【短編】初めてのグループ学習

風野うた

第1話 初めてのグループ学習

 4月、私は憧れの大学生になった。


親元を離れて、大都会デビュー!!


これからの生活にワクワクしている。


そして、寮生活もスタートした。


「蛍館」


なかなかに渋い名前の寮は辿り着くと今時のお洒落なデザイナー系マンションだった。


皆で食事をするカフェテリアが1階にある以外は普通のマンションで、学生達の交流は思ってたより少なそうだ。


此処に住んでいる学生は様々な大学に通っている。


私の隣人も何処の大学生かは分からない。


私は田舎者なので、小さな菓子折を持って、お隣にご挨拶に行ったのだけど、右の人も左の人も出て来なかった。


都会の壁にいきなり当たる。


そして、次の日の朝から困ったことが起きた。


朝6時、何処からか目覚ましが鳴る。


「ジー」


10分後、


「ジー」


また更に10分後、


「ジー」


それは10分おきになり続け、10時まで鳴り続けた。


留守なのかな?


それにしても、、、。


10時はヒドイ!!早く止めて欲しい。


翌日、翌々日も全く同じ。


もう!早く学校が始まらないかな。


出掛けていたら聞かなくていいよね。


いよいよ大学が始まった。


ビバ!大学生活!!


初めての授業、教授はオリエンテーションで早速、私たちに班を作るように命じる。


どうやらこの学科はグループ学習が多いらしい。


そんなこんなで、私と田中さんと川田さん、雨宮くん、堀くんは同じ班になった。


私は最初の話題はもうコレしか無い!と、お隣さんの話をした。


「それでね、毎日10時まで10分おきになり続けるの。ヤバくない?」


「お隣さん、朝が弱いのかもよ」


田中さん、意外と優しい意見。


「それにしても4時間も鳴らし続けるのは非常識よ」


と、川田さん。


「何かこだわりがあるのかも」


雨宮くんは擁護派?隣人に興味持った?


「どんな人か観察しない?」


堀くんは犯人(隣人)を見たいらしい。


でも、それ私の家に来るって事よね?


そこまで君とは親しくない。


「それからね、実は9時からは2個ずつ鳴っている時もある気がするんだ」


「は?2個、それは朝が弱いと言うか変だね」


田中さんが擁護派から嫌悪感満載に変わった。


「それは注意した方がいいんじゃない?」


2個鳴らしは川田さんの一線を超えたようだ。


「他に何か規則性は無い?」


擁護派の雨宮くんは一貫して、定期的に鳴ることに関して興味があるようだ。


「2個も目覚まし時計を持ってる人ってヤバいね」


堀くんは犯人像を思い描いている様だ。



「雨宮くん、規則性ならまだあるよ。多分、複数の音がある気がする」


「音?目覚まし時計の音?それとも何か喋る系」


田中さんは目覚まし時計の種類が気になって来た。


「絶対その隣人変だって、危ない人なら、誰かに注意してもらった方がいいよ」


一貫して許さない派の川田さんは、犯人を危ない人と認定した。


「音階があるって事は何かの曲になってたりしない?」


雨宮くんは推理モードに入った。


「犯人はさ、起きるためじゃなくて、ワザと鳴らしてるんじゃない?」


堀くんはいよいよ本質に近づいて来る。


「でもさ、朝6時からって迷惑だよ」


川田さんの怒りモードは持続中。


「そう、私も最初の数日はよく分からないからイライラしてたんだけど、一昨日、音があるかもと思って、昨日スマホで音を取ってみたんだ」


「えええ!聞きたい」


田中さんは興味を持った。


「それ、先に言ってよ」


後出しにややギレの川田さん。


「待って待って!まだ考えさせて!!」


推理を楽しみたい雨宮くん。


「やっぱり、ワザと鳴らしていたんだ!」


自分は分かってた!と嬉しそうな堀くん。


私はその場でスマホで撮った目覚まし時計の音を鳴らした。


6時00分ド、


6時10分レ、


6時20分ミ、


6時30分ファ、


6時40分ミ、


6時50分レ、


7時00分ド、


7時10分ミ、


7時20分ファ、


7時30分ソ、


7時40分ラ、


7時50分ソ、


8時00分ファ、


8時10分ミ、


8時20分ド、 


8時30分ド、


8時40分ド、


8時50分ド、


9時00分ドド、


9時10分レレ、


9時20分ミミ、


9時30分ファファ、


9時40分ミ、


9時50分レ、


10時ド。


「カエルの歌?」


遠慮がちに田中さん。


「頭おかしいよね」


もう絶対に私の隣人が嫌いな川田さん。


「これ、目覚まし時計何個使ったんだ?」


次なる興味が出て来た雨宮くん。


「スッゲー!ヤバいね隣の人。会ってみてぇー!!」


物凄くテンションが上がっている堀くん。


「うん、私も曲なんだと思ったら急に騒音とは思えなくなって来たんだ」


私が班のみんなと盛り上がっていたら、後ろから声がした。


「ごめん、それ私の部屋かも」


ビックリして振り返ると金髪で耳に10個くらいピアスをした女の子が立っていた。


「えええ、カエルの歌だから男の子かと思ってた!」


田中さんが驚く。


「アイデアが凄いよね!」


急に擁護してくる川田さん。


「ねえ、目覚まし時計何個持ってるの?」


方針がブレない雨宮くん。


「あ、ヤバい人。何でそんな事考えた?」


テンションは落ち着いたけど、推理の答え合わせは忘れない堀くん。


「どうもお隣の平田です。よろしく」


私は先日挨拶出来なかったので、今がチャンスと思って口にした。


「いえ、こちらこそご丁寧にありがとうございます。池田です」


金髪の女の子は感じが良かった。


「で、目覚まし時計は何個?」


雨宮くんは粘る。


「それは、、、秘密」


「何でそんな事始めた?」


堀くんも答え合わせがしたくて仕方ない。


「んー、面白いじゃん」


金髪の子は笑った。


楽しい大学生活の幕開けだった。

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