第15話 冒険者ギルド
無事に街に戻って、そのままシグルド様についていくと……。
冒険者ギルドと書かれた看板がある建物に到着する。
「ここが冒険者ギルドだ。約束通り、登録をしよう」
「わぁ……! ありがとうございますっ! でも、シグルド様もですか? このファンブルを先にどうにかした方がいいのでは……」
「流石に俺がいないと登録するのに説得力があるまい。それに隣にある小屋は解体場にもなっているので問題ない。ここなら獣人であろうと問題なく手続きもできる」
「あっ、そうなのですね。それじゃあエリゼ、頼めるかしら?」
「ええ、お任せください」
ファンブルをエリゼに任せ、シグルド様と共に冒険者ギルドの中に入る。
そこは市役所のような王都のギルドとは違い、飲み屋に近い形の場所だった。
お世辞にも綺麗とは言えないし、何やらガヤガヤと騒がしい。
左手にはカウンターキッチンがあり、飲み食いをしている人たちがいる。
真ん中にはテーブルがいくつかあり、そこでも人々が談笑していた。
ただ不思議と……こっちの方が居心地が良い。
というより、私が想像していたのはこっちのイメージだったから。
「すまない、騒がしいだろう?」
「いえ、そんなことないです。私、こういう感じのに憧れていたので」
「相変わらず、変わった女性だ」
「むぅ……一応、褒め言葉として受け取っておきます」
「ククク……そうしてくれると助かる。俺は女性を馬鹿にする趣味はないのでな」
「いや、笑ってますよね!?」
「気のせいだ。ほら、注目を集めてしまったから行くとしよう」
確かにギルド内の人々が、こちらを興味深そうに見ていた。
でもその視線は私というよりは、彼の方に向いている。
そりゃ、領主様が来たら驚くわよね。
ただ……親しげな視線ではないのは何故かしら?
そんな疑問を感じつつ、奥にある受付に行く。
「りょ、領主様、いらっしゃっいませ。ギルドマスターに御用でしょうか?」
「違う。今日は、この女性を冒険者登録するために来た」
「へっ? こ、この綺麗な女性をですか?」
「なんだ? 何か文句があるのか?」
「い、いえ! すぐに手配いたします!」
……あれ? シグルド様って、こんなに高圧的な方だった?
なんか雰囲気も違うし、周りの人も怖がってる感じがする。
「シグルド様、そのような顔をしていてはダメですよ?」
「なに?」
「ほら、笑ってください」
私は彼のほっぺを両手でつまみ、軽く引っ張る。
「な、何を……や、やめ……!」
「笑うまでやめません」
「わ、わかった! わかった!」
「はい、ならいいです」
「……ったく、なんて女性だ」
「褒め言葉として受け取っておきますね」
こちとら、王太子を殴ったことのある女性です。
これくらい、わけはない……いや、普段ならこんなことしない。
なんか……無性に腹が立ってしまった。
態度が悪いことではなく、彼が無理しているように見えたから。
「今のは皮肉だ……くははっ!」
「それでいいんですよ」
そこでふと受付の女性を見ると、驚愕の表情を浮かべていた。
まるで、信じられないモノを見るかのように。
「あの?」
「へっ? ……あっ! 登録ですね! えっと……」
「説明などは良い。登録さえすれば、後で俺が説明をする。それと……先程はすまなかったな」
「い、いえ! かしこまりました! ではすぐに!」
女性が慌てて奥に行き書類を作成している間、周りを見てみると……。
こちらの方々も、驚愕の表情を浮かべていた。
それを見て、私は彼の耳元で囁く。
「もしかして、シグルド様は好かれていないのですか?」
「まあ、そうだろうな。俺はこの通り無愛想な男だ」
「でも、私は好きですよ?」
「……へぁ?」
「あっ! そういうアレじゃなくて! 付き合い安いってことです!」
「そ、そうか……」
「中身が良いのですから、もっと気軽に接すれば良いと思います。もちろん、領主としての威厳も大事だとは思いますけど……」
確証はないけど、色々なことを我慢してきた私にはわかる。
多分、シグルド様は何かを我慢していそうだ。
それこそ、わざと嫌われるような……偽物の婚約者の私が口を出していいことじゃないかもしれないけど、なんだか放って置けない。
「……善処しよう。だが、そうすると女性が寄ってきてな……」
「あっ……じゃあ、これからは私がいるから平気ですね。私をその……愛してるからって言えばいいのですから」
自分で言って、恥ずかしくて顔から火が出そうになる。
「ふっ、それは良い言い訳だ。というか、それは最初からそのつもりだった」
「じゃあ、他に理由があるのですか? ……いえ、ごめんなさい」
「いや、気にしないでいい。そうだな……君になら、そのうち話すとしよう」
「では、気長に待ってますから」
そんな会話をしていると、受付の女性が戻ってくる。
そして簡単な手続きを済ませた私たちは、ギルドを後にする。
出てきたところをエリゼと合流して、夕暮れの中、館へと向かうのだった。
このやり取りを見ていた方々が、どう思うのかも知らないままに。
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