第9話 それぞれ
ひとまず適性があるということで、第一段階はクリアしたらしい。
私は狩りに出かけるには似合わない格好だったので、着替えるように言われた。
今は鼻歌を歌いながら、部屋で渡された服に着替えをしている。
「フンフフーン〜」
「まさか、お嬢様が魔法を使えるとは驚きましたね」
「私もよ。そもそも、覚える機会もなかったし」
「もしあのままだったら、一生知ることもなかったですね」
「……それはそうね」
そう考えると、少し恐ろしい。
あのまま王妃になって、子供とか作って……王妃としてパーティーやイベントに参加して。
別にそれを不幸というつもりはないけど、人生ってわからないものね。。
……そもそも、転生自体がアレだしね。
「もしかしたら、他にも才能があるかもしれないですね?」
「うーん、そうだと良いけど」
「でも、お嬢様は元々身のこなしもいいし器用ですから。ほんと、護衛泣かせですよ」
「そんなことないわよ。ただ、身体の使い方が人より良いくらいだし」
まあ、こう見えて人生は二回目ですから。
弓道もしてたし、多少は身体の使い方が出来ていたのだろう。
あと、才能か……そういえば前世の私は料理人だった。
過労死したし、思い出したくないから封印してたけど。
その辺りのことも、やってみてもいいかも。
◇
……面白い女性だな。
自室にて着替えをしながら、そんなことを考える。
公爵令嬢とは思えないほど、気軽に人に接する姿。
王太子を殴りつける気の強さと、立場を鼻にかけない姿。
こちらにきても、暑さ以外には不満も言わない。
あのような食堂で食べさせても、本心から嫌がってなかった。
もう少し、色々と苦労するかと思っていたが。
「シグルド様、いいお嬢様ですな?」
「ああ、そうだな」
「偽装とはいえ、婚約破棄された公爵令嬢を連れてくると言われた時は焦りましたが……なるほど、あの感じでは相手が悪かったのでしょう」
「ああ、国王陛下から愚痴も言われたよ」
「そうでしたか。相変わらず、あの方も苦労してますな」
ヨゼフは若い頃は王都にいたので、国王陛下を知っている。
なんでも、学校の後輩だったので仲が良かったとか。
ゆえに、ヨゼフは領地で唯一……俺の秘密を知っている者だ。
「子育てをする時間などなかっただろうし、そもそもしてはいけないしな」
「そうですな。前国王陛下が、自分が目をかけた子供に継がせようとして……その結果、双方で争いがありました。そして、結果的に今の国王陛下が即位することに……あの方も予定外のことでしたから」
「そして今回は子育てに口を出さない方針にして……今回の出来事だ。全く、何が正解かわからないものだ」
「物事に正解などないですからな。あるのは、その時々でどう判断するか対処するかだと思います。今の、シグルド様のように」
「そうだな、色々と計算違いなのは否めない。無論、悪くはない意味で」
それにしても、冒険者になりたいとまでいうとは思ってなかったが。
貴族女性の冒険者もいるにはいるが、流石に王家の血を引く女性はいない。
「ほほ、それだけですかな?」
「……何が言いたい?」
「いえ、本気にならないかと心配しているだけです」
「……何をいうかと思えば。俺が結婚をしてはいけない理由はわかってるだろう?」
「ええ、無論です。この家は、弟君であるオルガ様に継がせるのですね」
「ああ、そうだ。そうしないといけない……わかっているさ、そのための偽装婚約なのだから」
少し気になる女性だが、ただそれだけだ。
俺は誰かと人生を共にしてはいけない。
その女性を幸せにすることができないからだ。
あの子は二年経っても二十歳で、器量も家柄も良い。
その後でも、十分間に合うはずだ。
だから……このチクっとした痛みは忘れよう。
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