第16話 オルガ君
館に帰ってきたら、少し部屋で寛ぐ。
流石に足が痛いし、少し疲れてしまった。
エリゼにお茶を用意してもらい、ソファーに座ってのんびりする。
「お嬢様、お疲れ様でした。ひとまず、合格もしたので良かったですね」
「エリゼ、ありがとう。ふふ、疲労困憊で情けないけど」
「それは仕方ないかと。お嬢様は箱入り娘でしたから」
「そうよね。まずは、体力作りから始めようかしら?」
「それが良いかと思います。シグルド様なら許してくれるでしょうし。お嬢様の相手として見定めていますが……悔しいことに悪くないかと」
「そ、そうね」
シグルド様かぁ……不思議な人。
あえて、他人を寄せ付けないようにしているし……その辺も、私との偽造婚約者と関係があるのかもしれない。
私はお世話になってばかりだし、少しは役に立てたらいいけど……邪魔だけはしちゃダメだよね。
「むむむ、お嬢様を照れさせるとは……悔しいです」
「て、照れてなんてないから!」
すると、足音が聞こえてきてノックの音がする。
「この足音はシグルド様ではないですね……どなたでしょうか?」
「あ、あの! オルガといいます! ご挨拶をしてもいいですか!?」
「オルガ……あっ、シグルド様の弟さんだわ。エリゼ、開けてあげて」
「はい、かしこまりました」
エリゼが扉を開けると、そこには可愛らしい男の子が立っていた。
緑色の髪色にあどけない表情、まるで女の子みたいな少年だ。
多分、年齢は十二、三歳くらいかな。
「こ、こんばんは! はじめまして! オルガと申します! 年齢は十三歳です!」
「こんばんは、オルガ様。私の名前は、アリス-カサンドラと申します。年齢は貴方より五つ上の十八歳。隣にいるのは従者のエリゼよ」
エリゼはぺこりとお辞儀をしたあと、すっと後ろに下がる。
きっとオルガ君が話しやすいようにするためだろう。
「別に様なんていらないですよ! あと敬語もいらないです! 兄上の婚約者なのですから! それにしても……兄上は見合いや交際を断ってきたけど……ウンウン、これだけ美人だったら仕方ないよね」
「ふふ、ありがとう。では、オルガ君とお呼びしてもいい?」
「は、はい! 僕の方はアリス姉さんでもいいですか……?」
「ええ、いいわよ。よろしくね、オルガ君」
「わぁーい! お姉さんができたっ!」
「ふふ、こちらも弟が出来たみたいで嬉しいわ」
そう言ってはしゃぐ姿は可愛らしい。
私自身末っ子だし、こういうのは新鮮だ。
ただ、この子に嘘をつくのは心苦しいけど……あと、シグルド様とは全然似てないわよね。
「アリス姉さん? どうかしたのですか?」
「あっ、ごめんなさい。その、あんまりシグルド様と似てないなって……」
「それはそうですよ。僕と兄上は母親が違いますから」
「あっ、そうだったのね。それは悪いことを聞いたかしら?」
「いえ、みんな知ってることなので! むしろ、兄上が悪いですよ。そういうことはきちんと言っておかないと……そもそも、いきなり婚約者を連れてくるんだもん。僕だって、きちんと挨拶したいじゃんか。兄上はそういうところあるからなぁ……全く、困ったものです」
「悪かったな、困った奴で」
すると、いつの間にかシグルド様が扉の横に立っていた。
ただ腕組みをして壁に寄りかかっているだけなのに、その姿はやけに様になっている。
「げげっ!? 兄上!?」
「げげとはなんだ、げげとは……ったく、勝手に挨拶をしてるんじゃない」
「だってずるいじゃないですか! 僕に黙って婚約者を連れてくるなんて!」
「別に黙っていたわけではない。お前がここを離れていたからだろう」
「むむむっ……そうですけど、僕だって歓迎したかったです」
「はいはい、悪かった」
そうして言い合う様は、仲のいい兄弟に見える。
どうやら母親は違っても、仲は良好らしい。
……王都にいる貴族達に見習って欲しいくらいだ。
「大丈夫ですよ、オルガ君。私も、昨日きたところですから」
「あっ、そうなんですね」
「お前はそんなことも知らずに突撃したのか? ……少し説教が必要だな」
「わわっ!? 引っ張らないでぇぇー!」
そして首根っこを掴まれたオルガ君が、部屋から連れ出されていく。
私はそれを、微笑ましく見送るのでした。
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