裏切られたとしても

三鹿ショート

裏切られたとしても

 私は、恋愛をすることに向いていないのではないか。

 これまで恋人と化した女性たちのことを思い出すと、そのような思考を抱いたとしても不思議ではない。

 最初に交際を開始した女性は、同じ学校の生徒だった。

 異性から愛の告白をされることなど経験が無かった私は浮かれ、相手に尽くしていたのだが、実際のところは私を馬鹿にするために、女性は演技をしていたのである。

 いわく、優等生である私が阿呆な姿を晒すところを見たかったということだった。

 私は、一週間ほど自宅から出ることなく、泣き続けた。

 そのような経験をしていたために、次なる恋人を作ろうとは思っていなかったが、心優しい女性に出会ってしまい、その決意が揺らいだ。

 親しくなると、やがてその女性が私に対して、愛の告白をしてきてくれた。

 心優しいこの女性ならば、私を裏切ることはないと考え、私は首肯を返した。

 だが、私は再び裏切られた。

 その女性は愛情に飢えていたために、私以外の男性とも交際をしていたのである。

 眼前の女性の愛情を他の男性たちと山分けしているような状況に、私は耐えることができなかった。

 そのような経験を繰り返したにも関わらず、私は他にも多くの異性と恋人関係に至った。

 思い出すことも避けたいような経験をしていたものの、私が多くの女性と交際をしている理由は、単純である。

 私は、その相手に対して好意を抱いていたからだ。

 ゆえに、たとえ裏切られようとも、恋人に対する私の愛情が消えることはなかった。

 厄介な性格であることは、自覚している。

 しかし、私が心を奪われてしまうことは、止めることができないのだ。


***


 私の女性遍歴を知っている彼女は、私が恋人に裏切られる度に慰めてくれていた。

 幼少の時分からの仲であるために、彼女以上に親しい人間は存在していない。

 気が置けない彼女ならば、彼女こそ恋人にするべきではないかと考えたこともある。

 だが、そのような選択をした場合、彼女もまた、私を裏切るのではないかと不安になってしまうのだ。

 彼女が不貞行為を働くような人間ではないことは理解しているが、それは私が見ている彼女の姿であり、私が見ていない場所ではどのような言動をしているのかは不明である。

 だからこそ、私は彼女と一線を越えることはなかった。

 しかし、酒に酔った彼女の一言で、私の決意が揺らいでしまう。

「あなたは多くの女性に悩まされてきたようですが、私ならば、そのような経験をさせることは無いでしょうね」

 そう口に出してから、彼女は恥ずかしそうに酒を呷った。

 誤魔化すかのように口数が多くなったことや、常よりも顔が赤いように見えるのは、酒が原因ではないだろう。

 私は、何時からそのような感情を抱いたのかと問うた。

 私が神妙な顔つきをしていることから、冗談を口にするような状況ではないと考えたのだろう、彼女は頬を掻きながら、

「初めて出会ったときから、私はあなたに心を奪われていたのです」

 その言葉に、私は驚きを隠すことができなかった。

 これまでの彼女の言動は好意的なものだったが、それが恋愛感情によるものだとは、つゆほども考えていなかった。

 私が多くの異性と交際をしている姿を、彼女はどのような感情で見ていたのだろうか。

 彼女が自身の想いを伝えることも可能だっただろう。

 だが、私が彼女と同じような感情を抱いていない場合、今後の関係性に影響が生じてしまうのではないかと考えたことで、二の足を踏んでしまったのかもしれない。

 そのような不安を抱いてしまう気持ちは、理解することができる。

 私もまた、彼女と同じような不安を抱いていたのだ。

 彼女と交際する未来を想像したことは、一度や二度ではない。

 一方で、裏切られてしまうのではないかという恐れも存在していたが、愛の告白をすることで、今後の関係性が悪い方向に進んでしまうのではないかと、私は恐れていたのだ。

 しかし、最初から彼女と交際していれば、多くの女性に煮え湯を飲まされることもなかっただろう。

 私は、選択を間違っていたのかもしれない。

 これほどまでに一途な人間ならば、私を裏切ることもないだろう。

 彼女は、私との関係性が悪化することを恐れながらも、己の気持ちを晒してくれた。

 そんな彼女の恋人と化すためには、私もまた、正直でなければならない。

 私は、彼女に隠し事をするべきではないのである。

 ゆえに、今後は彼女だけを愛するということを誓うために、私は彼女に対して己の秘密を明かすことにした。


***


 冷凍室に並んだ女性たちを見て、彼女は言葉を失った。

 だが、そんな彼女に構わず、私は彼女の眼前で女性たちの処理を開始していく。

 裏切られたとはいえ、かつての恋人たちに対する愛情が消えることはなかった。

 だからこそ、物を言わぬ状態と化すことで、女性たちの裏切り行為を無かったことにしようと考え、保存していたのである。

 しかし、彼女を一途に愛することを決めた今、かつての恋人たちは邪魔だった。

 一人一人の凍った肉体を、丁寧に破壊していく。

 何時の間にか彼女が姿を消していたが、しばらくすれば戻ってくるだろう。

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