第5話 お金がない

 時間になったので二人で子供食堂に向かう。唯は少し元気が無い。


「唯?どうした?」

「子供食堂の資金繰りが厳しいの」


 お金か……こればかりは私にはどうしようもない。


 イヤ、募金活動なら出来る。それとも、クラウドファンディングで集めるか?


 無理だ、小規模の子供食堂でのネットを使った資金繰りは難しい。


「駅前でチラシを配って子供食堂の体験奉仕活動を募集してみては?」

「それ良いアイデアね、流石、五月病だけの事はある」


 おいおい、何故、私の代名詞が五月病なのだ?


 私が問いかけると。


「でくのぼうの方がいいの?」

「……五月病でお願いします」

「よし、元気が出てきた。チラシ作るぞ」


 唯は凛とした表情になる。それは誰もが惚れる様な輝きに満ちていた。


 そして、子供食堂に着くと。


「あーロリコンだ!」


 また、女児達に囲まれて遊んでと頼まれる。私は渋々、女児達の相手をする。


 男子は唯の方が良いらしい。まったく、ませた子供だ。


 私はこの時間が特別な思いでいるのだ。子供食堂の体験奉仕できっとお金が集まるはずだ。


 私と唯はファミレスにノートパソコン持ち込んで、子供食堂の体験奉仕のチラシを作っていた。


「デザインはなるべく分かりやすくて、スマートな感じがいいわ」


 えーと、ならここをこうして……。


「イラストを入れたいね」


 イラストか……AI画像を勉強しなければならないのか?


「大丈夫、私が描くから」


なら、この部分は空白にしてと。


「私の携帯番号を入れないと……」

「ダメだ、個人の携帯番号は載せられない。教会の番号を使おう」

「おおお、完成が近づいてきたな」


 唯は上機嫌になり。笑顔がこぼれる。


「しかし、イラストはスキャナーが必要だがあては有るのか?」

「高校の職員室の複合機を使わせてもらおう」

「可能か?学校のパソコンに取り込まれるのだぞ」

「子供食堂はNPOだから許可がおり降りやすいはず」


 さて、作業が一段落した。ファミレスで頼んだ物はドリンクバーとポテトの盛り合わせだけだ。作業をしたらお腹が空いた。


「唯、ご飯を食べるか?」

「はい、食べましょう」


 えーと、私はハンバーグセットと。唯はナポリタンスパゲッティを頼んだ。そして、ハンバーグセットが届くと……。


 唯の顔がωになる。何か思いついたらしい。


「ここにサイコロがある。一の目が出たら私のおごりで他の目が出たらハンバーグにタバスコだ」


 ゲームか……。


 面白い、受けて立つ。


 ……。


 さて、このタバスコだらけのハンバーグは美味しいかな。一口食べると意外にいける。


 ホント、唯と居ると退屈しなくて済むな。


 土曜日、駅前でチラシを配る事にした。しかし、足早に歩く人々に興味は無いらしく。チラシを受け取ってもくれない。


 これが現実なのか……。


 心が折れそうになるが。唯は元気であった。


「シスターの制服の方がいいかな?」


 一葉さんみたいにコスプレ効果を求めるのか?


 ダメもとだ。一度、出直してシスターの姿でチラシを配る。胸に光ロザリオが印象的であった。


……。


 効果絶大、足を止めてチラシを見てくる人が多数になった。


「おおお、神の祝福に違いない」


 唯の言葉に、否定はしないが、この神様と言う存在を本気で信じたくなる気分だ。


 しかし、なあ……。


 初詣も行きたいし、家には仏壇がある。何よりここは日本だ。ミッション系スクールは有るがクリスマスに騒ぐ程度だ。世界販売されているゲームソフトにはイースターがあるが私にもピンとこない。


 このまま、日曜日の礼拝だけで済まそう思う。


 そんな事を考えていると。


「これ、この電話番号に連絡すれば良いの?」

「はい、お待ちしています」


 唯は小さくガッツポーズをする。


 それは好感触の連続であった。


 そして、子供食堂の体験奉仕の日である。人数が多いので教会の礼拝室を使うことになった。


「ロリコン……私達は何をすればいい?」

「普通にしていればいい」


 うん?


「僕はこの部屋は嫌いだ、神様なんて居ないのに……」


 また、あの子である、確か名前は『未来』未来と書いて『ライタ』だ。


「ライタ君、自分の運命を呪うのは簡単だ、私が幼稚園の頃、ある絵を描いた、その絵は先生方に大いに褒められた。私は生きた証を残そうと、その絵に落款を描いた。しかし、結果は黒で塗りつぶす形になり。私は激怒された。私は生きる証を残そうとしただけなのに、結果は世界を呪う事になってしまった。これは生きる証を残す事の難しさのエピソードだ」


「……」


 黙り込むライタは私から目をそらす。


「これから少しずつ生きる証を残せばいい」


「……」


 これ以上は私にも分からない。今日の言葉をいつの日かに役立てばいい。


「さて、皆さん、今日はとても大切な日です。普段通りでいいけれど、失礼のないように」


『はーい』


 唯が皆に声をかけると子供達の返事が得られた。よし、私も寄付を貰う為に頑張ろう。

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