第3話

 横断歩道で歩行者に青を伝えるチャイムが聞こえてきた。

 だが、近くに押しボタン式信号はない。一番近くの信号は、あの――あの事故のあった信号だった。しかし、500m以上離れていて聞こえるはずはない。

 その音が聞こえる。

 さっきより大きく、近く。

 そのチャイムはどんどん近くづいてきた。

 どんどん……どんどん……近付いてきた。

 耳をふさいでも、その音が近寄ってくる。踏切にいるような大きな音で、私の感情を無視して近寄ってくる。


 だれか助けて…


 その音は近付き、やがて、部屋の前まで来たのがわかった。

 扉を開けられないよう、取っ手を両手で押さえる。

 開けないで。

 向こう側のドアノブに手がかかるの気配を感じた。

 ドアノブを握る両の手に力を込めた。

 そのとき、遠くで野良猫がニャアと鳴いた。


 すると、急に音が止み、ドアの向こうの気配が消えた。

 ……。

 やがて、霧が晴れるように周りの音が戻ってくる。隣の部屋の下手でうるさいギターの音も元通りだった。

「今度こそ、助かったの?」

 額にかいたびっしょりの汗が流れて右目に入る。ドアノブから手を放つ。

「何だったの?」

 顔を洗おうと蛇口に手をかけたとき、水道の下の戸棚でゴトリと何か物が倒れる音がした。先週収納をいじったのが良くなかったかな。屈んで戸棚をあけて覗き込むと


 頭だけになった少年と目が合った。


 吐き気がするほどの異臭がする。

 私はその頭を黒のビニールに戻し、口をきつく結んだ。

「明日には専用の冷蔵庫が届くからね。それまで我慢しててね、生首ちゃん」

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あの夜のできごとと今夜の私におきたこと 優たろう @yuu0303

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