第14話 またしてもチート?

 思わぬ出会いがあったけど、ひとまず街に戻ることにする。


 ファンブルはエリゼが担いでくれたので、どうにか馬を預けてある小屋まで運んでくれた。


「ふぅ、着きましたね」


「思ったより大物だったからな。本来なら、適当なツノウサギか赤鹿辺りを狙うつもりだった。エリゼ殿がいてくれ助かった」


「本当に。エリゼ、ありがとう」


「い、いえ……別に」


「ふふ、照れちゃって」


「お、お嬢様!」


 獣人の身体能力は本当に高い。

 魔力を外に放出できない代わりに、自分に使うことができる。

 それが身体強化の力であり、獣人の桁外れの運動能力の源だ。

 だからこそ……魔力を封じる首輪の開発で、人族の奴隷にされた歴史がある。


「これでここにある荷台に乗せれば良いだろう。あとは、馬に引かせよう」


「ええ、ただこの日差しの中帰るのは食材が心配ですね」


「そこなのだ。この街が森の近くにあるとはいえ、暑いと食材がすぐに痛んでしまう。塩漬けにしたりはするが、それでも限界がある」


「うーん、冷やせたりしたらいいんですけどね……ん?」


 冷やす? 私が出来るのは水魔法……今更だけど、氷魔法ってないよね?

 王都では涼しいし、食材が余るなんてこともなかったから気にしなかったけど。

 今の私なら、それを作ることも可能かもしれない。


「どうしたのだ?」


「えっと……氷って知ってますか?」


「ああ、話には聞いたことはある。なんでも水が凍ったモノだとか。この大陸には存在しないが、ほかの大陸には合ったりするらしい」


「はい、私も文献でしか見たことないです」


 やっぱり、そういう認識よね。

 となると、この世界で使えないことはないと。

 ただ現物を知らないし、原理も知らないから使い手がいないだけで。

 でも、前世の知識がある私なら使えたりする?


「水魔法使いたちが研究をして使おうとしたが……お、おい、何を」


「シグルド様、お嬢様がこうなったら耳に入っていません。ひとまず、様子を見ましょう」


「水が氷になる条件……」


 水が凍る理由…… 水は、水の分子という小さな粒からできている。

 この分子はとても小さく、顕微鏡でも見えなかったとか。

 普段は自由に動きまわっていて、温度が低くなるにつれ動きがにぶる。

 そして0℃より低くなると、くっついて動かなくなり氷になる……だったはず。

 それらを意識しながら、手と手の間で生成していく。


「なに? 青い水が白くなって……」


「……できた、これが氷です」


 私の手にはソフトボールサイズの冷たい氷ができていた。

 どうやら、成功したらしい。


「……初めて見た」


「お、お嬢様、凄いですね!」


「ふふ、ありがとう」


 すると突然、シグルド様が私の両手を握りしめる!

 その手は大きく、私の手などすっぽり収まってしまう。


「ふえっ!? な、何を?」


「アリス殿! 素晴らしい! その氷はどうやって? 水魔法使いなら使えるのか? いや、しかし……誰もがやろうとして失敗してきた。それを何故素人同然のアリス殿が?」


「お、落ち着いてください。その……手が」


「す、すまない! ……冷静を欠いてしまったな」


「い、いえ」


 ど、ドキドキした……あんな風にぎゅっと握りしめられたことないもん。

 男の人の手って、すっごく大きいんだ。


「コホン……それで、どうして使えたのだ? 氷魔法を使える者など、この大陸にはいない」


「どうして……私は想像した通りに魔法を発動しただけなので」


「ふむ、確かに魔法は想像力が大事とされているが……先入観がなかったのが良かったのかもしれん。今まで魔法を使ってこなくて、氷魔法が難しいモノだと知らずにいたから……いや、それとも」


「あ、あの! とりあえず、街に戻りませんか? この氷があれば、少しは状態が保つと思うので」


「……それもそうだな、考えるのは後でいいか」


 未だに納得のいっていないシグルド様を説得し、ファンブルを乗せた荷台に氷をいくつか入れておく。


 そこにシートを被せれば、少しは長持ちするだろう。


 ……それにしても、少し迂闊だったかなぁ。


 でも、今は好きなことを試したくて仕方がない。

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