第8話 適性検査
シグルド様についていくと、外に出て広い庭に案内される。
そこの一角には、何やら案山子のようなモノがいくつか置いてあった。
「シグルド様、ここはなんですか?」
「ここは鍛錬場だ。あそこにあるのは土魔法で出来たゴーレムで、魔法を当てたり武器で攻撃したりする」
「武器の扱いの確認や動作、魔法は命中や精度を高めるのに使うのですね」
「ほう? そういうのがわかるのだな? 経験がないと言っていたが……」
「あっ、いえ……鍛錬をするところは見ていたので」
今世では経験ないけど、前世では経験がある。
高校時代に弓道部だった私は、よく的に向けて射っていたから。
お金がかかる部活だったけど、腕を買われてコーチが色々と便宜を図ってくれたっけ。
「もともと、興味はあったということか。さて、魔法だがどれくらいわかっている?」
「えっと……身体の中に流れる血のようなモノですか? それを意識して放つとか……」
「そうだ。まずは、魔力を感じるところからか……背中に触れるがいいだろうか? 魔力を流した方が手っ取り早い。魔力があれば、これだけでわかるしな」
「は、はい、大丈夫です」
すると意外と大きな手が背中に触れる……緊張する。
実は男性に触れられるのは初めてだったり……仕方ないじゃない!
こっちは前世でも時間も余裕もなかったし、今世では身持ちが硬くないとダメだし。
「……そんなに緊張されるとこっちも困るが?」
「ほ、ほっといてください! むぅ……慣れてなくてすみませんね」
「いや、王妃になる者なら正しい姿だろう。頑張ってきたに違いない」
「……ありがとうございます」
「コホン……それでは行くぞ」
次の瞬間、背中に暖かいモノが流れてくる。
それは異質なモノだったが、すぐに自分の中にも同じモノがあることに気づく。
「これが魔力? ふわふわしてるというか、掴み所がないというか」
「ああ、それが魔力だ。それにしても、最初からわかるということは適正があるということだ。次は、これで属性の適正を見よう」
そう言い、コップに入った水を私の目の前に見せる。
確か、これに魔力を注ぐと適性がわかるんだっけ。
火なら熱く、水なら冷たく、風なら揺らぎ、土ならヒビが、光なら眩く輝き、闇なら黒く染まるだったはず。
「どうやってやるのですか?」
「さっき感じたモノを注げば良い。集めて、掌から出す感じだ」
「わかりました。さっきのを集めて放つ……あれ? 何も見た目は変わらない?」
「いや、この感じは……やはりそうだ。少し冷えている。アリス殿は、水属性の適性があるようだ。ほら、触れてみるといい」
「……ほんとですね」
指を水の中に入れると、常温ではなくひんやりとしている。
いまいち実感が湧かず、ふとシグルド様を見ると……なにやら複雑そうな顔をしていた。
「どうかしましたか?」
「いや、水属性はこの土地にとっては貴重なのでな」
「あっ、なるほど……別に利用しても良いですからね? もちろん、まだ使えるとは限ってませんが」
「しかし……それは」
「平気ですって、わかってますから」
ただ、何もかも受け取るばかりでは私の気分が良くない。
今のままだと、私に利点が多すぎる。
婚約者のフリといえ、私にできることがあればやりたい。
「……わかった。もしもの時は頼むとしよう」
「はいっ、頑張りますね」
「ふむ……それでは、的に向けて撃ってみるとしよう。そこまで感覚があるなら、あとは難しいことはない。自分の掌から水の玉が出る想像をすれば良い。自分の魔力が固まって掌から出る感じだ」
「水が出る想像……詠唱とかはいいんですか?」
「そうだな、最初はやった方が良いかもしれない。慣れた者は必要ないが、詠唱する事で発動しやすくはなる」
「わかりました。それでは……いでよ水の玉——アクアボール」
次の瞬間、私の体の中から何かが抜ける。
そして……掌からバスケットボールサイズの水の玉が放たれた!
「わっ!?」
「なに!?」
それは勢いよく的に当たり……激しい衝撃音を鳴らす。
すると、的が折れ曲がっていた。
「あれ? えっ?」
「なんと、ただの水の玉が的を折るとは……どうやら、君には魔法の才能があるらしい」
「そ、そうなのですか?」
「水魔法は回復魔法を使える故か、威力がそもそも弱い。いやはや、とにかく冒険者になるのは問題なさそうだ。もちろん、狩りをしてから判断するが」
「やったぁ!」
「おいおい、まだだと言ってるだろ」
「えへへ、それでも嬉しいんです」
だって、魔法が使えた。
これで、まずは第一歩を踏み出したってことだ。
……どうしよう? なんだかワクワクしてきたかも。
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