第10話 準備
着替えを済ませたら、鏡の前で確認する。
スカートではなくズボン、上はぴっしりとした軽装。
軽くてシンプルで、まるで平民の方々が着るような服だ。
それと用意してもらった弓道具一式……懐かしい。
なんだか、それだけで嬉しくなる。
「に、似合ってるかしら?」
「この場合、褒め言葉になるのかわかりませんが……可愛らしいですよ」
「ふふ、なら良かった。こういう格好にも憧れていたから。いつもの格好は重たいし、肩がこるんだもん」
「まあ、ドレス系は仕方ありませんね。では、参りましょう」
部屋を出て、玄関に行くと……先にシグルド様が待っていた。
相手も貴族服ではなく、狩りに見合った軽装に着替えている。
しかし、イケメンは何も着てもイケメンらしい。
「おまたせしました」
「いや、大して待っていない……ふむ、似合ってるな」
「あ、ありがとうございます」
男性に褒められ慣れていないので、どうしても恥ずかしくなってしまう。
これは決して、シグルド様に褒められたからではない……よね?
「ほほ、初々しいですな。それでは、お気をつけて」
「ああ、後のことは頼んだ。それでは行ってくる」
「ヨゼフさん、行ってきます」
ヨゼフさんに見送られ、エリゼとシグルド様と館を出る。
すぐそこには馬が二頭あり、私はエリゼの後ろに乗ってシグルド様の後を追っていく。
街の中を抜けて、きた頃とは逆の門から外に出る。
そこには、建物が一切ない綺麗な草原が広がっていた。
「シグルド様、この辺には建物がありませんね?」
「この街が人が住む最終位置で防衛拠点だ。これより先は、三国により禁止されている」
「確か領主には、危険な魔獣や魔物から国を守る役目があるのですよね?」
「ああ、その通りだ。人の手が入っていない場所ゆえに、手強い奴らが多い」
「その、三国に禁止されているとは? 勉強不足でごめんなさい」
「いや、それを学ぶのはこれからだったであろう。そうだな……人類の敵であり、魔石の素材となる魔物は無差別に殺していいのはわかるか?」
「ええ、もちろんです」
魔物は魔素溜まりと呼ばれる空間から現れて無差別に生き物に襲いかかる。
それが何故現れるのか、襲いかかってくるのかはわかっていない。
わかっていることは、魔物を倒すと魔石という魔法を込められる素材に変わること。
四足歩行で、構造的には人類に近い形をしていることだ。
ゴブリン、オーク、トロール、オーガなどが有名だ。
「しかし、魔獣は別だ。それらを狩りすぎると、三国との条約に違反する。数が減ってしまい、いずれいなくなってしまうからだ」
「あっ、そういうことですか。乱獲しすぎて、絶滅しては困りますよね」
「そういうことだ。しかし、それをわかっていない者が多すぎる。いくらでもあると思って、森を切り開いたり魔獣を狩ったりする者が。特に王都付近にいる連中にはな」
「多分、今しか見ていないのですね。いずれ、自分達の子供達に問題が降りかかるのに」
前の世界でもそうだった。
自分たちさえ良ければいいと好き勝手にやり、その結果下の世代に押し付けることに。
税金問題しかり、自然問題しかり、少子化しかり……仕方のないことだとは思うけど。
「……それがわかってるなら、問題はなさそうだな」
「それでは、今から行く場所は?」
「そこは許可がおりている森だ。魔獣も減らしすぎてはいけないが、増やしすぎてもいけない」
「ようは調整ってことですね」
「……本当に面白い女性だ」
「へっ? なんて言いましたか?」
「いや、何でもない。ほら、森が見えてきたぞ」
シグルド様のいう通り、視線の先には森が見えてきた。
そして数分で、目の前に到着する。
その近くには小屋があり、そこに常在してる兵士さんに馬を預ける。
「異常はないか?」
「はいっ! 魔物出現の予兆や、危険な魔獣などは目撃しておりません! ただし、数の多いゴブリンくらいはいるかと思います!」
「わかった、情報に感謝する。アリス殿、ここからは危険もある。決して、俺の後ろから離れないこと。エリゼ殿は、背後を頼む」
「は、はいっ!」
「お任せください」
シグルド様が頷き、先頭を歩いて森の中に入っていく。
私はドキドキしながら、その後をついていくのだった。
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