尊い白い部屋の中
kawaiiカレン
尊い白い部屋の中
私、玖珠ルルは鈴原リンリンと奇妙な同居生活を送っている。
ワンルームの間取りでミニキッチンと3点ユニットバスが取り付けられている、一見して安アパートの一室だが、玄関、窓が存在せず外との行き来ができないようになっている。
言わゆる密室で、トイレも風呂も部屋の中にあるのだから実質軟禁状態だ。
それでもなんやかんや、快適と言える生活を私たちは過ごしている。
同居人リンリンは背が高く、健康的に日焼けした肌で身体も引き締まっていて、さっぱりとしたショートカットが似合う可愛い女の子だ。
何かスポーツでもしていたのか健康的な体つきをしていて、細身な私とは大違いである。
一方私は、自分で言うのもなんだが、華奢で色白な女らしい体型をしている。両親の遺伝子が良すぎて美人でスタイルもいい、自信過剰に思われるので口には出さないけど。
「おおお、新作メガモンスタースーパーが発売中ってよ!!」
リンリンはベットで横たわりながらゲーム雑誌を読みながらそう言った。世間から隔離されている為、情報が入ってくるのが遅い。だから気づいた時には既に欲しいものの発売が始まっている時が多い。
「売り切れる前に急いでイチャイチャしないと」
リンリンはベットから飛び起きると、私に抱きついてきた。
「ちょっ……リンリン」
私は慌てて声を上げるも、彼女はそんなのお構いなしに私をぎゅっと抱きしめる。
「んーいい匂いだなぁ」
リンリンは鼻を押し当ててクンクンする。
「やめてよ、恥ずかしい……」
「照れるな照れるな!可愛いぞぉ!どうせ二人しかいないんだし正直になーれ」
リンリンは私の頭をわしゃわしゃ撫で回す。そして満足したのか、今度は頬擦りを始める。
「うぅ〜ん柔らかい〜」
「もうっ、やめなさいよっ!」
私は彼女の顔を両手で押さえると、そのまま押し返した。すると、リンリンは不満そうな顔を浮かべる。
「えぇーいいじゃんか!減るもんじゃないし、メガモンスターの犠牲になれー」
リンリンはそう言うと再び私に抱きつく。
「力つよ!?このゴリラ女!!」
「誰がゴリラじゃこらー!!おめーもっとくっつけー!いちゃつけ!」
リンリンは胸を押し付けてくる。正直苦しいし暑い。だけど、不思議と悪い気はしない。むしろ心地良い。こんなこと本人には絶対に言わないけど……。
そう思ってるとモニターにメガモンスタースーパー購入の文字が出てきた。
「よっしゃあああ!買えたぜ!」
リンリンは雄叫びと共に私を離す。
少しの残念さと寂しさを感じながらも、安堵のため息をつく。
「良かったね、リンリン」
私が微笑むと、彼女も笑顔になる。
「おう!これで明日には遊べるぞ!」
リンリンは嬉しそうに飛び跳ねた。その姿を見て、私もつられて笑みがこぼれる。彼女が笑っているのが私の幸せなのかも、なんて思ってしまう。
彼女が急にスキンシップをとってきたのは理由は欲しいものを言ってイチャイチャすると欲しいものが手に入る。
理由は不明だ。
訳もわからずこの空間に入れられて、半年ぐらい経っただろうか?初めは戸惑ったがルールをなんとなく理解してからは、それなりに楽しく過ごせている。ルールとして1日の初めに0にリセットされるモニターに表示される数字。(リンリンはスコアと呼んでいる)
その数字は時間が経つにつれ増えていくが特に私達が仲良くしていると爆増する。
スコアを上げることの利点は3食のご飯が豪華になることと、欲しいもの名前を言えば貰えるかもしれない可能性だ。的外れな物も結構届くがまぁそこはしかたない。
私達はこの部屋から出れないから、イチャイチャして欲しいものを手に入れて、真っ白の何もなかった部屋を彩っていく。
リンリン曰く、神様からのプレゼントらしい。なんでも私たちが幸せになればなるほど世界が良くなっていくそうだ。
