補足(二)
ぼくは某作家の友人である。
某作家の物語と現実を比較すると、ぼくは身震いしてしまう。なにせ、読了してからというもの、ずっと夢野久作の『ドグラ・マグラ』が頭から離れないためである。夢野久作は、ぼくの尊敬する作家の一人で、使用している筆名も彼の名前をもじったものだが、あまりに今回の某作家の悲劇に類似しているのもあって、心底慄然とさせられた。
つまりは、精神患者が創る物語で、当人自身がそこで暮らしている点である。
佐山院長は、七・八について多くをふれていないが、この七・八は某作家とその友人の間でおこなわれた手紙のやりとりである。某作家は奇妙にも、原稿中に往信と返信の手紙を入れていた。このことからも、ぼくはそれを意図したものと決断を下し、小説中に含めることにした。
そもそも、ぼくが添削を依頼されたことには、勿論明瞭な理由がある。原稿ではあるが、プロットの段階にすぎなかったからである。某作家はそこで自殺したのだが、友人でありながらも気味が悪いと感じさせる、異様な雰囲気がそこにはあった。
そして、原稿一枚目の隅には細細と弱々しい字で左記のように記されていた。
わたしは此の世界すべてに、美と醜で成り立つ世界に――。
アーメン、失望した。
しかし日常が日常であると云ふことは、いくら言葉で表現するにせよ、偽善者は理解が及ばぬ。
わたしは、殺すのは殺されるよりつらく、裏切るのは裏切られるよりつらく、また、生は死よりも美と醜で満ちてゐるやうに思っている。
太宰治は自作品で、人間失格と云った。
同時に、自分を殺した。
でもわたしは、人間、願望と云ふ。
同時に、自分を生かした。
我は人間を知るものなり。人間は脆く毀れやすい生き物なり。それは美なり。それは愛なり。
我人間を愛する者なり。
怪奇作家・朔之玖溟記す
アウトサイダー 朔之玖溟(さくの きゅうめい) @cnw
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