第6話 最悪の世界

 私は机に向かい勉強をしていた。将来は教師に成りたくなったからだ。


 朝早く起きてみっちりと勉強する。濃いブラック珈琲を飲むと、また、勉強に戻る。


うん?


 唯からモーニングコールがくる。


『起きていたの?つまんない……』


 相変わらず意味不明だ。私が電話を切ろうとすると。


『ま、待って、私いま、裸なの』

『要らん、情報だ』

『温めて、ウサギちゃんは独りにすると死んじゃうの』


 私は息を大きく吐くと唯の相手をする事にした。


『ジャスト、一五分だ!』

『はい、ありがとうございます』


 何気無い会話を一五分すると、唯と別れを告げる。と、言ってもまた教室で会うのだが。


 平日は何時もこんな感じになった。


 子供食堂は寄付が集まり、安定した経営が実現した。


 でも、何か虚しい。


 この世界は最悪だ。そう、最悪だ。


***


 一ヶ月前。


 私は自宅にて平凡な日常を過ごしていると。突然の知らせであった。ライタ君が入院したとの知らせだ。母親から暴力を受けて入院したらしい。


 どうする?会いに行くか?


 しかし、私は無力だ。彼に何も出来ない。その後、ライタ君は離婚した父親に引き取られることになり。


 この街から引っ越すので、子供食堂で最後のパーティーを開く事になった。


 私はライタ君が引っ越すことが理解できなかった。


 子供じゃあるまし、大人の事情だと頭ではわかっていたが、気持ちの整理が出来ないでいた。


 そして、日曜日の礼拝の後、子供食堂に向かう。パーティーの準備の為に早く教会を出るのであった。


 最後ぐらい、最後ぐらい……。


 私はライタ君に何ができる?


 ……最悪だ、この世界は最悪だ。


 そして、子供食堂に着くと皆がふさぎ込んでいた。


「ロリコン、何故、ライタ君は引っ越すのだ?」

「母親と暮らせなくなったからだ」


 女児は泣き出してしまう。これは苦行そのものであった。


「はいはい、今日はケーキを買ってきました。贅沢をして気持ちよくライタ君を送り出しましょうね」


 唯は強いな……この子供食堂は仲間意識が強く、仲間の不条理な引っ越しを悲しんでいた。


 パーティーが進むとライタ君の最後の挨拶をする事になった。


 「みんな……携帯は無いから手紙を書くよ」


―――……。


 再び、一ヶ月後。


 今日は日曜日、教会の礼拝の終わった直後の事であった。


「会いに来たよ」


 それはライタ君であった。


「何だよ、手紙を書くのではなかったのか?」

「唯さんとロリコンの顔が見たくなったからだ」


 私は勘違いをしていた。それはライタ君は予想以上に強く感じられたからだ。


「教会で子供食堂の皆を集めてパーティーだ」

「唯……」

「えへ、私はビキニでご奉仕よ」


 唯のアホさ加減が戻ってきた。私は目を瞑り、大きく息を吸う。


 そして、息を吐くと、私は生きている実感を感じるのであった。

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ロザリオを拾ったらクラスのシスターからモテモテになる件 霜花 桔梗 @myosotis2

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