第7話 ドラキュラ、畑を守る
「美味であった…」
「ほれドラちゃん、これ台所に持っていき」
「ナツミについて行けばいいか」
「お手伝いありがとうございます」
食器を持ち上げ、ナツミの後ろをついていくと、皿や箸などを洗うための場所に着いた。
食材を切る刃物や、調味料らしきもの一式が揃っているため、調理もここで行うのだろう。
「お皿ここに置いてください」
「うむ。では我は仕事に向かうとしよう」
「仕事?」
「畑を守るのであろう?」
「え、本当に良いんですか?」
「もちろんだ」
「んじゃ、夏美が畑まで案内してやり。あたしが洗うよ」
トウカは音もなく背後から出て来たので、不意をつかれた。驚いたりはしていない。あくまでも不意をつかれただけだ。
「うん、ドラさんこっちです!」
台所を出て、もう一度リビングに入ると、壁だと思っていた部分が開き、そこから庭とつながっていた。
ガラス扉を開くと、夜の涼しい空気が流れてくる。
「うわ、これだったらエアコン付けなくても良かったかも。えっと、この障子を開いたら縁側があって、そこの庭に小さいですけど畑があるんです」
「我の元いた地域ではこのような建築様式はなかったからな。新鮮だ」
「気に入りました?」
「ああ、とても良い」
この縁側に座って夜風を感じるだけでも趣があるな。我の住んでいた城は、石造で窓も最低限だったために圧迫感があった。
この家のような開放的な木造の物はやはり新鮮だ。
「山が近くて、そこから獣がたまーに降りてくるんです。なのでしっかり見張ってくださいね!」
「任せろ。ナツミの畑は我が全力を持って守りきろう」
「頼もしいですね。ではリビングとも近いので何かあったら私かおばあちゃんに言ってくださいね」
ナツミはそう言ってリビングへ戻って行った。街灯が離れているからか、薄暗く、人であれば視野を保つのは困難かもしれん。
しかし我は夜の怪物であり闇の帝王。人の眼とは造りが違う。
「…見たことのない物だらけだな」
赤い実や緑の細長い物。畑と言っていたから野菜ではあるのだろうが、本当に食べるようなのか?
もう少し近くで見てみよう。
「この赤いのはなんだ? 緑の物はまだ熟れていないということか?」
赤い色が血を思い出させ、一つ口にしてみたいと思ったが、それでは獣と変わらん。我は理性をあわせ持つ高貴なる存在なのだからな。
「…甘い、いや、酸味も感じるな」
一つくらいなら良いだろう。
してこの緑色の細長い野菜は、まだ熟れていない物なのか?
「…いや、今日の食卓に並んでいた漬け物に入っていた物だ。確か、きゅうりと言ったか。調理する前はこうなのか」
他にも野菜を育てているようだが、これ以上はやめておこう。
我の目的は畑を守護すること。
我がいるからには魔女もワーウルフも、たとえ百戦錬磨の騎士であっても、この畑に立ち入った事を後悔させ、苦しめながらあの世へ送ってやる。
「さあ、かかって来い獣どもよ」
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