2話 二つの嘘

 彩芽さんをなんとか口説き落とした後、私たちは連絡先を交換した。色々決まったらまた連絡するので、とりあえず待機しておいて欲しい……といった話だ。

 ……ほーんと、面白い人だったなぁ。ちょっとからかい過ぎたかもしれないけれど、今後にはさほど影響ないだろう。

 

 私──王明寺結花は、彩芽さんに二つ嘘をついた。

 

 一つ目は、昨日のホテルでのことだ。

 泥酔した彩芽さんと共に部屋に入り……雰囲気もあったせいか、私はをするものだと思っていた。しかし……

 

「いやいや! 会ったばかりで体を許すなんてよくないよ! 結花ちゃんは、もっと自分の体を大事にした方が良いと思う!」

 

 ……ホテルにて、彩芽さんに言われたことだ。

 いやいや、自分が連れ込んでおいて何を言ってるんだ? ……とも思ったが。それは彩芽さんなりの誠実さなんだろう。雰囲気に流されやすい性格なのは間違いないが、守るべき境界線はしっかりと心得ている。

 

 まぁ、何が言いたいかというと……私たちは、肉体関係を持っていなかった。

 それなのに、なぜ情事が行われたかのようなフリをしたのか……それは単純明快。彩芽さんを繋ぎ止めるためである。

 真面目な彩芽さんのことだ。そういう演技をしたら、私のことを蔑ろにはできないだろう。

 ふふっ……あーんな面白い人、逃がすわけないでしょ。

 

 そして二つ目の嘘は……まぁ、これも単純なものだ。

『彩芽さんを婚約者にしたいのは、許嫁と結婚したくないから』ということなのだが……これは、ある意味嘘ではない。男と結婚するなんて、まっぴらごめんである。

 

 しかし、彩芽さんを婚約者にしたい一番の理由は……単に、私のタイプだったからだ。いや、ふざけている訳ではない。

 女の子らしさを感じる綺麗な茶髪に、どこか幼さが抜けていないような顔立ち。極めつけは、飛び込みたくなるような大きさに育った、豊満な胸である。

 私の理想の容姿を持ち合わせながら、あの底抜けに面白い性格だ。自分のものにしたいというのも、自然なことだと思う。

 ふふっ……次に会うのが楽しみだな。

 

 私たちの関係は、偽りであり仮初かりそめである。真実で形成されているものはほとんど無いと言えるほど、嘘で塗りたくった関係性だ。

 これから、どのように発展していくのか……興味が尽きない。

 私は新しい生活に思いを馳せながら、彩芽さんを迎え入れるための作業に取りかかった。

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お嬢様に弱みを握られて、恋人にさせられてしまう話 かにわら @nana1207

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