何とも都合の良い解釈だが、実際それで助かっている部分もあるので文句は言えない。
それにこの部屋に閉じ込められてから毎日のようにリンリンとイチャイチャしているので、そんな事を考えながら私はふと思ったことを口に出す。
「ねぇ、リンリン?」
「んーどうしたんだ?」
リンリンはベットの上でゴロゴロしながら答える。
「もしもの話なんだけどさ……」
「うん」
「もし、ここから出れるなら出てみたい?それとも出たくない?」
リンリンはすぐ答えず黙り込む。そして、天井を見つめたまま口を開いた。
「ルルはどっちなんだ?」
質問を返されて言葉に詰まる。
「私は……」
答えようとしても声にならない。私はここから出たいか、出たくないか?そんなの決まっている。
私は死ぬつもりでいた、だからここにいる。だけどリンリンと一緒に過ごすうちに、私は彼女と一緒に生きたいって思うようになった。
でも、それは無理なこと。
だってここは死後の世界なのだから……。
私たちが知り合ったのは、一年ちょっとぐらい前だった。
SNSで自殺志願者が集まるコミュニティに入り、そこで知り合った。
玖珠ルルは本名ではなく、ハンドルネームみたいなものだ。リンリンも当然本名ではない。コミュニティの全員が女性で、年齢は10代後半ぐらいだったと思う。
私は当時18歳で偽り続けた人生に疲れ果てていた。父、母と共に人気俳優、女優の娘として生まれ、私は子役としてデビュー。子役時代から数え切れないほどのドラマ、映画に出演した。
才能があると信じたいが、両親のコネや話題性でのゴリ押しに近い起用だった。私には両親の求める子供像を演じることしか出来なかった。密着番組では私にプライベートなどなく、いつもカメラの前で笑顔を貼り付けていた。
見せ物としての暮らしは、最初は楽しかった。だけど次第に私はカメラの前の自分を演じることが苦痛になっていった。
私は本来女の子が好き。でも、周りには女の子らしさを求められカメラの前で演じ続ける。本当の自分を殺して、偽りの自分を。
でも、どんなに偽りを演じても私は自分の本心を隠し通すことが出来ず、私が私である限り私に縛られ続ける。そんな人生が嫌で死のうとした。
コミュニティに入って半年、私達は自殺することを決意した。
SNSで知り合った人達とカフェで待ち合わせをしていた。私が着くと既に2人は席に着いており、私の方に手を振っていた。
「ルルちゃん?こっちこっち!」
「あ、はい……」
リンリンともう一人、今回の自殺の主催をした女の子だ。
「リアルでは初めまして、リンリンです!」
元気よく挨拶をする彼女は明るく元気で、自殺なんてする人間には見えなかった。
「初めまして、玖珠ルルです」
2人が私を見てくる。私は少し緊張しながら自己紹介をした。
「え、玖珠瑠璃じゃん、マジ?瑠璃ちゃんじゃん!やっべー!」
リンリンは嬉しそうに手を叩きながらはしゃぐ。
そりゃ驚くだろう。だって私があの俳優2世、玖珠瑠璃本人なのだから……。
「そ、そうだね……」
私は苦笑いしながら答えた。
「有名人も死にたくなるんだねぇ〜」
「あはは、そうだね……」
「やっぱさ、芸能界とかは辛いの?」
私は彼女の質問に対して首を横に振る。
「私は別に、そこまで辛くなかったかな……」
これは本当。私の周りは私に良くしてくれる人がほとんどだったし、人気俳優の子供ってことでそれなりに優遇されていた。それに、私も子供ながらに演じていたから……。
「じゃあさ、何で死のうと思ったの?」
彼女は不思議そうに聞いてきた。
私はその質問に対して答えることができなかった。いや、正確には答えられなかったんじゃなくて、言いたくなかったのだ……。だから私はこう言ったんだ……。
「秘密だよ」
するともう一人の女性がリンリンに声をかける。
