第17話 理由
その後、のんびりと過ごしていると……シグルド様が、再び部屋を訪ねてくる。
「うちの弟がすまなかった。俺の婚約者といえ、女性の部屋に一人で訪ねるなど……全く」
「いえいえ、まだ十三歳の子供ですから。随分と仲が良さそうですね?」
「そうはいっても、もうすぐ大人の仲間入りだ。さて……どうだろうか? 俺は小言ばかり言ってるからな……」
「私の目から見たら、『兄上大好き』って感じですよ?」
構って欲しくて仕方がない、わんこって感じだった。
もしかしたら、構って欲しくて私の部屋を訪ねたのかも。
「ふっ、そうか……まあ、それならそれでいい」
「ところで、今はどちらに?」
「今はヨゼフが説教をしているところだ。次期当主として、甘やかすわけにはいかない。あと二年で成人を迎えるのだから」
「……時期当主? あれ? シグルド様は?」
「そうだ。さて、ちょうどいい機会かもしれんな。少しいいだろうか?」
「私は席を外しましょうか?」
「うむ、誰かが聞いていないか見張っていて欲しい。ただ内緒にするつもりはないので、あとでアリス殿に聞いてもらっても良い」
「かしこまりました。それでは、私は部屋の外にいましょう」
エリゼが部屋から出て行き、シグルド様と二人きりになる。
別にそれだけなのに、少し緊張してしまう自分がいる。
「そんなに畏ることはない。別に大した話でもないしな」
「そ、それとは別です!」
「別? どういう意味だろうか?」
「な、なんでもありません。それで、お話とは?」
うぅー……そもそも、ほとんど男性と接する機会なんかなかったし。
普段は平気だけど、意識をしてしまうとダメだ。
「ふむ……まあ良い。厳密に言えば、俺の今の立場は当主代理だ。そして先ほども言ったが、俺は当主になるつもりはない。正式な当主には弟のオルガになってもらう」
「その理由はなんでしょうか? まだオルガ君は少年ですし、最悪シグルド様が継いでから引き継いでも……」
「詳しい理由は言えないが、母親が違うことに起因しているということだけは言っておこう。それも考えたが、俺を担ぎ上げる者が出てきたら面倒だ」
「それはそうですね……つまり、私との偽装婚約もそれに関係が?」
「そういうことだ。下手に普通の恋愛などをして子供でも出来たら……目も当てられん」
「更にややこしくなるのは目に見えてますね」
「全くだ。それで、君に頼んだわけだ。幸い、君に手を出さない理由は作れる」
ようやく、この婚約の意味が見えてきたわ。
シグルド様は当主をオルガ君に継がせたい。
でも、シグルド様を当主にしたい人もいる。
その人達の熱を下げるために、ひとまず結婚相手ではなく婚約者という者を用意した。
「そうですね。私は婚約破棄された令嬢で、その傷が癒えてないので手を出さないとか。酷い振られ方をして、その傷が癒えるまで待ってるとかにすれば美談になるかと」
「……そこまでするつもりはないが?」
「いえ、それくらい構いませんわ。今のところ、私に利がありすぎですから。好きにさせて頂いてるの分くらいは役に立たないと」
「……君は少し歪だな」
「へっ? 歪ですか?」
「俺としては助かるが、少々自分を卑下しているように見えてな……」
「それは……そうかもしれないですね」
私は自分に自信がない。
多分、前世のことが起因していると思う。
誰かの役に立たないと、自分の存在価値がないと。
そうしないと捨てられてしまうと思って……今は、そんなことはないと頭ではわかっているんだけどね。
「いや、込み入ったことを聞いてすまなかった。それに、俺も人のことは言えん」
「えっと? ……シグルド様は素敵ですよ?」
「君に言われると不思議と悪い気はしないな」
「そ、そうですか……あっ! ということは、無愛想な感じや態度が悪いのもそのために?」
「そうとも言えるし、そうではないとも言える。確かに俺自身が好かれないようにはしている。そうすれば、自ずと次期当主はオルガにという話になる」
「そういうことでしたか……では、私は悪いことをしてしまいました」
その意図を分からず、冒険者ギルドでシグルド様を擁護してしまった。
きっとあれも、そういうことだったのだろう。
ただ、私自身が我慢ができなかっただけで。
「いや、あれは……嬉しかったからいいさ。それに、少し俺も過敏になりすぎた。当主一族が嫌われたら元も子もない」
「そ、それなら良かったですわ……今後は気をつけます」
「別にあれくらいなら気にしなくていい。さて……そういう感じなので、オルガを当主にするということだけわかってくれたらいい」
その言葉に頷こうとした時、私のお腹がクルルーと鳴く。
「はぅ!? ……き、聞こえました?」
「……聞こえていないが?」
「顔が笑ってますよね!?」
「そ、そんなことはない……いや、真面目な話をして疲れたのだろう。今日は外にも出かけたしな」
「ち、ちが……今日はお昼を食べてないからですっ!」
「そうだな、食べ歩きをしたとか……うむ、つくづく面白い女性だ」
そう言って微笑むので、私は下を向いてしまう。
恥ずかしいだけで……別に照れているわけではありません。
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