第7話 皇帝の話


 ☆☆☆

 政を終えて夕刻のこと。

「さて、これからどうするか」 


 徳妃は十月十日物時間をかけてはぐくんだ。

 よくやってくれたが誕生したのは女児。


 徳妃とその侍女たちや用意した乳母たちは

 赤子を見事に守り、慈しんでくれている。


 赤子は今のところ順調に育っているようだ。


 女児は外交の手札とはなるが、正直男のほうが好ましい。


 まだ先は長い。


 結局のところ、三妃ともに経産婦になった。

 経産婦となれば次も期待しやすいはずだ。

 

 徳妃に関しては昼間子供の様子を見に行く時間を取っている。

 朝のひと時の時もあれば執務終わりの夕刻であったりはする。


「主上はまだ十八なのですからあせらずともよいのでは」

「赤子の育ちにくさをなめてはならないだろう」

 現に三人のうち二人が死産とくれば悠長なことを言ってはいられない。


「不衛生なのではないか。侍女を増やして

 より清潔にさせることも必要だろうな」

 目につくほど汚いとは思わないが、

 産後の肥立ちが悪いのは考え物だ。


「今日はどの妃の元に向かおうか」

 皇帝個人としては貴妃のもので一夜を過ごしたい。


 精神的に一番癒されるのは貴妃なのだ。


 そして勢力的にも好ましい。

 貴妃が男児を産んだ方が、政の勢力図にそれほどの代わりはない。

 だが、嫉妬深い淑妃をそのままにしておいていいものだろうかと考えもする。

「賽を振ろうか」

 奇数ならば貴妃。偶数ならば淑妃。

 出た目は――


「唐突のおこしであらせられる」

「まぁ。そなたの顔が見たくなったのだ」

「まぁ嬉しいことですわ。今日はどのような香を焚きましょうか」

「うん。いつもの香でよい。あれはなぜか安心するんだ」

「喜んで」

 いそいそと香の確認をさせる淑妃。

「なぁ、欲しいものがあるんだが」

「何でございましょうか」

「子だ」

 次世代を担う子供たち。女児は生まれたが、まだたりない。

「そなたのような美貌あるものの子も欲しいのだ」

 淑妃の美貌を受け継ぐ子に会ってみたい好奇心があるのだ。

「まぁ、わたくしもほしゅうございます」

 そうして夜は更けていく。



 ☆☆☆

 同時刻、貴妃と徳妃の元にも宦官の使者が訪っていた。

 貴妃のところには明日向かうと書かれていた。

 貴妃はため息を落とし、使者に告げた。

「明日、お待ちしておりますわ。そうお伝えくださいませ」


 ☆☆☆

 徳妃のところには赤子第一で生活してほしいこと、

 新しい子を無事に産むためにしばらく養生するようにと書かれていた。


「わかりましたわ。お遣いの方もお風邪など召されぬようになさってくださいまし」

 わかっていた。

 ちくりとした胸の痛みもあるにはあるが、

 まずは子を守らねばならない。

 了承したと穏やかな笑みを浮かべて赤子の世話へと戻っていった。

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後宮は王のもの 朝香るか @kouhi-sairin

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