「ちょっと、リンリン!お互い余計な詮索は無しって言ったでしょ!それにお互い本名禁止、ハンドルネームで呼び合う決まりでしょう」
「あぁ、ごめんごめん!ついつい気になってさ〜」
2人のやりとりを見て私は少し笑った。死ぬ前とは思えないほど、明るい雰囲気だったからだ。
「まぁ、お互い色々あったんだし今日は楽しくいこー!」
自殺に楽しいも何も無いと思うが、彼女達は終始明るく振る舞っていた。
何故彼女が自殺しようと思ったのか気にはなったが、自殺を決めた人間同士、踏み込んではいけない領域がある。自分は秘密と言ったのだから、彼女達に聞くのはお門違いだ。
大層なものではないけどカフェで最後の晩餐を終え、私達は主催者の女の子が運転する車で、目的地に向かう。
車の中でリンリンは明るく話していた。
「あのさ、ルルってゲームとかする?」
私は少し考えてから答える。
「まぁ、人並みには……」
するとリンリンは目を輝かせて私の方を見た。
「本当!?私も好きなんだよね!何やってるの?」
ルルと私は車の中でいっぱいおしゃべりをした。
それでもリンリンは、自分のことや本名も明かさない。だけど、今日一緒に死ぬだけの関係でしかないから問題ないだろう……。
ついた場所は山奥の廃墟だった。
「ここだよ、私たちが死ぬ場所」
主催者の彼女は微笑みながら言う。
「結構雰囲気あるね……」と私は素直な感想を言う。
廃墟は周りを森に囲まれているせいか不気味な雰囲気が漂っていた。玄関の扉はもう壊れており、窓も割れているせいで風が吹くたびにボロボロのカーテンが揺れている。
「それで、どうやって死ぬの?」私は尋ねる。すると主催者の彼女は廃墟の前にある大きな石を指差した。
「あれに座ってね」とだけ言う。リンリンの方を見ると彼女は頷いていた。
「ここで死んだらいい幽霊になれるかな?」と私が冗談めかして言うと、リンリンは笑っていた。
「大丈夫だって!ルルは可愛い幽霊なれるよ!最萌心霊スポット間違いなしだ!」
「ほんとかなぁ」
私はそう言って笑う。実際、死ぬのが怖くないと言えば嘘になる。でも今はそれより彼女達と一緒にいる方が楽しかった。
座った後、主催者の女の子は私たちに薬のようなものを渡してきた。
「これを飲めば死ねるよ」と彼女は言う。そして、私達が飲んだのを確認するとこう続けた。
「30分ぐらいしたら眠るように楽に死ねるから。それじゃ、バイバイ」そう言って去っていった。
「あれ、あの人も一緒に死ぬんじゃないの?」と私は疑問を口にする。
まるで友達に別れを告げるかのような軽い口調で彼女は去っていったのだ。
「まぁ、いいじゃんか!」とリンリンは明るく言う。
「怖くなってやめたんじゃないかな?別に私は死ねればなんでもいいよ」
リンリンは笑顔で答える。
「そ、そうだね……」
私は納得してないが頷いた。
そしてリンリンの方を見ると、彼女はどこか寂しそうに笑っていた。
「ルルは死んだらどうなると思う?さっきの幽霊とかの冗談じゃなくてマジな話」
「わからないよ、そんなの……」
私はそう答えることしかできなかった。だって、そんなこと考えたこともなかったから……。
ただ死ねればよかったから。
リンリンはどこか遠くを見るような目で空を見ていた。その時の表情がなぜか印象的だったのを覚えている。
「私は頑張って頑張って頑張った結果がこれなんだ。死んだ後ぐらい、報われたっていいと思わない?だから、死後に幸せが待ってるって信じてる」
私はそれを聞いて、「そっか……そうだよね……」とだけ言った。
するとリンリンは私の方を見て笑う。そしてこう続けたのだ。
「結局。死ななきゃわかんないし、楽しみだな〜」
そう言って彼女は立ち上がり、そして少し躊躇った後、こう言ったんだ……。
「あのさ、一緒に死んでくれてありがとね。なんだかんだ一人は嫌なんだ。人を嫌いになった癖に一人では死ねなかった……。だから、ルルに会えてよかったよ」
