第3話 契約成立
その後は、落ち着くまでゆっくりと過ごしていた。
噂もそうだし、国王陛下が王太子に対処するとか。
なので、久々にのんびりしていたら……ある日、お父様に部屋に呼ばれた。
「……へっ? お父様、いまなんて?」
「うむ……私も驚いたのだが、 お前に会いたいという男性がいる」
「法律で決めれていないとはいえ、婚約破棄されたばかりの令嬢にですか?」
「それはな……」
一応、暗黙の了解として婚約破棄をしたら半年から一年は期間を空ける。
そうしないと元々乗り換えるつもりだったとか、すでに不貞をしていたと言われたりする。
「どんな方ですか? お父様が私に伝える時点で、それなりの家柄と人柄はあると思いますが」
「相変わらず察しがいい。相手は辺境伯シグルド殿だ」
「辺境伯シグルドって……あの!?」
「ああ、あのシグルド殿だ」
辺境伯シグルド。
それは王都から遠く離れた辺境の地である、ローレンス領地を納める若き当主。
眉目秀麗で女性に人気だが、氷のように冷たい男とか。
剣の腕と風魔法の使い手で、辺境の奥地からくる凶悪な魔物や魔獣を退治するとか。
まさしく、国の守りを担う存在だ。
「どういう理由ですか?」
「それがわからんのだ。国王陛下が、事情はどうであれお主は王都には居づらいだろうと。そして、たまたまシグルド殿に話したらそういう話の流れになったらしい」
「はぁ……まあ、居づらいのは確かです。それに、貰い手もいないでしょうね。別にいいんですけど」
公爵令嬢とはいえ、いづれ王位を継ぐ王太子に婚約破棄された者など誰も欲しくはない。
良くても正妻ではなく、側室か愛人といったところか。
「うむ……私としてはお前が決めればいいと思う。王太子の婚約者の件は、我々で決めてしまったからな……今更だがすまなかった。いずれまともになると思っていたが……人はそう簡単に変わらないらしい」
「いえ、お父様は悪くありません。きっと、私の配慮が足りなかった部分もありますし。まだまだ若いので、これからでも間に合うかと」
「相変わらず落ち着いてるな。ゆえに今回の出来事が許されたわけだが。それだけ、我慢の限界だっだということだ。それで、どうする? 返事はゆっくりでいいとは言われたらしいが」
辺境の地……そこは自然豊かで、王都みたいにきらびやかな世界ではないという。
危険は確かに多いけど、そこでなら自由に生活ができるかな?
でも、正直もう恋愛事はめんどくさい。
「うーん……ひとまず会ってみたいですね」
「それは当然だな……だそうだ、シグルド殿?」
「わかりました」
「へっ? ……いつの間に」
振り返ると、いつの間にか背の高い男性が立っていた。
モデルのようなスタイル、サラサラの銀髪に噂通りな眉目秀麗な容姿。
まさしく、貴公子といった感じだ。
「すまぬ。盗み聞きをするつもりはなかった。一応、最初からいたのだが……」
「私が気配を消してくれと頼んだのだ」
「お父様?」
全然猫をかぶってない普段通りの姿を見られてしまった。
貴族然とした口調や姿は、私にとっては仮の姿だ。
「お前は人の前だと素直にならないからな。いつも、貴族の娘であろうと仮面を被っているのはわかっている……家や私の為に」
「それは……」
「いや、言わんでいい。とにかく、今更だがお前には自由になってもらいたい。辺境であれば、王都の話も薄まるだろう。もちろん嫌なら断っていい」
「お父様……わかりました」
「うむ、私は少し部屋を出るから二人で話すといい」
そう言い、お父様が部屋から出て行く。
家の中とはいえ、見ず知らずの男性と二人きりにさせるとは……。
なるほど、お父様の信頼も厚いってことね。
「えっと、取り繕っても仕方ないので……初めまして、アリス-カサンドラです」
「俺の名はシグルド-バルムンクだ」
表情が一切動かない……氷の貴公子って言われるわけね。
でも、逆に楽かも。
この容姿のおかげで、男性からはアレな視線を向けられてきたし。
「はい、知ってます。それで、私に会いたいと申し込んだ理由はなんですか? 間違っても、惚れたからなんて嘘は言わないでくださいね?」
「……ははっ!」
「へっ?」
前言撤回、すぐに表情が崩れた。
笑った顔は幼く見えて少し可愛らしい。
「いや、すまぬ。なるほどなるほど……王太子を殴るという女性に、試しに会ってみようと思ったが……これは面白い」
「……説明をしてください」
「ああ……実は、俺は結婚するつもりはない。しかし、周りはそうはさせまいと煩くてな。何より、寄ってくる女性達も面倒だ」
「では、私を隠れ蓑に使いたいと?」
「話が早いがそういうことだ。ひとまず婚約という形にして、建前としては好き同士ということにしてもらう。ただし、領地では基本的に自由に過ごしていい。そして、二年ほどたったら解消する。後は君の好きにしていい、何をしようが私の方は気にしない」
……理由は言えないけどって感じね。
とにかく、二年間は結婚したくないと。
それは私にとってもメリットがあるわね。
二年も経てば噂も収まるし、その間にしたいことを考えても良い。
「わかりました……その話をお受けします」
「即決か……本当にいいのだな?」
「ええ、よろしくお願いします」
私が手を差し出すと、シグルドさんが手を握る。
これにて、契約は成立したってわけね。
……どんな生活が待ってるのか楽しみだわ。
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