時間はあるか?」


「うん、大丈夫ですよ。どこにいきたいんですか?」


「コンビニとやらに行ってみたいのだ」


「コンビニ?」


「ああ、聞くところによれば、24時間営業していて、尚且つなんでも売っているそうじゃないか。そんな店、気になってしょうがない」


 ナツミはポカンと口を開けているが、 立ち上がり、出かける準備を始める。


「それじゃあ行きますか!」


「おお! 良いのか!」


「もちろんです。道さえ覚えちゃえば次から一人で行けるようになりますよ〜」


「一人でか…。我は招かれなければ人の所有する建物に入れないのでな。それは難しいだろう」


「…うーん、それは大丈夫じゃないかなぁ」




******




「いらっしゃいませ〜」


「な、なんだと…」


「ふふ、ほら大丈夫」


 ナツミに連れられ、10分しないくらいの所に建てられたコンビニ。


 自動でドアが開いたかと思えば、無警戒にも店員は躊躇なく我を出迎えた。


「不用心にも程があるぞ!?」


「あはは、大袈裟ですよ。でも確かに、こんな平和でいるのが普通だと思えるのは幸せなのかも…?」


 招かれる事が出来たので、すんなりとコンビニの中に入れた。


 200年前までは、町民の警戒心が強く、声を変えたり催眠をかけたり、どうにかこうにかしていたのに。


「何が欲しいんですか?」


「ん、いや、特には無いな」


「そうなんですか? じゃあポン太用のおやつでも買いましょうか」


「ポン太?」


「ドラさんの眷族? ペットのポン太ちゃんです」


 勝手に名前をつけられてしまったが、まあタヌキでは他のと区別がつかないからな。我が眷族の名前は今からポン太だ。


 我がコンビニへ向かっている間、畑の守護は任せたぞ。


「お願いしまーす」


「袋はおつけしますか、って夏美じゃん」


「あ、ひーちゃん!」


「なんだ、知り合いか?」


 店員に商品を手渡すと、ナツミとその店員が知り合いのような反応を見せる。


「そうなんです。この子は陽菜って言ってクラスメイトなんです」


「どうも、陽菜です」


 ヒナは肩まで伸びている髪と、冷めた印象の瞳が特徴的だ。


 この髪型はなんと言っていたか、ショートボブだったか。ナツミが雑誌を読んでいる時に教えてもらった事がある。


「この人がもしかして例のドラさん?」


「そうそう!」


「我はガルニ・ドラ。夜の怪物であり、闇の帝王、ドラキュラと呼ばれている。恐れ慄くがいい」


「…おお」


「凄いでしょ」


「うん。はい、お会計201円ね」


「はーい」


 日本の通貨と商品の交換を行い、他に客がいない中、ナツミはヒナと少し話した後、コンビニを出た。


「あ、ドラさん」


「なんだ?」


「ナツミは良い子なんで、これからもよろしくお願いしますね」


「うむ。ヒナも良い子だぞ」


「ども…」


「また来る」


 コンビニから出ると夜風に髪を靡かせるナツミが、我を待っていた。


「帰りましょ〜」


「ああ、ポン太が待っているからな」




******



「ポン太、カリカリご飯だぞ」


「クァ?」


「ん、お前は今日からポン太だ。食べろ」


 ポン太は我の差し出した物の匂いを嗅ぐと一つ口にいれる。すると、よほど美味しかったのか勢いよく食べ始めた。


「そんなにか?」


「クァっ、クァー!!」


「…一つもらうぞ」


 茶色い粒を一つ口に入れてみる。



「あぅ、おぇあ…?」


 なんとも言えない味がした。




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