第2話 ドラキュラ、ギャルと出会う










「お兄さーん?」


「ん、ああすまない、唖然としてしまった」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫だ、安心してくれ」


「それは良かったです。私は夏美って言います。お兄さんは?」


「我はガルニ・ドラ。ドラキュラと呼ばれていた」


 ドラキュラと聞いて恐れ慄くか、この女は。あの町の連中は気絶していたしな。


 そうなったら少し血を頂こう。


「ドラさんって言うんですね! ドラえもんみたいで可愛いですね〜」


「なんだ、ドラえもんとは」


「え、日本のアニメキャラクターですよ。あ、もしかして外国の方ですか?」


 この女、まったく私を恐れていない?


 ドラキュラと聞けば泣く子は黙り、女は気絶し、男は腰を抜かしていたはずだ。


 それがなんだ?


 あにめ? とやらの登場人物キャラクターだと。バカにしおって。


「女、理解していないようだな」


「夏美です」


 ……。


「…ナツミ、理解していないようだな。我は夜の怪物ドラキュラ。生き血を奪い、弱きを蹂躙する––」


「––なんだろうこれ」


「んなー! 腐ったニンニクを持ち上げるな! また鼻がもげるだろ!」


「ご、ごめんなさい…」


 くそ、まだニンニクが残っていたのか。二世紀も我の眠りをたびたび妨げおってムカつくなぁ。


「ドラキュラって、十字架が苦手な?」


「ん、まあ近づけないな」


「へ〜。血とか飲みます?」


 ナツミはそう言って首筋が見えるように自分の服をずらした。


「んなっ女が自ら肌を晒すなど、痴女か!?」


「言い過ぎですよ〜。お兄さんってば初なんですね」


「初ではない。我には600年の経験があるのだからな」


「ふ〜ん?」


 ナツミはそう目を薄めて、まるで我を疑うかのような目つきで見て来る。


 確かに、600年のうち二世紀半ほどは眠りに費やしていた気もするが、それでも400年近くはしっかり活動していた。


 言い訳じゃないぞ、美女が近くによると少し緊張するとか全然ないぞ。


「じゃあほら、パンツ」


「んな!?」


「ははは! 下着だと思った? 水着だよーん」


「なにが違うんだ!?」


 ナツミは突然服を脱ぎ始め、ほとんど全裸のような格好になった。


 白い布が胸部と股間を覆ってはいるが、とんでもなく扇情的だ。


「な、なな、何をしている!」


「海で遊んでるんですよ〜。お兄さんも目を隠してないで来てくださいよ」


「くっ……」


 日本という国がこうなのか、それとも200年という時が世界をこうさせたのか…!?


「おにーさんっ」


「うわぁっ!?」


「ふふ。かーわい」


 か、可愛い……??


「ドラキュラには初めて会ったな〜。でもなんだかイメージより優しそうな人ですね」


「わ、我は、600年生きてる怪物、ドラキュラなのだぞ? それなのに、可愛い? え、そんなこと、なん…」


 我のプライドは、この小娘によってズタズタに引き裂かれてしまった。

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