「私もだよ……」
私はそう答えることしか出来なかった。
それから私達は30分間黙って待った。
その内、眠気に襲われて私は意識を失った。
そして起きると、この真っ白い部屋にリンリンと一緒にいた。
それで現在にいたる。
「それでルルはここから出たいのか?」
リンリンは私に尋ねてきた。
「わからない、今はどっちでもいいかなって……」
私は少し考えてから答える。するとリンリンは突然笑い出した。
「あははははは!」
「な、何よ!急にどうしたの?」
私は驚いて聞くが、彼女は答えない。しばらく笑った後、彼女はこう言ってきた。
「自殺をしたら、こんな部屋に飛ばされて、私達死んでるのか生きてるのかわからない状態でも楽しくやってる。これって、なんか面白いな!」
「そ、そうだね……」と私は苦笑いする。確かにリンリンの言う通りかもしれない……。
自分を偽るのが嫌で死んだ私にとって、他の人間を気にせずに、自分の気持ちをさらけ出せるのは悪くない。
「ルルが自殺した理由は知らないけど、この部屋は居心地がいいよ。だから私達は一緒に暮らせてるのかもな。私はここでは何にも縛られずに自由に生きられる。ルルは違うか?」
「うん、私もリンリンと同じだよ……」
私はゆっくりと頷く。正直、ここが死後の世界なんて信じられないけど……。でも、確かにこの部屋は居心地がいい。
リンリンは私の返事に満足そうに笑った後、続けてこう言った。
「何もかも忘れて、ここで楽しく暮らそうぜ。少なくとも私はルルとなら一緒に過ごせそうだぞ!生きてても死んでても楽しいなら、どっちでも良くないか?」
リンリンは笑いながら言う。私はその言葉に救われた気がした。確かに私も彼女のように思えたから……。
「わかんないけど、それもいいかもね……別に好きで死にたかった訳じゃないし、私はただ……」
「もういいから!辛いなら忘れてさ、楽しいことだけ考えようぜ!」
リンリンは私に抱きついてきた。そして私の頭を撫でながら言う。
「大丈夫、私が一緒にいるからさ。なんもかんも忘れて楽しくやろうぜ!」
私は彼女の腕の中で泣いた。死んだはずの自分が泣くのは不思議だった。
でも、それ以上にリンリンの優しさに救われた気がしたんだ……。
「ありがとう、リン」と私は呟くように言った。彼女はそれには答えず、黙って私の頭を撫で続けていた。
偽り続けた私の人生。
全てを忘れ、偽りのない私として生きるのも悪くないかもしれない……。
そう思った私は目を閉じる。
「ねぇ、リン……」と私は口を開く。
「なに?」と彼女は優しく返事をした。そして私が言い終える前にこう続けたのだ……。
「愛してるよ。大好き」
今まで隠しとうそうとした女の子が好きな気持ち。
だけど、この部屋は私達以外は誰もいない。
見せ物じゃない、私達だけの空間……。
それなら、もう我慢しなくていいよね?
ライブ配信タイトル
『リアルドキュメント!「尊い白い部屋の中」!玖珠ルル×鈴原リンリン自殺志願者の共同生活24時(190日目)』
コメント
:ルルリンてぇてぇ
『お布施500円』
:カップル成立おめ
『お布施5000円』
:これはいい話
:キマシ
:リンリンもルルたんのこと好きだったんだな
『品物注文ペア指輪』
:お互いの愛に気付き、それを言葉にする……
なんて美しい話なんだ。
『お布施5万円』
動画概要
皆さんいつもお布施ありがとうございます!
自殺志願者である玖珠ルルと、鈴原リンリンの2人が白い部屋で暮らし、お布施だけで何日生活出来るか検証する動画です。彼女達が後何日生き延びることが出来るのか、見届けてくださいね。
尊い白い部屋の中 kawaiiカレン @kawaiikaren
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