第4話 ドラキュラ、老婆と出会う
「ドラさん、ここが私の住んでいる家です」
「ほお、中々立派だな」
周りの家もそうだがこれは木造か、綺麗に切り揃えられた材料だ。
小さな家だが我にはわかる。これは相当な技術によって造り出されている、もはや芸術作品。それが辺り一帯に…。
それになんだこの地面は。こんなに整備されているものは初めてだ。
「ナツミ、この辺りに暮らす人々は富裕層の集まりなのか?」
「え、どうでしょう。富裕層ってわけではないんじゃないですかね?」
なるほど、謙虚も持ち合わせるか。あの頃の貴族どもに見せてやりたいわ。
「おばあちゃんただいま〜」
「…おばあちゃん?」
「あ、えっと、私今は祖母と二人で暮らしてるんです。私が学校に行っている間はおばあちゃん一人で畑仕事をしているので、日中は日陰からで良いのでおばあちゃんを見てあげてください」
「…良かろう」
学校に通っている。やはり富裕層かっ!
ナツミは扉をカーテンのようにスライドさせて開ける。これも私の城には無かった技術だ。
「ここで靴を脱いで、あの襖の奥がリビングなのでゆっくりしててください。あとその棺? は一旦外にステイで良いですか?」
「む、置いておけばいいのか?」
「はい」
棺を出入りの邪魔にならないように置こうとするが、どう足掻いても無理そうだ。
まあ今日だけだからな、多少邪魔になっても良かろう。
「じゃあ私はドラさん用の部屋を少し片付けますね。何かあったら呼んでください」
「わかった」
そう言ってナツミは廊下の奥の階段を登って行ってしまった。
リビングとやらはここだったか。
取手が無いが、どうやって開けるのだ? まさかここもカーテン式なのか?
ふすまとやらに手を合わせ、ナツミのしていたように横へずらす。
「カーテン式だ…」
無事ふすまを開け部屋の中に入ると、何やら不思議な感触の床に、低すぎる机が置かれていた。
その机を囲うように、立体的な小さな四角い絨毯が敷かれ、その一つの上には老婆が座っている。
「我はガルニ・ドラ。ドラキュラと呼ばれている。ナツミの提案によってこの家に住まう事になった」
「……」
「聞いているのか?」
なんだこの老婆は。まったく微動だにしないぞ。もしや死んでいるのか?
いや、死人を飾るなんて悪趣味な文化があるとは思えん。という事は精巧な人形ということか?
「よく出来ているな。顔の皺も作られた雰囲気を感じられん」
「…何か用かい?」
老婆人形の閉じられた口が開かれると、見た目に反して力強い声で話しかけられた。
「…人形じゃないのか?」
「どういう意味だい。夏美の祖母の冬香だよ。あんたは?」
「我はガルニ・ドラ。ドラキュラと呼ばれている」
「ドラちゃんかい。ドラえもんみたいだね」
「ナツミも言ってたがそのドラえもんとはなんなのだ」
「ふっふっふ…」
「そもそも、お前は目が見えてるのか? 瞑っているようにしか見えないのだが」
「見えてるよ。その蒼い瞳、外人さんかね」
「…まあそんなところだ」
凄いな、日本の老婆は瞳を閉じていたとしても周囲を見る事が可能なのか。
私と同じ怪物の類か…?
「ドラさん、部屋の片付けできましたよ。あ、おばあちゃん、この人が連絡したドラさん」
「ん、面白い人だね」
「本物のドラキュラなんだって」
「へえ…」
「ああ、恐れ慄いても構わんぞ」
「じゃあ、ほれ」
「十字架はやめたまえ! 気分が悪くなるんだぁ!!」
「ふっふっふっ…」
トウカはおもむろに十字架を取り出して我にそれを見せつけてくる。ニンニクの臭いとはまた違った胸糞の悪さだ。
「もうドラさんを虐めないでよ」
「すまないね、ドラちゃん」
「もう二度とするなよ、この死に損ない…」
「なにぃ?」
トウカは一度しまった十字架を再度我に向かって突き出してくる。
「んなーやめろ!!」
「もう仲良しだね」
十字架を持ちご満悦なトウカ。十字架のせいで気分最悪、冷や汗ダラダラの我。
「…ナツミには何が見えてるんだ」
「ふっふっふっ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます