向日葵

葵れぜ

 

 2005 8/5 

「ねぇ、あおい。大人になったらみうとけっこんしよ!」

「いいよ!!」

「…!!…約束ね///!」

「うん!約束!!」

 小さい頃に向日葵畑で交わした約束。18になった今でも憶えている。


 2019 3月

 俺は4月から晴れて東京の大学に進学する。

 受験も終えて、呪縛から解放されたので気分転換に散歩をする。

 美羽、今どうしてるかな。

 中学までは一緒だったが高校は別の所に進学してしまい、それからは連絡も碌に取り合ってない。

 もう、俺の事も忘れたかな。あの約束も。

 ちょっと遠くの公園へ来た。

 美羽とよく遊んだ公園だ。懐かしさに浸っていたら、後ろから声を掛けられる。「葵?」

 少し低くなっているが聞き覚えのある、耳に、脳にこびりついて離れない声。

「…美羽?」

「えっ、久しぶり。何してるの?」

「あー、受験終わったし気分転換に散歩してた」

「そうなんだ」

 会話が途切れる。気まずい空気。

「大学この辺?」

「あ、いや、東京」

「え!すご!おめでとうじゃん」

「…ありがとう」

 照れ臭くなり俯きがちに礼を言う。

「そっか…東京か…じゃあまた離れ離れだね」

「あー、そうなるな」

 たく、本当に素直じゃねーな。俺。

「…あっ、じゃあそろそろ私行くね」

 何か言いたげにした美羽はそう言い立ち去ろうとする。

 おい、いいのか俺。このままで。また離れて。このまま引き止める事もできずに、何もできずに別れて。

 考えるより先に身体が動く。

「美羽!」

 美羽が振り返る。

「どうしたの?」

「あのさ、東京に行って離れちゃうけどまたこうして会えないかな」

 目を見開いて驚く美羽。

「…うん!会えるよ」

「…へへ、そっか…良かった」

 自分の言ったことに恥ずかしくなり美羽から目線を外す。

「ねぇ、LINE交換しよ」

 美羽からの提案。

「あっ、そうだな」

 QRコードを読み取り、交換する。

「これでまた会えるね」はにかんで笑う美羽。

 身体が熱くなる。心がドギマギする。

「ああ、会えるな」

 スッと息を呑む。

「なぁ、今年の夏休み帰ってくるからさ、覚えてたら向日葵畑で会いたい」

 一瞬考えるような表情をして俯くがすぐに顔を上げ

「もちろん!約束ね!」

 そう言った美羽の笑顔は忘れもしない、あの頃の美羽の笑顔のままだった。


 そうして俺は東京へ一人飛び、慣れない環境と大学の課題に苦戦しながらも何とか夏休みを迎えた。朝四時半、起床。はやる気持ちを抑えきれず身支度を高速で済ませる。予定よりも早い電車で向かうことにした。


 目的地に到着する。

「ただいま。久しぶり」

 地元に帰ってきたのでとりあえずの挨拶をする。

 それから実家へひとまず行き、荷物を置いたり小休憩をとる。

 時計を見て、そろそろ出るかと立ち上がる。

「いってきます」と一声かけて家を出る。

 正直な話、LINEを交換したもののお互い忙しく、全くと言っていいほど連絡を取っていなかった。

 今回帰省することも、約束の話もしていない。これに関してはわざと。賭けてみたくなった。試したかった。

 美羽が約束を憶えていてくれていることに。美羽に甘えた。向日葵畑に向かう途中で、花屋に寄る。

 そこで向日葵を11本購入する。


 予定より数十分早く着く。

 小走りで来たせいで軽く息が上がってしまっている。

 息を整え、心を落ち着かせる。

 大丈夫、美羽は来る。そう信じて待つ。

 数分後、美羽が小走りでやってくる。

「葵!お帰り」

 息を切らしながら駆け寄ってきて言う。

「…美羽、憶えてくれてた…」

 泣きそうになるのを必死にこらえながら

「美羽、ただいま」

 そう言う。

「うん、おかえり」

 涙目を拭い、美羽に花束を渡す。

「美羽は憶えてるかわかんないけど、14年前に誓った約束、果たしたい」

 そうは言ったがこれは建前のようなもので、美羽があの約束を憶えていようがいまいが関係ない。

 俺は美羽が好きだ。

 14年間言えずにいた気持ちを今、伝える。

「村山美羽さん。俺はあなたのことがずっと好きでした。これは俺の気持ちです」

 そう言って俯き、11輪の向日葵を渡す。

 返事はない。

 向日葵も受け取ってもらえていない。答えはノーか。

 堪えていた涙が溢れ出そうになる。だめだ俺、泣くな。耐えろ。

 そう言い聞かせ、泣かないように耐える。

「…足りない」

 美羽が花束を受け取りながら呟く。

「へ?」思わず変な声が出る。

 足りない?なんのことだ。

「え、足りないって…どういう…」

 俺の言葉を遮るように美羽が言う。

「あと97本足りない。この向日葵、11輪しかない。約束果たすなら後97本足りない」そう言って涙を流す美羽。

「でも、ありがとう。嬉しい。すごく嬉しい。約束憶えてくれてて」

 涙を流しながら無邪気な笑顔を見せる美羽。

「…当たり前だろ。好きな人と交わした約束、忘れることなんて出来ないよ」

 自然に涙が溢れ出てくる。視界がぼやける。

 いくら拭ってもぼやけたまま。

「泣かないつもりだったのに。ダサいよな」

 美羽は何も言わずに俺のことを抱きしめる。

「ダサいわけないじゃん。それに私だって一緒でしょ」

 美羽を強く抱きしめ返す。

「だな」

「なぁ、美羽。約束果たせたってことでいいの?」

 美羽はパッと俺から離れ、考え出す

 。途端に不安に煽られる俺。

「み、美羽…?」

「約束は結婚じゃん。葵が渡してきた数だと意味が変わってくるけど~?」

 いたずらな笑みを浮かべて言う。

「いや、そうだけど…いきなり結婚はどうかと思って…」

「私は別に構わないけど」

「と、とりあえずお付き合いから!」

「ん~、意気地なし」

「好きに言え」

「ふふ、まぁ気長に待つとしよう」

「ああ、残りの97本はまたその時が来たら渡すよ。約束」

「へへ、新しい約束…」嬉しそうに笑う美羽。

 つられて俺も笑う。

 いつしか二人の涙は止み、笑顔に変わっていた。


 そこに咲き誇る無数の向日葵たちより、燦々たる太陽よりも輝かしい笑顔に。

 FIN

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向日葵 葵れぜ @aoi_reze02151219

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